10月29日に日本経済新聞が報じた世論調査結果によると、野田佳彦内閣の支持率が、前月の33%から20%へ急落した。政権交代による民主党内閣発足以降、菅直人内閣の末期に付けた19%に次ぐ、最も低い支持率だという。一方で不支持率も前月の54%から69%に急上昇した。
野田首相は自民・公明との間で3党合意を成し遂げ、懸案だった消費税増税を盛り込んだ社会保障・税一体改革関連法案を成立させた。霞が関からは「民主党の前の2人(鳩山由起夫・元首相と菅前首相)に比べればはるかに良い」という声が聞かれ、ライバルの野党自民党からも「答弁が誠実そうに聞こえ安定感がある」というため息がもれていた。菅内閣で下落を続けていた内閣支持率も持ち直す傾向が見えていた。そんな矢先の支持率急落である。
重要法案を通過させることが国会の責務
原因の1つは人事への鈍感さ。10月1日に発足した第3次改造内閣の布陣をみて、野田氏に近い閣僚経験者は「本当に野田さんは人事が下手だ」とため息をついた。議員個人の能力よりも当選回数の多い入閣待望組を一掃した人事だと、野党からは揶揄されたが、案の定、"ベテラン"の田中慶秋・法務大臣が週刊誌にスキャンダルを報じられて炎上。就任からわずか23日で辞任した。
臨時国会が招集されたが、国会論戦が始まれば舌禍事件を起こす閣僚が相次ぐのではないか、とメディア関係者は固唾を飲んで見守っている。政務三役の中からも「この内閣は持って3ヵ月と言われていますから」と自嘲気味に語る声が漏れてくる。
もともと松下政経塾出身で大組織で下積みを経験したことがない野田首相は、組織操縦に関心が薄いと言われる。人事も大半は輿石東・幹事長に"丸投げ"しているとされ、それが裏目に出ているのだという。
もう1つは国会運営への鈍感さ。国会審議の与野党協議などは党側に丸投げ。重要法案がいくつも山積しているにもかかわらず、それを通過させようという意欲すら感じさせない。特例公債法案が成立しなければ予算執行が滞る事態になりかねないし、衆議院の一票の格差是正に決着を付けなければ本来、総選挙を実施するのは不可能だが、野田首相からそんな悲壮感は伺えない。
自民党からすれば、「解散・総選挙の時期を明示しないから」内閣支持率が急落した、という筋書きで行きたいところだが、どうも国民のムードは違う。自民党は、谷垣禎一・前総裁と野田首相が党首会談で交わした「近いうちに国民の信を問う」という"約束"を盾に、年内の解散・総選挙を求め、選挙の時期を明示しなければ、特例公債法案などを含めた一切の審議に応じないという戦略をほのめかせている。
だがこれにはほとんどの世論調査で共通するように、国民の支持は得られていない。解散・総選挙の日程と切り離して、重要法案をまず通過させることが国会の責務だ、と考える国民が多いのだろう。逆に言えば、野田首相が谷垣氏をいわば"騙し討ち"にしたのも永田町の駆け引きの1つだと見ているのではないか。
ただし、重要法案が通らない原因が野田首相にある、と国民に見られた場合は話は違う。臨時国会の開会が遅れたことで、野田原因説に世論が傾いたことが支持率急落につながっている可能性は十分にある。
内閣支持率と株価は連動するか
支持率急落のもう1つの原因は、野田首相が経済に鈍感なことだろう。円高の定着に加えて、原発の稼働停止に伴う電力料金の値上げなどエネルギーコストの上昇が、企業業績の先行きに暗雲となっている。個人消費も減速感が強まっている。東北地方には巨額の公共事業費が投じられているが、それが東北地域の経済全体を潤す結果には未だになっておらず、全国にも波及していない。
そうした景気の先行きを占う「鏡」と言えるのが株価の動向である。小渕恵三首相以降の歴代首相の就任前月末の日経平均株価と、退任した月末の株価を比較してみた。
小渕首相は視察先で野菜のかぶを両手に持って万歳し、「かぶ(株価)上がれ」とテレビカメラの前で演じて見せた事で知られる。総合経済対策などで財政出動を繰り返し、景気回復に重点を置いた。在任期間中の株価上昇率は26%に達し、辞任直前には一時、日経平均株価が2万円を回復した。逆に次の森喜朗首相時代は株価が大きく下落(-31%)。兜町などからブーイングを浴びたことも退陣の遠因になった。歴代首相は株価をかなり意識してきたのである。
小渕、森以降の首相で在任中に株価が上がったのは小泉純一郎首相の11%と、安倍晋三首相の6%だけ。小泉氏は構造改革路線を取ったため、外国人投資家などの日本株買いを誘発し、株価は上昇した。安倍氏は今年9月に自民党総裁に再び就任して「日本経済再生本部」を立ち上げたが、経済関連の講演では必ずといって良いほど、首相在任中に株価が上昇したことを持ち出している。
安倍氏は小泉氏の構造改革路線を引き継いだが、福田康夫首相(-26%)は小泉路線の修正に動いたと市場で見られたこともあり、株価は下落した。麻生太郎首相(-15%)はリーマン・ショックに直面、株価は下落した。
民主党政権になってからは株価は低迷から脱することができなくなっている。鳩山首相(-7%)、菅首相(-6%)ともに在任中に株価は下落した。リーマン・ショックの震源地である米国のNYダウがすでにショック前の水準を回復している一方で、日本の日経平均株価はいまだにショック前の7割の水準だ。
では、野田首相就任以降はどうか。就任時点で8,950円だった日経平均株価は就任直後に11月に8,135円まで売られたが、今年3月には1万円を超えた。もちろん、首相の経済政策だけで株価が決まるわけではないが、3党合意を取り付けて、予算を通過させた時期と付合する。ところが、その後、じわじわと下げ、ついに降り出しである8,900円にまで戻っている。
このまま経済が減速する見通しが高まれば、株価は急落することになりかねない。そんな経済への鈍感さが支持率低下となって現れているとみていいのではないか。