大胆な金融緩和と積極財政路線ほぼ確定!? 麻生元首相の副総理兼財務相兼金融担当相で見えた「安倍ノミクス」の方向性

安倍ノミクスの行方に注目が集まっています。人事からその方向性を占ってみました。現代ビジネスにアップされた私の原稿を以下に再掲します。ご一読お願いします。オリジナルページhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/34435



 12月26日に発足する安倍晋三内閣の経済政策の行方に注目が集まっている。総選挙を戦うために掲げた「政権公約」では、いの一番に「経済再生」を掲げ、「デフレ・円高からの脱却を最優先に、名目3%以上の経済成長を達成」するとしている。

 さっそく株式市場は「円安・株高」を先取りする格好で買われ、12月19日には、日経平均株価が8ヵ月半ぶりに1万円の大台を回復した。果たして安倍氏の掲げる「経済成長」は本当に実現できるのか。安倍氏の経済政策、いわば「安倍ノミクス」はどんな政策が中心となるのだろうか。

大きな政府型の積極財政路線に

首班指名前から早々と新聞辞令が相次いだが、中でも早かったのが麻生太郎元首相の「副総理兼財務相」だった。さらには金融担当相を兼務することも報じられた。総裁選への出馬を躊躇していた安倍氏を、いち早く支える姿勢を示したのが麻生氏だったこともあり、副総理で遇するのは論功行賞の意味合いも大きい。

 下馬評では外相の兼務が有力とみられていたが、首相経験者を財務相に据えたのは「経済再生」に向けて麻生氏に大きな役割を期待したいということだろう。経済通を自ら任ずる麻生氏に、安倍ノミクスの中核を任せたという見方もできる。

 また、安倍氏が公約にも盛り込んでいた「日本経済再生本部」も早々に立ち上げることが決まった。さらに民主党政権が封印していた「経済財政諮問会議」も復活。両者の担当相に甘利明政調会長を内定した。麻生・甘利ラインで経済の舵取りを行うことになったわけだ。

 この布陣から考えて、「安倍ノミクス」の行方は、大きな政府型の積極財政政策になりそうだ。2006年の第1次安倍内閣は、前任の小泉純一郎内閣の構造改革路線を引き継いだ。いわば「小さな政府」「規制緩和」路線だったと言える。しかし、どうやら今度の第2次安倍内閣は、その路線は取らない気配である。

 麻生氏は2008年9月のリーマンショックとほぼ同時に首相に就いた。米リーマン・ブラザーズが破綻したのが9月15日、麻生氏の首相就任は9月24日である。首相就任前後から株価は猛烈な勢いで下落していた。福田康夫首相が突然辞任した後を受け、当初はすぐに解散・総選挙に打って出る腹を固めていたが、経済危機を前にして解散を断念せざるを得なくなった。

麻生氏の勘の良さとクー氏の的確な分析
 そんな当時、国際的な金融危機の状況を麻生氏に逐次解説していたのは野村証券チーフエコノミストのリチャード・クー氏だったと見られる。クー氏は麻生氏に最も近いエコノミストとして知られる。

 麻生氏は2008年10月30日に首相として記者会見を行い、経済情勢について説明した。当時はまだ、リーマンショックという呼び名も定着していない。麻生氏はこう語っていた。

「まず金融機関に対する監督と規制の国際協調体制についてであります。今回のサブプライム問題に端を発した金融危機を見ると、次のような問題が挙げられると存じます。1つ目、貸し手側が行ったずさんな詐欺的な融資。 2つ目、証券化商品の情報というものが不透明。 3つ目、格付け会社の格付け手法に対する疑問。このような証券化商品のあらゆる段階において、不適切な行動が見られたということだと思います。

 更にこうした証券化商品が、世界中の投資家の投資の対象になったことで、危機が全世界に広まったと思います。金融機関という、本来、厳格な規制が必要とされる分野におきまして、ここまで大きな問題点を見過ごした監督体制については、大いに反省すべき点があると思います」

