安倍自民党の「改革」にダンマリを決め込む金融庁 成長戦略見直しでも「まったくやる気なし」

外国人投資家と話していると6月までに行われる予定のアベノミクス「成長戦略」の見直し作業で、注目されているポイントは日本企業のコーポレートガバナンス改革だ。自民党内で続いてきた議論が取りまとめの段階に入り、所管官庁との調整が始まっているが、資本市場や企業情報の開示を担当する金融庁がまったくやる気を見せていないらしい。政治と官僚の間での綱引きを経て、どんな政策案が出て来るのか。日本の株価の行方も大きく左右するだけに、注目したい。日経ビジネスオンラインにアップされた記事です。是非ご一読を→
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 安倍晋三内閣が6月までに行う「成長戦略」の見直しに向けた自民党の政策策定作業が佳境を迎えている。自民党日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)で「金融資本市場・企業統治改革グループ」「起業大国推進グループ」「労働力強化・生産性向上グループ」「女性力拡大グループ」「地域力増強グループ」の5つに分かれて、各界からの意見聴取を繰り返したうえで、具体的な政策のとりまとめ作業をしている。

 既に「労働力強化・生産性向上グループ」からは3月26日に「労働力強化に関する中間とりまとめ」が出され、技能実習制度の見直しなど外国人材活用のあり方について踏み込んだ提言がなされた。

 各グループの政策は主査を務める国会議員が中心になって取りまとめ、関係する諸官庁との間で文言を調整する。あくまで自民党としての意見だが、事前に役所との間でも摺り合わせをするのが慣例になっている。

 かつては議員に代わって役所がたたき台を作り、それを自民党政務調査会の部会が承認するケースもあったが、最近は中堅議員の政策立案能力が高まっている。議員自身の力だけでなく、シンクタンクの研究員や弁護士といった専門家にブレーンとして協力を仰いでいる例も少なくない。それだけに党側で作る「原案」と霞が関の意見が真っ向からぶつかることも珍しくない。

改革、金融庁はやる気なし
 今年の最大の"戦場"は「金融資本市場・企業統治改革グループ」だという。日本の金融資本市場と、企業をとりまくコーポレートガバナンス企業統治)のあり方を見直しているが、これに所管の金融庁が真っ向から抵抗しているという。「われわれが示した原案をことごとく拒否しており、まったくやる気がない」ととりまとめに当たっている中堅議員は怒りを隠さない。

 党の経済再生本部でコーポレートガバナンスの強化を議論している背景には、日本企業の収益力の低さを改善しなければ日本経済の再生はあり得ないという考えがある。生産性向上だけでなく、女性力の活用や地域再生といった他の分野にも大きく関係している。

 「金融資本市場・企業統治改革グループ」で詰めている論点はいくつかある。まず第1点が、コーポレートガバナンスのあり方を規定する「コーポレートガバナンス・コード」を制定しようというもの。欧州ではコードによってガバナンスのあり方を規定し、それに従わない場合にはその理由を説明するよう求めている。米国では上場規則でガバナンスのあり方が規定されている。

 日本では、取締役会のあり方などは会社法で規定されているが、上場企業に限ったコーポレートガバナンス・コードはない。昨年末に来日したドイツのシュレーダー元首相が、対談でコーポレートガバナンス・コードがないことを訝しんだことも、自民党が制定に動く契機になった。シュレーダー氏は官邸で、菅義偉官房長官に対しコーポレートガバナンス改革の重要性を訴えたといわれる。

 ブルームバーグの報道によると、「金融資本市場・企業統治改革グループ」の主査を務める柴山昌彦衆議院議員は、コードを制定してその中に社外取締役の義務付けを盛り込む意向だという。金融庁はコードを制定する委員会の設置には同意している模様だが、コードの中味について自民党が提言に盛り込むことを拒絶しているという。

