地方公務員の給与は誰が決めるべきか---交付金を盾に給与減額を迫る国のやり方に苛立ちを隠せない全国自治体

地方自治体の一般職の給料は正直言って高過ぎると思います。その地域の民間企業の平均給与をはるかに上回る水準であるケースが多いでしょう。だからと言って、国が命令して一律に引き下げろと言うのはいかがなものでしょうか。言う事をきかないのなら交付金を減らすぞ、というのも時代遅れの中央集権的発想です。この問題を機に地方自治のあり方を考えるべきでしょう。現代ビジネスにアップされた拙稿を編集部のご厚意で以下に再掲します。
オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35416


総務省は4月5日、「地方公共団体における給与減額措置の取組・進捗状況」を発表した。昨年4月から国家公務員の給与が平均7.8%カットされているのに対して、地方も足並みをそろえるよう政府が求めていることに対する自治体の反応をまとめたものだ。

 調査によると国の指示に基づいて給与を減額する条例を議決するか、議会に提出中の地方自治体は、全国にある市町村(特別区は除く)に都道府県を加えた1766自治体のうちわずか5つ。すでに条例を定め引き下げを決めたのは、北海道芦別市奈良県平群町鳥取県伯耆町、長崎県壱岐市に留まっている。

 そのほか圧倒的多数の自治体は「取組方針を検討中」と回答している。要は様子見を決め込んでいるのだ。

平均7.8%減額することを前提にした交付金

 というのも、いくつもの自治体の首長から「反対」の火の手が上がっているからだ。例えば東京都。猪瀬直樹知事は記者会見で、「一律に指示を出すのはいかがなものかと思う」と反発。国の要請には応じず、公立学校の教職員などの給与は引き下げない方針を示している。総務省の調査にも東京都は「地方公務員の給与は、自治体が自主的に決めるべきだ」と回答したという。

 かといって東京都にならって多くの自治体が据え置きを決めるかというと、話はそう単純ではない。地方自治体は国にカネヅルを押さえられているからだ。地方交付税交付金である。

地方交付税交付金自治体の財政状態に応じて国から交付される。その額18兆円あまり。全国から上がる法人税や消費税など「国税」の一部を地方に再配分することで、格差を調整するのが本来の趣旨だ。ところが財政の厳しい自治体ほど「国頼み」が進み、交付金なしにはとうていやっていけないところに追い込まれている。

 国が何らかの政策を地方にやらせようとする場合、その交付金を武器にするのはある意味当然の帰結だ。実は今回の公務員給与引き下げ要請でも、この交付金が武器になっている。7月分から平均7.8%減額することを前提に交付金の金額を決定しているのだ。

 3月29日の参議院本会議で可決成立した改正地方交付税法では、2013年度(平成25年度)の地方交付税総額を、給与削減を前提として前年度より3,921億円減額、17兆624億円としているのだ。いやがおうでも言う事を聞かせようというわけだ。地方自治体はしばしば「3割自治」などと呼ばれ、国の出先に過ぎないと言われる。まさにそれを証明するかのような事態に直面しているのだ。

 カネヅルを押さえられ、そこから来る金額を減らされては地方自治体は頑張りようがない。給与を維持するにはそのほかの一般歳出を削らなければならなくなる。予算がなくなり自治体の事業が滞ることになりかねない。

地方の方が給与が高いのはおかしい?

 国が地方にも給与引き下げを求めているのには理由がある。給与水準が国を上回る地方自治体が続出しているからだ。

 国家公務員給与を100とした場合の地方公務員の給与水準を示す指標として「ラスパイレス指数」が使われる。この指数はここ数年ジワジワと上昇してきた。2009年4月時点で98.5だったものが、2010年には98.8となり、2011年は98.9になったのだが、2012年から国家公務員が7.8%の給与減額となったことで、一気に107.0にまで跳ね上がったのである。

都道府県だけみれば、最高水準の静岡県(111.7)から最低水準の岡山県(100.2)まですべての自治体で給与水準が国を上回ったことになる。交付税交付金を国からもらっている地方の方が給与が高いのはおかしい、という発想が霞が関にも永田町にも蔓延しているのである。

 だが、地方自治体からすれば、財政が厳しさを増す中で、ここ10年以上にわたって、国に先がけて職員の削減や給与削減に取り組んできたという思いがある。総務省の統計でも1998年度から2012年度までに966の自治体が自主的に給与の削減に取り組み、その累計総額は2兆1,000億円に達するとしている。

 また、首長の給与を大幅に減額したり、議員の歳費を削減している例も多い。永田町の国会議員は震災直後こそ返納したものの、抜本的な歳費削減や議員定数削減に取り組んでいないではないか、という怒りも地方にはある。地方自治の本旨から言えば、給与をどうするかは地方自治体の権限で、国にとやかく言われる筋合いはない、というわけなのだ。

 さらに地方自治体、とくに市町村などの基礎自治体の場合、多くの現業職場を抱え、一般行政職だけを対象に集計するラスパイレス指数だけでは測れない側面が強い。様々な雇用形態や地域性、平均的な県民所得水準との比較など、一律に国家公務員と比較することに意味がないと考えている人も地方には少なくない。

自治体が独自に決められる仕組みを
 今回の給与を巡る国と地方の対立は、地方の自立を考える大きなきっかけになるだろう。地方交付税交付金は、地方自治体が財政を健全化させて黒字になれば、支給されなくなる。一方で万年赤字体質が続けば、交付金は出続ける。つまり、自治体が財政的に自立するインセンティブが働かない仕組みになっているのだ。

 1766自治体のうち、交付税交付金をもらっていないのは2012年度でわずか55。全体の3.1%に過ぎない。都道府県は東京都のみ、市町村では青森県六ヶ所村新潟県刈羽村佐賀県玄海町など、圧倒的に原子力発電所が立地するところが多い。

 つまり、企業の本社所在地だったり原発立地だったりという"特殊要因"がなければ、財政自立できない仕組みになっているのだ。これを見直すには国が税金を吸い上げて地方に分配する地方交付税交付金のあり方自体を見直さなければならないだろう。

 質の高い行政サービスが受けられるなら役所の職員の給与は高くても仕方がない、と考える住民もいるだろう。その分、税金や住民負担が大きくなっても仕方がないという住民の合意ができれば、国に比例して給与を決める必要はない。逆に破綻寸前の財政で国の交付金に支えられているのに、民間よりも高い給与を職員が食い潰しているのでは住民は納得しないだろう。

 地方経済がどんどん「官依存」になり、地方公務員の給与が民間を大きく上回るようになってきているのは事実だ。地方公務員の給与水準を見直すことも必要だろう。だからと言って国が指示して一律に引き下げさせるのは中央集権時代の遺物に等しい。むしろ、それぞれの地域の民間給与水準と比較して、自治体が独自に給与を決められる仕組みを早急に導入すべきだろう。