あの川崎市が「国依存」に転落。五輪赤字で東京都も? 財政自立できない地方自治体が増加

現代ビジネスに8月6日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85932

地方交付税不交付団体、約3割減

地方自治体が財政悪化で「自立」できず「国依存」に転落するところが増えている。

総務省が8月3日、2021年度に国から地方自治体に配分する地方交付税の交付額を決定した。都道府県分と市町村分を合わせた交付額総額は16兆3921億円と、前年度に比べて5.1%もの大幅増加となった。

地方交付税とは、所得税法人税、消費税の国税分などを、いったん国が税収として吸い上げ、地方自治体の財政状態に応じて再配分する制度。どの地域に住んでいる国民でも、一定以上の行政サービスを受けられるようにするという趣旨で設けられている。

この地方交付税交付金を受け取らないで自前で財政運営する自治体を「不交付団体」と呼ぶ。総務省の発表によると今年度は全国で54。前の年度は76だったので、22も減ったことになる。新型コロナウイルスの蔓延による景気悪化で法人住民税や事業税の税収が減ったり、人口の減少で住民税が減っているところが多い。

一方で、高齢化による社会福祉関連費用の増加などが自治体の財政を圧迫している。リーマンショック時の2010年度にはこれまでで最少の42にまで不交付団体が減っていたが、その後、2019年度に86まで回復していたが、再び減少が続いている。

あの川崎市が⁉

今年度、不交付団体から交付団体に転落し、国依存になった22の自治体の中で目を引くのが川崎市東京湾に面した工業地帯を抱え、多くの企業が立地することから企業業績が好調な時には比較的財政が豊かな自治体として知られる。

ところが、今年度は新型コロナの影響で、家計所得や企業収益が悪化。個人市民税で93億円、法人市民税が53億円も減る当初予算を組んだ。その他の税収減を合わせると収入減は180億円にのぼり、リーマンショック時以来、過去最大規模になる見通し。一方で、認可保育所の整備など待機児童対策費などが増え、歳出は増加。財源不足分の一部を国に頼る「交付団体」に6年ぶりに転落した。

この他、神奈川県海老名市や愛知県豊橋市、東京都小金井市国分寺市国立市などが軒並み「交付団体」に転落した。

では、どんな自治体が、財政自立できて、「不交付団体」であり続けているのだろうか。

愛知県は豊田市安城市小牧市など14の自治体が「財政自立」している。トヨタ自動車を頂点とする自動車関連産業が地域経済を支えている。次いで多いのが東京都内の6市(三鷹市武蔵野市など)。さらに神奈川県の5市町と、千葉県の5市が不交付団体だ。いずれも首都圏にあり人口が比較的多く税収が豊かなところが多い。兵庫県芦屋市など富裕層が多く住んでいる自治体も名を連ねる。だが、こうした地域も高齢化が進んでおり、今後は財政悪化を見込んでいるところが少なくない。

そんな中で、地方にあって人口も少ないのに豊かな自治体がある。北海道泊村や青森県六ヶ所村茨城県東海村新潟県刈羽村福井県高浜町佐賀県玄海町といったところだ。いずれも原子力発電所が立地している場所で、電力会社などから地元自治体に協力金などが支払われ、自治体の財源になっている。

オリンピックショック、東京都財政にも陰り

47都道府県の中では、唯一、東京都だけが不交付団体であり続けている。

大企業の本社などが集中し、法人住民税などが多く入ってくることに加え、人口増加が続いていることから住民税や固定資産税なども潤沢だった。圧倒的に財政豊かな東京都だけが自立し、他の道府県は国が支えるという歪な自治体制度が続いてきたのだ。

ところが、その東京都の豊かな財政にも一気に陰りが見えてきた。

東京都の2021年度の税収見込みは5兆3498億円と、前の年度の実績に比べて2820億円減少するとしている。一方で、新型コロナ対策で営業自粛している飲食店などへの独自の協力金支払いなどがかさみ、歳出が大幅に増加。貯金にあたる「財政調整基金」が2020年3月末には9345億円あったものが、2021年3月末で2837億円にまで減少している。

さらに東京オリンピックパラリンピックの無観客開催によって多額の赤字が生じた場合には、東京都の負担になる可能性が高い。今後の景気後退が深刻さを増し、企業からの税収が大きく落ち込むことにでもなれば、東京都の財政がまさかの赤字に転落することもあり得なくはない。

自分の足で立てない地方自治

自治体が財政悪化に苦しんでいる中で、地方交付税交付金制度には大きな問題点がある。自治体が努力をして財政を立て直せば、その分、国からの交付金が減るため、自助努力する意欲が湧かないのだ。最近では「ふるさと納税」制度などを使って、自治体外から寄付を集めることもできるが、税収が増えた結果、交付税を減らされるケースも多い。

オンラインショップ並み品揃えのふるさと納税サイトで人気を博した大阪府泉佐野市は、総務省から目の敵にされた挙句、交付税交付金を減額される憂き目にあった。制度改正でいったんはふるさと納税制度の対象外にまでされたが、最高裁まで争う裁判闘争の結果、勝訴して、制度には復帰したが、集めるふるさと納税の金額は激減した。ふるさと納税の受け入れ総額は2020年度で6724億円と過去最高を記録した。最高といっても地方税収全体40兆円の1.7%に過ぎない。総務省が地方に再分配している交付税交付金の16兆円に比べてもまだまだ微々たるものだ。自治体が創意工夫で切磋琢磨し、税収を集めようとする方が、国に依存して赤字補填を求めるよりもはるかに財政の自立に向けた取り組みとしては健全だと思うが、総務省にはふるさと納税反対論が根強くある。

自治体が自分の足で立つ気力を失い、すべて国にすがるようになってしまったら、もはや自治体とは呼べなくなるだろう。不交付団体の激減は、地方自治体制度の危機を物語っていると言っていい。