消費増税は“同床異夢”状態 官僚の本音は「ともかく増税」

谷垣禎一氏が自民党総裁選に出馬しないことを表明しました。野田佳彦首相との会談で合意した「近いうちに」は、国会会期末ということで密約ができていたのではないかと見ていましたが、完全にハズレでした。解散せずに総裁選になれば、谷垣おろしになるのは自明でしたから、不出馬は当然の帰結と言えます。それにしても谷垣氏はなぜ「近いうちに」で合意したのでしょう。自分自身の政治生命よりも消費税増税が大事だと割り切っていたのでしょうか。総理を目の前に自ら降りる政治家は稀有ではないかと思います。かなり早くから総裁続投に固執していないのでは、という声が自民党内にありましたので、昨年奥様を亡くされたことなどが、闘争心に影響しているのかもしれません。いずれ、時間が経った段階で、「近いうちに」の真相をお聞きしたいと思います。谷垣さんあっての増税決着ですが、消費税増税ですべての問題が片付くわけではなりません。むしろ第一歩です。ところがどうも霞が関のムードは違うようい感じます。同床異夢です。国会閉幕前に「フジサンケイ・ビジネスアイ」1面コラムに書いた原稿を再掲します。
オリジナル→ http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120907/mca1209070500004-n1.htm


 消費増税国会が閉幕する。大幅な会期延長だったにもかかわらず、結局のところ、増税法案以外の審議はあまり進まなかった。

 消費増税財務省の悲願だとよく言われる。慢性的な赤字の国家財政を健全化する使命を負う財務官僚は当然、税収の増加を期待する。だが、実際には、財務省以外の省庁の官僚も、あるいは政治家にとっても増税が“悲願”であることに違いはない。歳入が増えれば、使える予算が増えると霞が関は期待する。永田町もうるさく定員削減や、歳費圧縮を言われなくなる。そう考えるからだ。

 実際、今回の増税論議の過程でも、国民に負担増をお願いする以上は国会議員もということで、定員の削減が俎上(そじょう)にのぼった。だが、結局結論が出ないままに“逃げ切った”。真っ先に平均で7.8%の給与カットが実施された公務員も、これは2年限りの措置だから、2014年度からは元に戻ると信じて疑わない。消費増税で歳入が増えるのだから、給与を減らす必要はもはやないだろう、というわけだ。

 東日本大震災の復興に巨額の予算が付いている国土交通省の官僚は、よもや復興予算が削られることはないと考える。税収が増えるのだから、復興は当然別枠だと信じている。

 毎年1兆円増えるといわれる社会保障費を管轄する厚生労働省の官僚にすれば、そもそも今回の消費増税はすべてを社会保障費に回す、ということで国民の納得を得た増税だ。無駄は排除するにしても、国民の生活や健康・安全に直結する社会保障費の抑制などという話になるはずはない、と考える。

 今回の消費増税では既に「同床異夢」の状態なのだ。

 実のところ消費税率を現行の5%から10%に引き上げて増える税収は13兆円に過ぎないと財務省が試算している。2012年度予算での国債発行を除いた、税収など歳入は46兆円。これが59兆円に増えるのは大幅な収入増だ。

 ところが一方で歳出は国債費を除いて68兆円あまり。いわゆるプライマリーバランス基礎的財政収支)の黒字化には10兆円も足りない。「歳出に問題があるのは百も承知だが、ともかく増税しないとこの国はもたない」と、法案成立前に、ある霞が関の高級官僚OBは言っていた。「ともかく増税」というのが霞が関や永田町の本音だったのだ。

 では、増税法案が通った今、やるべきことは何か。

 少なくとも新たな借金を重ねないで済む単年度での黒字予算を目指すべきだろう。だが、それには最低でも10兆円の歳出削減が必要になる。

 公務員の人件費削減を恒久的に続け、国会議員の定数を大幅に削減。公共事業費も、医療費や年金などの社会保障費も、聖域なく支出総額をカットする。そんな政権が生まれるのかどうか注目したい。(ジャーナリスト 磯山友幸