伊丹・宝塚市長選連敗で「維新人気」は終わったのか!?  安倍自民党に歩み寄る橋下代表の本音とは

民主党が国民の信頼を失い、参議院選挙はこのままでは自民党が大勝することは間違いないでしょう。ひところ人気が盛り上がった日本維新の会も迷走しているようにみえます。維新はどこへ行こうとしているのでしょうか。分析してみました。講談社「現代ビジネス」のオリジナルページは→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35594

 4月14日に投開票が行われた兵庫県伊丹市長選と宝塚市長選で、日本維新の会の公認候補がともに惨敗した。いずれも現職候補が圧倒的な大差を付けて勝利し、維新人気が関西地域でも予想外に広がっていないことを示した。今年7月の参議院選挙の行方を占う選挙として注目していた永田町では、「維新人気ももう終わり」(自民党幹部)という声まで出ている。

 今回の選挙は、維新が首長選としては大阪府外で初めて公認候補を立てた。伊丹市宝塚市とも前市議会議員の新人を擁立。橋下徹共同代表も応援に回った。昨年の衆議院議員選挙の比例代表では、両市とも維新が得票率トップだったが、首長選ではまったく通じなかった。

伊丹市長選挙は無所属で現職の藤原保幸氏を自民、民主、公明の与野党が相乗りで推薦。これに、みんなの党の推薦を得た維新の公認候補が挑んだ。結果は4万1267票対1万3041票という大差だった。

宝塚市長選は民主党が支持した現職の中川智子氏に、やはり維新公認でみんなの党の推薦を受けた新人と、自民党の推薦を受けた新人が挑んだ。維新候補の得票は2万3561票で、自民党推薦候補の9748票は上回ったものの、中川氏の4万3347票に遠く及ばなかった。アベノミクス効果で自民党系候補が圧勝したわけではなく、維新がいわば自滅したのである。

「政治的な立ち位置」が不鮮明に

「大阪と大阪以外の関西圏では状況はまったく違う」と維新の会の幹部は語る。今回の惨敗は兵庫県首長選挙という「アウェイ」での試合で、ホームグラウンドである大阪での参議院選挙にこの流れが及ぶことはない、というのだ。改革を着実に進めている姿勢は、大阪人には支持されているという自負が、大阪維新の会のころからの幹部にはある。市営地下鉄の民営化に向けた取り組みなど変化は出始めている、というのだ。

 だが、幹部のそんな発言とは裏腹に、世論調査でも維新人気の凋落が鮮明になりつつある。

NHKが行った4月の政治意識調査では、日本維新の会政党支持率は2.1%と3月に比べて1.8ポイントも急落した。1月6.5% → 2月5.3% → 3月3.9%と毎月下落している。3月は民主党政党支持率(6.1%)にも水を開けられ、公明党(3.7%)にも抜かれた。安倍自民党の支持率が1月37.8% → 2月40.4% → 3月40.1% → 4月43.6%と堅調に推移していることもあるが、維新自身の「政治的な立ち位置」が不鮮明になっていることも大きいだろう。

 全国の有権者に最も分かり難かったのが石原慎太郎・前東京都知事が立ち上げた新党との合流。「橋下個人が石原さんが好きだというのだから仕方がない」と維新幹部が呆れるほど、政策議論抜きでの統合が実現した。

 また、橋下氏は安部晋三首相にも接近。憲法改正の発議要件を定めた96条の改正を目指す点などで共闘する姿勢を伺わせている。当初は「改革政党」の色彩が強かったものの、急速に「保守」カラーを強めている。こうした「政党」としての分かり難さが、政党支持率が下がっている理由と見ることもできる。

安倍政権に接近する理由

衆議院で54議席を得ただけで十分。後はキャスティング・ボートを握って大阪の改革を進めればいい」

大阪維新時代からの政策ブレーンは言う。もともと維新の原点は「大阪地域政党」。全国に候補者を擁立したのも大阪の改革を前進させるためだったというのだ。安倍政権と接近しているのも、安倍内閣が進める改革には是々非々で協力し、大阪の改革にプラスにつなげようというのだ。

 実際、安倍政権が進めるアベノミクスの3本目の矢である「成長戦略」として打ち出される見通しの「高度規制改革・税制改革特区」いわゆる「アベノミクス戦略特区」には、大阪が進める改革を後押しする項目が記載されている。成長戦略をまとめる産業競争力会議(議長・安倍首相)に提出された「立地競争力の強化に向けて」と題されたペーパーにはこう書かれている。

大阪府・市>
イノベーション特区での法人税の大幅引き下げ
●研究機関などに対する寄付控除の抜本拡充
●公設民営学校の解禁
統合型リゾート(IR)
●港湾の競争力強化のため民営化・広域管理

 実はこのペーパーをまとめたのは竹中平蔵慶応義塾大学教授だ。竹中氏は産業競争力会議の民間議員として改革策をまとめる議論をリードしている。維新の会議などにも参加しており、橋下氏が掲げる改革にも近い。というよりも橋下改革のブレーンのひとりである。日本維新の会が安倍政権に接近しているのは、何も「右翼的」な政策で一致しているわけではなく、改革路線で「中央」と「地方」が連携・呼応しているからなのだ。

キャスティング・ボードを握ればそれでいい

 そう考えると、日本維新の会は国政で自ら政権を獲得することなど目指していないように感じる。永田町の「常識」では、選挙で勝利して、政権を握り、大臣などのポストを握ることが「大事」だが、維新の中核メンバーは「日本国をどう運営するかに、まったく関心がない」とまで言い切る。国政選挙に出て一定数の議席を確保するのも、大阪を中心とする改革を進めるためだ、というのだ。

 もちろん、そんな「哲学」が維新の会の議員全員に「共有」されているわけではない。とくに、「たちあがれ日本」や民主党から移籍して議席を得た国会議員たちは、維新が政党として「国政」に深く関与していくという永田町の「常識」で動いている。だから、橋下氏ら維新の創設メンバーと、維新の国会議員団の間で不協和音が絶えないのだ。

 国民の多くは、参議院議員選挙で維新がどのぐらいの議席を取るのかに注目している。おそらく橋下氏ら維新創設メンバーからすれば、自民党単独で過半数を取れず、維新の議席を加えれば過半数になる状況が最も好ましい。だが、アベノミクスへの期待が盛り上がっている今、自民党議席を大きく増やすのは間違いない。だからこそ橋下氏は、憲法改正に歩み寄る姿勢を見せているのだろう。

 言うまでもなく憲法改正の発議には衆参両院の3分の2以上の議席が必要だ。自民党が単独で参議院の3分に2を得られないとなれば、そこで維新がキャスティング・ボードを握ることができる数だけ参議院議席を持っていればいいわけだ。実は、維新の会の参議院での目標議席数は、本音ではそんなに大きい数字ではないのかもしれない。