「経済最優先」に政策の軸足を移すと強調している安倍晋三首相ですが、それを人事で示せるかどうか。海外投資家なども注目しています。現代ビジネスに掲載された原稿です。オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45697
最注目のポストはこれ!
安倍晋三首相は10月7日、内閣を改造する。安全保障関連法案が前の通常国会で成立したこともあり、首相は繰り返し、政策の軸足を「経済最優先に移す」と述べている。
はたして、そのギアチェンジを如実に示すことができる「布陣」を敷くことができるのかどうか。本稿を執筆しているのは10月6日だが、今後、日本の株価を本格的な上昇基調に戻せるかどうかの試金石にもなるだけに、閣僚名簿の発表に注目したい。
「奇をてらうのではなく、しっかりと結果を出せる内閣にしていきたい」。
10月6日に首相官邸で行った記者会見で安倍首相は、そう抱負を語った。アベノミクスの結果を出すには、それぞれの分野で大臣たちが強いリーダーシップを発揮することが不可欠だ。
では、「経済最優先」を示す象徴的なポストはどの大臣だろうか。
注目されるのが「経済再生担当相」ポストの行方だ。2012年末に第2次安倍内閣が発足した際に設けられたもので、アベノミクスの司令塔の役割を果たしてきた。甘利氏はバリバリの改革派というわけではないが、持ち前のバランス感覚で、党内保守派の声も聞きながら、アベノミクスの改革を推し進めてきた。
経済再生担当は直接役所をもたない特命担当で、いくつもの役所の横断的な問題を扱うことができるという建前だが、圧倒的に手足になる役人の数が少ない。
内閣府のスタッフも各省庁からの寄せ集めのため、大臣が求心力を持ち続けるのは並大抵ではない。それを、労働大臣や経済産業大臣などを務めたベテランの甘利氏を据えることで、各省大臣よりも上の“上級相”的な位置づけにしたのだ。
アベノミクスで取り組んでいる様々な改革には、各省庁や監督業界の利権が絡んでいるものが少なくない。それだけに、改革の旗振り役が各省大臣より“小物”では改革は実現しない。
今回の改造でもまっ先に「甘利氏留任」のマスコミ辞令が下ったのは、そういう意味からも当然の事だった。だが、一方で、官邸周辺には、「もはや経済再生でもないだろう」という声もある。アベノミクスの効果で「再生」の段階は終わったというのである。
「新3本の矢」実現に向けて
安倍首相は9月24日に「1億総活躍社会」の実現を目指すとして、「新3本の矢」を打ち出した。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を新しい3本の矢と位置づけた。
それを実現するために、「1億総活躍」担当相を置く方針だという。メディアの報道によれば、そこに甘利氏を横滑りさせる意向だというのだ。
おそらく、横滑りというよりも、タイトルを「経済再生相」から「1億総活躍相」に変えるということなのだろう。その場合、経済再生という言葉が残るのか、それとも消えてしまうのか。
内閣改造後にも発表される予定だという「政策パッケージ」と共に、安倍首相が言う「経済最優先」の中味が見えてくるわけだ。GDP(国内総生産)600兆円を目指すとしているが、具体的にどんな政策を行うことでそれを実現しようというのか。興味津々である。
1億総活躍相はいったい何に取り組むのか。9月24日の安倍総裁の会見にキーワードはある。「多様な働き方改革を進める」というのだ。確かに労働市場改革は安倍首相自身が「岩盤規制」と名指しし、改革に取り組んできたが、なかなか前進していない。
アベノミクスで宿題になっている部分だ。本来は厚生労働相の担当領域だが、厚労相の担当領域は極端に広い。
アベノミクスでターゲットにしている「医療」も「年金」は厚労省の担当分野だし、子育て支援や女性活躍、外国人労働といった分野にも厚労省が深く関わる。そこに強力な助っ人を送り込もうということなのかもしれない。
やはり留任報道が流れた塩崎恭久厚労相をそのまま使うのも、アベノミクスの成否を厚労分野が握っているという思いが安倍首相にあるからだろう。塩崎氏は猛烈なハードワーカーで、その働きぶりは霞が関の官僚たちが悲鳴を上げるほど。
狙いを定めた問題点は潰すまで諦めない性格のため、永田町や霞が関に煙たがる人は少なくない。それでも安倍首相が使い続けるのは、岩盤を打ち破るドリルの刃先としては適任だと見抜いているから。当選同期の安倍首相との信頼関係は深い。
経済産業相も注目ポストだ。これまでは甘利氏の大活躍の下で目立たぬ存在になっていたが、ここにどんな人物が座るのかで、日本の産業構造の改革の進展具合は大きく変わる。
「女性活躍担当相」に大物を据えるか
現在の宮沢洋一経産相には「産業競争力担当」という肩書きが付いているが、ほとんど目立った動きはしていない。日本企業の競争力を抜本的に立て直し、生産性を高めるうえで、新大臣の下で経産省が政策をどう転換するか注目される。
また、電力自由化も本番を迎えるうえ、これまで争点化を避け続けてきた原発問題に本腰を入れるかどうかも問われる。
経済最優先の視点では、地方創生担当相も重要だ。国家戦略特別区域担当ということで、全国の国家戦略特区の指定や、そこでの新しい規制緩和項目の導入などを担当している。
特区での改革は、安倍首相がアベノミクスの成長戦略の柱に位置づけている。ここでどれだけ新しい改革が行えるかが、アベノミクスの評価を大きく左右するのだ。
現在は石破茂氏が大臣だが、ポスト安倍に向けて自身の派閥を立ち上げたばかりで、内閣に残留するのかどうかが焦点になる。石破氏にとっては苦手な経済分野で実績を示すことができる一方、閣僚に名を連ねればアベノミクスの批判ができなくなるというジレンマを抱える。
安倍氏は石破氏に続投を求めるだろうが、それを受けるかどうかは分からない。地方分権を担当する総務相も注目ポストだ。
もうひとつ、安倍内閣の本気度を占う試金石になるのが「女性活躍担当相」だろう。現在の有村治子大臣は、内閣府特命担当相として少子化対策、規制改革、男女共同参画を受け持つほか、行政改革担当相、国家公務員制度担当相の肩書きも持つ。
これまでも少子化対策担当相や男女共同参画担当相は最軽量の大臣として扱われてきた。大臣として実績を上げる前に、どんどん大臣が変わるという憂き目にあってきたのだ。
もっとも、安倍内閣では「女性活躍」が内閣発足以来の政策の柱となってきた。新たに打ち出した「1億総活躍」でも「少子化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する」と宣言した。では、担当相としてリーダーシップを発揮できる「大物」をここに据えることができるか。
内閣改造の顔ぶれから、安倍首相の「経済最優先」に向けた本気度を伺うことができるだろう。