 その後、米国や欧州を中心に金融監督当局による規制強化へと進んでいった方向性をいち早く捉え、正しく分析している。麻生氏の経済に対する勘の良さもあるだろうが、背景にはクー氏の的確な分析があったとみていい。

リフレ政策を取るのは確実

 麻生氏はその年の11月15日に首脳会議に出席。ブッシュ大統領ら世界の要人に「危機の克服 麻生太郎の提案」という文書を配布した。その冒頭に使われているグラフはクー氏がしばしば使うものだった。

 クー氏は積極財政派の論客として知られる。「小さな政府」「構造改革路線」を取った竹中平蔵・元総務相とは真っ向から対立する関係と言える。実際、クー氏はしばしば竹中改革を真正面から批判してきた。

安倍氏は総裁選の段階から「2%のインフレ目標」や「大胆な金融緩和」を掲げ、日銀をこれに従わせるためには、日銀の独立性を定めた日銀法の改正も辞さない姿勢を示していた。当初は、元大蔵官僚の高橋洋一嘉悦大学教授などの主張が背後にあると見られていた。金融緩和を行うことでデフレが解消し、インフレ気味の経済になることで自立的に成長過程に入るという主張で、構造改革などはやってもやらなくても同じというスタンスを取る。

 一方で、安倍氏の周囲には、第1次安倍内閣で活躍した「構造改革派」も多い。総裁選勝利以降は竹中平蔵氏も安倍氏に再接近していた。左右両派のエコノミストや政策人が安倍氏の周辺に押し寄せていたわけである。

 そんな中で安倍氏がどんな経済政策を取るのかが注目されていたのだが、麻生氏と甘利氏を重用した人事を見る限り、安倍ノミクスは「大胆な金融緩和」と「積極財政出動」を同時に行う、リフレ政策を取るのは確実なように思える。麻生氏が財務相になれば、再びクー氏が影響力を持つに違いない。

夏の参院選までは積極財政政策を取る
 また、麻生氏が金融担当相も兼務することで、亀井静香氏が始めた「中小企業等金融円滑化法」も軟着陸を目指す方向に動くのではないか。

民主党政権では2013年3月末で期限が切れる円滑化法は廃止することが確認されていた。ただし、「何もせずに廃止すれば5万社が潰れる」と政府内では分析されており、何らかの救済措置が取られる可能性が一段と濃くなってきた。構造改革派が金融担当相になれば、おそらく、ゾンビ企業の整理と銀行資産の健全化を優先していたと思われる。

 甘利氏が日本経済再生本部の担当相となることも、「大きな政府」型の積極財政へと進む可能性を示している。甘利氏は経済産業相を務めた経験から、経産省に近い。2012年11月に政調会長として甘利氏がまとめた自民党の日本経済再生本部の中間とりまとめの下書きは、経産省が書いたと言われるほど経産省の意向が反映されている。「戦略製造業復活プラン」「立地競争力復活プラン」「クールジャパンの国際展開」といった経産省が進める政策が随所に散りばめられている。

 家電業界などを中心に製造業が弱体化していることから、経産省は国費を投入した救済などに動いている。産業政策の中で、いわば「大きな政府」路線を歩んでいると言える。

 第1次安倍内閣では経済構造改革と共に、財政再建が大きな柱だった。社会保障費の増加分の抑制2,200億円などを実行に移した。これが民主党による「医療崩壊」批判などにつながり、政権交代を許した。そうした"反省"から、第2次安倍内閣では、当面、歳出抑制という声は出てこないだろう。政権公約にも掲げた「国土強靭化」方針に従って、公共事業にも予算が大きく配分されるに違いない。

 少なくとも2013年夏の参議院議員選挙まで、安倍ノミクスは積極財政政策を取ることになりそうだ。それで実体経済に火がつけば良いが、一方で、火の車の財政に油を注ぐことにもなりかねない。そうなれば国民から「古い自民党の復活だ」と批判を浴びることになるだろう。