日本経済再生本部の中間提言に異論噴出!? 6月発表の「成長戦略」で問われるのは安倍・自民党の「改革度」だ!

日経平均株価は5月30日にも700円あまりの急落となり、1万4000円を割り込みました。上げピッチが速かったこともありますが、ここへきてアベノミクスの成長戦略の行方が怪しくなってきたことも投資家の警戒感を呼んでいるように思います。自民党が出した中間提言は、よく読むと、なかなかの改革方針が書き込まれているのですが、どうやら党内にも異論が多いようで、政府の成長戦略には盛り込まれそうにないのだとか。そのあたりの攻防を現代ビジネスに書きました。ご一読下さい。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35951


日経平均株価が5月23日、1,100円安という大幅な下げを記録した。特段、大きな外部要因があったわけではない。このところ余りにも急ピッチで上げ、1万5,700円台にまで上昇していただけに、一気に高値警戒感が広がった。その後も数日間は1万4,000円前後で推移、市場には慎重ムードが広がった。少なくとも、どんな株でも買えば上がるという時期は過ぎたのではないか、と多くの個人投資家が感じているようだ。

 株価の先行きを占ううえで、投資家たちが注目するのが、安倍晋三内閣の改革姿勢だろう。"アベノミクスの3本の矢"の3本目に掲げた「成長戦略」の行方である。その戦略策定に当たっている産業競争力会議(議長・安倍首相)が6月にも具体的な内容を発表する段取りになっている。

アベノミクスの方向性は「小さな政府」

 その戦略公表に先立って、自民党の日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)が中間提言をまとめた。①地方再生なくして日本再生なし②「アジアNO1の起業大国」へ③新陳代謝加速、オープンで雇用創出④未来の「ヒト」、「ビジネス」で付加価値創出⑤女性が生き生きとして働ける国へ---この4つが柱だ。いずれも安倍首相が打ち出したり産業競争力会議で議論になったものだ。

 ところがこの中間提言に対して、自民党の一部から批判が出ているという。

政務調査会で決定された中間提言はその後、総務会に報告されたが、その場でも異論が出た。

「これでは余りにも新自由主義過ぎるのではないか」

自民党市場原理主義は取らないことになっているはずだ」

 そんな趣旨の発言が相次いだという。

自民党内には小泉純一郎首相時代に進められた構造改革路線、いわゆる「小泉・竹中改革」に強烈なアレルギーを持つ議員が少なからずいる。郵政民営化を巡って踏み絵を踏まされたうえ、反対派は離党を迫られた。そんな苛斂誅求の小泉スタイルと構造改革が一体のものとして記憶に残っているのだろう。小泉改革を彷彿とさせるような政策が出て来ると、過剰に反応する議員が今でも大勢いるのだ。

 中間提言に盛り込まれた文言が小泉改革を思い起こさせたのかもしれない。「『民』が主役、『官』『政』は『土俵』を整備」というタイトルに続いてこんな文章がある。

「すなわち、アベノミクスは民間企業や働く人々の知恵と情熱を尊重し、政府は不必要な介入は極力控えて助っ人役や行司役に徹し、民間主導で自律的に回っていく経済を改めて作り直すことに専念することを明確に志向しているといえよう」

 この文章を読む限り、中間報告はアベノミクスの方向性は「小さな政府」であると定義している。この「小さな政府」が小泉・竹中改革を思い起こさせるのだろう。

"痛みを伴う"改革に最も抵抗しているのは霞が関

 中間提言に盛り込まれた具体的な政策を見てみよう。

 第1の柱である「地域再生なくして日本再生なし」の項は大きく分けて5つの政策から成るが、まっ先に挙げているのが「地域金融の刷新」だ。長年のデフレによって地域の産業が活力を失っている背景には地域金融の目詰まりがあると指摘されてきた。もっとも地方金融に手を付ければ、自治体や公社など沈んでいる不良債権問題が表面化する。民主党政権時代を通じて放置され、今や手が付けられない「絡み合った糸」になっているのである。

