安倍首相の「本気度」がわかる、内閣改造の注目ポイント 読み解くカギは「年内解散」にアリ!?

現代ビジネスに7月27日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49287

財務省からの絶大な「麻生推し」

安倍晋三首相は来週8月3日に自民党役員人事と内閣改造を行う。参院選挙に勝利したことから、党の幹事長、総務会長、政調会長らは残留し、内閣改造も小幅にとどまると見られてきた。

ところが、谷垣禎一幹事長がサイクリング中に転倒した怪我が予想以上に深刻で、幹事長交代やむなし、との観測が広がっている。

大幅な内閣改造になった場合、焦点になるのが経済閣僚の人事。参院選ではアベノミクスを争点として勝利しただけに、経済政策の加速が不可欠になる。景気回復の実感が広がらなければ、高水準を保っている安倍内閣の支持率が一気に下落、政権の足下を揺すぶる可能性が出て来る。

麻生太郎氏の副総理兼財務相は留任するとの見方が強い。メディアの間ではすでに留任と報じたところもある。安倍官邸と財務省の間にはすきま風が吹いているが、その間を取り持つ存在に麻生氏はなっている。

現在、安倍官邸で経済政策を策定しているのは経済産業省出身の官僚たち。アベノミクスの成長戦略などはほとんど経産官僚が仕切っている。ここへ来て安倍首相が「最大のチャレンジ」と位置付ける「働き方改革」でも厚労省の官僚を抑えて経産官僚が仕切っている。

歴代内閣で大きな影響力を持ち続けてきた財務官僚が安倍官邸での経産官僚の跋扈を許しているのは、ひとえに安倍首相の信任を失ったことが大きい。

2014年4月からの消費増税が、アベノミクスによる景気回復の出鼻をくじく結果になったが、「増税の影響は短期間の消える」とした財務省に、首相自身が不信感を募らせ、二度にわたる再増税延期の伏線になった。

そんな中で、財務省の強力な味方になっていると財務官僚が高い信頼を寄せているのが麻生氏なのだ。

財務省の二つの悲願

この春の段階で財務省の悲願は二つあった。ひとつは主税局長だった佐藤慎一氏を事務次官にすること。もうひとつは消費増税の再延期阻止だった。

安倍首相は消費増税を再延期するために、田中一穂事務次官を残留させるのではないか、という観測が霞が関で広がっていた。

田中次官は第一次安倍内閣の首相秘書官である。人事の省内序列を崩したくないことから、何とか佐藤氏を、と麻生氏に働きかけていた。麻生氏は早い段階で「佐藤次官誕生」を請け合っていたとされる。

さらに、増税再延期にあたっては、最後まで抵抗し、財務大臣を辞任する姿勢まで見せた。最終的には財務省幹部が大臣の辞任を思いとどまらせたとされるが、この間、財務省幹部と麻生大臣の信頼感は一段と太くなった。

一部には麻生氏は大芝居を打ったという見方もあるが、財務省幹部はそれを全面的に否定する。それぐらい信頼しているのだ。

そんな麻生氏を財務大臣のポストからはぎとるようなことをすれば、安倍内閣財務省の全面戦争に発展しかねない。それだけに早々と残留確定が流れているわけだ。

もうひとつの焦点

もうひとつの焦点は厚生労働相がどうなるか。

現在の塩崎恭久厚労相は第一次安倍内閣官房長官を務めるなど安倍首相との信頼関係の太さで知られる。一方で、霞が関では「容赦ない仕事師」として知られ、官僚たちに恐れられている。

何せ午前4時の起床と共にメールを送り、国会開会中は朝6時から官僚からレクチャーを受けるという猛烈ぶりで、パワハラだとして週刊誌に批判記事が載ったこともある。

前述のとおり、安倍首相は「働き方改革が今後3年間の最大のチャレンジ」と語っているが、その担当官庁が厚労省で、これをどう動かすかが、今後の安倍内閣の命運を握る。

これまで労働政策には、労働組合の連合と経済団体の経団連が決定プロセスに深く関与し、影響力を保持してきた。

安倍内閣の目指す改革には労使そろって反対する項目もあり、ここをどう抑え込むかがアベノミクスの成否を握ると言っても過言ではない。

塩崎大臣の剛腕を今後も使い続けるのかどうかが焦点だ。一方で、塩崎氏を交代させる場合にはやはり安倍首相が高く信頼する加藤勝信・一億総活躍担当相を厚労相に横滑りさせる可能性が高い。

「年内解散」を見据えている?

アベノミクスの主軸を担う経済財政政策担当大臣を誰に任せるかもポイント。現在は石原伸晃氏で、参院選後には秋の臨時国会で審議する補正予算に向けた経済対策の策定を指示している。

当然、その国会答弁があるため、通常ならば留任というところだが、前任の甘利明氏と比べると存在感が薄いという批判もある。安倍首相のアベノミクスへの本気度を図るバロメーターともいえる。

交代する場合、自民党選挙対策委員長茂木敏充氏や、塩崎氏の横滑りなどの見方が出ている。

影が薄い経済産業相の林幹雄氏の交代説も根強い。今後、原発の再稼働に加え、核廃棄物の最終処分地問題など、政治的なリーダーシップが求められる場面が予想される。もっとも、林氏を大臣に押し込んだのは総務会長の二階俊博氏とされる。「国土強靭化計画」の旗振り役で、公共工事の積み上げに力を注いでいる。

安倍首相の周辺では、GDPギャップを埋めるために財政出動すべきだ、という論者が影響力を持っており、今後、公共工事の積み増しが補正予算に組み込まれる見通しだ。

影響力の強い二階氏が林氏の処遇をどう安倍首相に求めるが大きく影響する。仮に交代となった場合、石原氏の横滑りや、茂木氏が候補になりそうだ。自民党内では中堅議員に経済政策通が育っておらず、アベノミクスの推進を担える役者が少ないことも安倍首相の手足を縛っている。

内閣を絶妙にまとめ上げてきた菅義偉官房長官は、幹事長への転出を望んでいるとの声も一部に聞かれるものの、内閣の要として残留はほぼ確実。

仮に年内から年明けにかけて総選挙に打って出ることを安倍首相が考えているとすれば、主要閣僚の大幅な見直しはやりにくい。

現職大臣で落選した法相と、沖縄担当相はいずれにしても新たに選ぶことになるが、沖縄普天間基地の移設問題がこじれにこじれているだけに、担当相人事を誤ると政権を大きく揺さぶる事態になりかねない。