金融円滑化法で試される「新しい自民」

日本は再びゾンビ企業の山になっている可能性があります。事実上経営に行き詰まっていても、銀行などが融資を続ければ企業は存続します。ただ、潰さないというだけのために、潤沢に資金を入れるというのは愚策ですが、これを3年間も続けてしまったのが、民主党の金融政策でした。その処理をどうするのか、3月末までに一応の答えが出るはずです。産経新聞が発行するフジサンケイ・ビジネスアイの1面に掲載された拙稿を再掲します。オリジナルページは→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130116/mca1301160501001-n1.htm


「経済再生」を最重点課題として発足したばかりの第2次安倍晋三政権が、さっそく前政権のツケに悩んでいる。民主党政権で金融担当相を務めた亀井静香氏が残した「モラトリアム(支払い猶予)」のツケである。

 政権交代直後の2009年の12月、「中小企業金融円滑化法」が施行された。中小企業などの借り手が金融機関に返済負担の軽減を求めた際に、できる限り貸し付け条件の変更を行うよう金融機関に求めた法律だ。当初は2年間の時限措置だったが、その後2度延長され、今年3月末がその期限になっている。

 昨年9月末までに行われた貸し付け条件の変更は延べ343万7000件。対象になった債権額は96兆円という巨額にのぼる。これには同じ会社が複数回の条件変更を受けた場合も含まれる。実際、直近では見直し件数の8割が同じ会社による再度の条件変更だとされる。

 民主党もモラトリアムの弊害には気が付いていた。融資条件を緩めたことで、経営努力も緩んでしまったのだ。

 では3月末で法律が切れたらどうなるか。当然、経営再建のメドが立たない問題企業は倒産する。政府の推計でその数5万〜6万社。ツケを一気に払うわけで、景気には大きな打撃だ。

 安倍内閣で財務・金融相に就いた麻生太郎副総理は、就任直後から「延長はない」と発言している。一方で連立与党の公明党からは再延長を求める声が出ている。事実上経営が行き詰まったゾンビ企業を生きながらえさせるのは問題の先送りでしかない。いずれ金融機関の不良債権を増大させ、日本経済再生の足を引っ張る。一方で4〜6月の倒産が激増すれば、短期のうちに景気回復を印象づけたい安倍内閣にとってマイナスになる。

菅義偉官房長官は8日の会見で「期限到来後も中小企業の経営支援を図っていくためにはさまざまな政策が必要だ」と述べた。いったいどんな対策を取るのか。

 金融庁は金融機関をチェックする際の「金融検査マニュアル」に、貸し付け条件の変更に柔軟に対応するよう求める項目を入れることを検討しているもようだ。時限的な法律を無くす代わりに、恒常的に使われるマニュアルに入れてしまおうというのだ。金融検査は、銀行などの健全性を保つために行われるのだが、それと相反する規定になる危険性にあふれている。

 かつて大蔵省銀行局の力が強かった頃、経営者からの依頼を受けた政治家が、役人に銀行への融資継続を指導するよう圧力をかける例がしばしばあった。融資を決める経営者の判断を左右できる権限を役所が持てば、かつての古い金融行政に回帰しかねない。「古い自民党には戻らない」と言い続ける安倍首相の足元で、古色蒼然(そうぜん)として政官業癒着が復活しそうな匂いがする。