 実は、第1次安倍内閣は、「地域力再生機構」という不良債権処理機関を立ち上げ、この処理に着手しようと試みたことがある。それをもう1度やらねば、地域経済の再生はあり得ないと腹をくくったということだろう。「企業・経済再生型金融へのシフト」をうたい、事実上倒産しているような企業に追い貸しを続けるような「ゾンビ企業」を温存する金融ではなく、企業再生に真正面から向き合う金融に変える、というわけだ。中には「地域金融機関の再編促進」という文言も盛り込まれている。

 そんな"痛みを伴う"ことになりそうな政策と竹中平蔵氏が担当大臣として推進した銀行の不良債権処理が、反改革派の議員には重なって見えるのだろう。

 中間提言の第3の柱である「新陳代謝の加速」にはさらに批判が多い。というのも「規制改革は断行あるのみ」「業者行政から競争政策への転換」「コーポレートガバナンス強化」「株式持ち合い解消等」「公的資産の運用における民間活力のフル活用」といった"痛みを伴う"改革項目がズラリと並んでいるからだ。

コーポレートガバナンスの強化は産業競争力会議で民間議員が主張した項目でもある。経営者に適度のプレッシャーを与えるような仕組みにして、企業自身の収益力を回復させようという発想だ。具体的には「独立社外取締役」を各企業に確実に導入させていくことや、株式持ち合いの解消などを掲げている。

 実は、こうした改革に、最も抵抗しているのは霞が関だ。規制改革を進めれば、当然、役所の権限がそがれることになる。「業者行政」は言うまでもなく、役所が補助金助成金を出すことで民間を縛ってきた手法である。

コーポレートガバナンスが強化されれば、非効率な経営ができなくなり、役所の言うことを唯々諾々と聞かなくなる。持ち合いは銀行を頂点とした官僚による産業統治の伝統的な仕組みと見ることも可能だ。公的資産運用はまさしく厚生労働省の権限に斬り込むことを意味する。

これから問われるのは自民党の「改革度」

 この中間提言には、ひと言も「官僚統治からの脱却」といった刺激的な言葉は出て来ない。だが、現実は、日本の成長を阻害してきたこれまでの日本社会の構造、つまり官僚主導の経済体制を見直すことを宣言していると見ることができる。

「今回盛り込んだ政策は新自由主義でも、市場原理主義でもありません。世界の資本主義国が当たり前に導入している制度です」と提言づくりに参画した中堅議員のひとりは言う。ことさら、新自由主義だと批判するのは改革を進めたくない議員のレッテル貼りだというのである。おそらく反対論を展開している議員のバックには霞が関がいる、と語る。

アベノミクスの1本目の矢、すなわち「大胆な金融緩和」によって一気に円安が進み、株高となった。流通する通貨の量を大幅に増やすという方針を示したわけだから、ほとんどすべての銘柄にわたって株価が上昇したのはある意味当然だったと言えるだろう。問題はここからだ。

アベノミクスによって企業業績が改善する期待が生じなければ、株はこれ以上買い上がれない。円安による輸出企業の業績改善は見え始めているが、内需型企業の業績が大きく飛躍するには、新しい分野への投資や新規事業などが拡大する必要がある。そのための「土俵」整備が3本目の矢というわけだ。

 株価が上昇している間は、安倍首相に文句を付ける人はいなかった。大幅に株価が下落したとたん、野党議員が水を得た魚よろしくアベノミクス批判を展開している。実は、安倍氏の"敵"は野党だけではない。成長戦略が明らかになり、7月の参議院議員選挙も終われば、霞が関の官僚や既存大企業の経営者など守旧派が遠慮なく批判の声を上げ始めるに違いない。自民党内も決して一枚岩ではない。

 今回の中間提言への反応は、そんな党内事情をはからずも示したと言える。アベノミクスによる改革を実行に移せるかどうか。これからは自民党の「改革度」が問われることになる。