 論点の2点目は株式持ち合いの解消である。自民党日本経済再生本部は昨年5月にまとめた「中間提言」で、「株式持ち合いの解消、銀行による株式保有制限の強化」と題して、次のような一文を盛り込んだ。

 「ぬるま湯的な経営となりがちな株式持ち合い、銀行による融資に加え株式保有を通じた銀行資本による支配を通じ、新陳代謝が停滞しているのではないか。ドイツを見習い、株式持ち合い解消を促進し、引き締まった経営により、経済活動の活発化を図る」

 今回の見直しでは、より具体的な持ち合い解消策の提言を模索している模様だ。だが、これに対して金融庁は全面的に反対の姿勢を貫いている、という。

 3点目は銀行自身のガバナンスの強化策。みずほ銀行による反社会的勢力との取引問題もあり、銀行とその持ち株会社社外取締役を義務付けることを自民党で検討している。公益性が高い銀行にはより厳しいガバナンスを求めるべきだ、というのが自民党の発想だ。これに対して金融庁は「公益性が高いのは銀行も電力会社も鉄道も同じ」という論理を展開し、銀行だけを特別視するのは妥当でないとしているという。

 4点目は地域金融機関の再編だ。地方経済の再生には数が多い地方銀行の再編を促し、広域で営業する「スーパー・リージョナルバンク」を育成すべきだという意見が自民党案だという。これに対して金融庁は「合併は金融機関自身が決断するもので国がとやかく言うべきでない」という従来からの主張を繰り返している模様だ。実際には金融庁は、地方銀行には「箸の上げ下ろし」にまで口を出しているとされる。地銀再編はやりたくない、というのが金融庁のスタンスのようだ。

 5点目が国際会計基準IFRSの導入促進。自民党は昨年6月に会計小委員会の提言として、「IFRSの任意適用の拡大」などを求めた。2016年末までに300社という具体的な目標も示している。また、IFRSを強制適用すべきかどうか、する場合にはどんなタイムスケジュールで実施するか、議論するよう求めていた。自民党は今回の提言で、300社の適用を実現するためのより具体的な方策を取ることを求める意向だという。

 ところが金融庁はこれにも反対している、という。強制適用の是非などを議論するよう求められてきたにもかかわらず、昨年6月19日を最後に企業会計審議会ではIFRSの議論はされていない。「経済界などからIFRS反対論が再び噴出したら元も子もない」(金融庁幹部)というのが建前だが、要は国際化を進めるうえで、自らが泥をかぶる覚悟がないのである。

 金融庁の大きな仕事は「金融商品取引法」の遂行だが、その第一章「目的」にはこう書かれている。

「ガバナンスの強化に経団連は納得しない」
 「第1条 この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする」

 資本市場の機能を十分に発揮させることで企業価値を正確に表す株価形成をし投資家を保護するのが目的だとしている。企業情報の開示の基本的なルールである会計基準を一本化し、国際水準に合わせていくことは、当然、金融庁の大きな責務だ。また、コーポレートガバナンスの強化によって株式を発行する企業の健全な経営を実現することは、投資家保護の第一歩と言える。

 「ガバナンスの強化を一気に進めたら経団連は納得しません」と金融庁の中堅幹部は真顔で語る。経営者にフリーハンドを与えるような日本型の緩いガバナンスを、いまだに守ろうとする経営者が少なくないのだろう。だからと言って金融庁が財界の顔色ばかりを伺うのは、金商法の1条を踏みにじる行為だと言える。

 安倍内閣は日本企業のガバナンス体制を国際水準並みにすることで、外国からの日本への直接投資を大幅に増やそうとしている。外遊先で安倍首相は改革に向けて強い姿勢を繰り返し強調するスピーチを行っている。金融資本市場の制度整備や、コーポレートガバナンスの改革は外国人投資家が最も注目するアベノミクスの改革点の1つである。そんな安倍内閣の改革方針にもダンマリを決め込む金融庁はいったいどんな金融資本市場や日本企業の未来像を思い描いているのだろうか。