「産業の新陳代謝」に切り込めるか

アベノミクスの成否は、産業競争力会議が打ち出す「改革案」にかかっていると見ていいと思います。今の議論からは、かなり議論を呼ぶものが戦略に含まれることになりそうですが、一方で守旧派の巻き返しも予想されます。その1つが産業の新陳代謝。役割を終えた企業は無理に助けずに退場させようという意見ですが、これはこれまでとは全く逆の産業政策だと言っても過言ではありません。フジサンケイビジネスアイの1面コラムでもこの点を指摘しました。オリジナルページは→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130314/mca1303140503013-n1.htm

 安倍晋三首相が掲げる経済政策、いわゆる「アベノミクス」の3本目の矢となる「成長戦略」の策定に向けた議論が本格化している。成長戦略をまとめる「産業競争力会議」(議長・安倍首相)は、テーマ別の会合を設置した。

 テーマには「科学イノベーション・ITの強化」や「農業輸出力拡大・競争力強化」など7つが選ばれたが、いの一番にテーマとなったのが、「産業の新陳代謝の促進」だった。日本経済の長期にわたる停滞の原因が、負け組にもかかわらず倒産しない「ゾンビ企業」がはびこる一方、新規事業や新産業が生まれないことにあるという問題認識が背景にある。経団連副会長でコマツ会長の坂根正弘氏らが強く主張している。このテーマ別会合は坂根氏が取り仕切る。

 コマツは世界でナンバーワンか2の製品に特化する「ダントツ経営」でグローバル競争に打ち勝ってきた。坂根氏はそのコマツ流で沈滞した日本経済にカツを入れようとしているわけだ。

 これまでの政権でも新産業育成やベンチャー企業支援などは繰り返し議論されてきた。だが、今回の産業競争力会議で注目すべきは「新陳代謝」という言葉を使い、競争力のない企業の「退出策」に手を打つ姿勢を見せたことだろう。つまり、国際競争を戦える企業を作るには、強い企業をより強くする一方で、「ゾンビ企業」は潰すこともいとわないというわけだ。1月の初会合で坂根氏が配布した資料にも、「将来勝ち組になるポテンシャルを持つ既存分野に重点投資すべき。弱者救済し、強者をむしばむゾンビ企業の創出にならないように注意」と書かれている。
 これは、ここ20年間に政府が取り続けてきた産業政策の大転換を促しているということもできる。既存企業をとにかく潰さないことに必死となり、弱い企業をさまざまな補助金助成金などで事実上支えてきた。そのとどのつまりが、民主党政権下で実施された「中小企業等金融円滑化法」だった。これによって倒産件数は激減したが、景気がよくなったわけでも、日本の産業が強くなったわけでもなかった。そんな問題の先送りはもうやめにしようというわけだ。

 「新産業育成」といえば、誰しも異存はない。新政策によって助成や減税などの恩恵を受ける人ばかりになるからだ。一方で「退出策」「ゾンビ企業を作らない」となると話は逆だ。「痛み」を被る人が出てくる。当然、政府の新政策への反発も強まる。「新陳代謝」と言った瞬間に「抵抗勢力」が生まれるわけだ。もう一つの難点は、どういう政策を取れば競争力のない企業を淘汰することができるかだ。本来は市場での競争などを通じて淘汰(とうた)されるが、その機能を停止させてきたのが日本だともいえる。競争政策や企業統治の強化を愚直に進めるのか。気鋭の経営者たちが描く処方箋に注目したい。(経済ジャーナリスト 磯山友幸