タクシー減車 サービス向上と雇用生む?

フジサンケイビジネスアイの1面原稿です。→http://www.sankeibiz.jp/business/news/140303/bsd1403032228007-n1.htm


 今年1月末、「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法等の一部を改正する法律」という法律が施行された。新聞などで「タクシー減車法」と報じられてきたものだが、国土交通省は「タクシー『サービス向上』『安心利用』推進法」と名付けて公表資料などで使っている。

 改正法では、国交相が「特定地域」に指定した“過当競争地域”で、タクシー会社や首長らで構成する「協議会」が決めれば、タクシーの営業台数を削減させたり、新規参入や増車を禁止できるようになった。さらに、タクシー会社は、国が定めた範囲内で料金を決めねばならず、下限を下回る料金には国が変更命令を出せる。つまり、規制を大幅に強化したのである。

 タクシー規制は「小泉構造改革」の象徴のような存在で、2002年に参入規制や台数制限が撤廃された。結果、利用客が多い大都市圏を中心に、新規参入や既存のタクシー会社による増車が相次ぎ、台数が大幅に増加。乗務員の収入が大きく減ったとして、「行き過ぎた規制緩和」だという批判の声が上がった。それに応えたのが今回の法律改正だ。

 国交省が「安心利用促進」と言うのは、これまで乗務員が無理をして長時間労働に走り、安全が脅かされていたものが改善される、という理屈のようだ。競争によって格安運賃のタクシーが増えると「危険」で「サービスの悪い」タクシーが増えると信じているのだろう。だから台数が減れば「サービス向上」につながるはずだ、というわけである。減車が本当に消費者のためになるかどうかは置くとして、これで乗務員の収入が増え、タクシー業界が成長するのなら、我慢することにしよう。では社会に役立つ「成長」とは何か。雇用の創出である。減車は雇用を生み出すかどうか。

 規制緩和が始まった03年3月末のハイヤー・タクシー会社の従業員数は41万5853人だった。この他に個人タクシーが4万6267人いた。これが規制緩和後の05年3月末には44万197人に増えたのだ。2年で5.9%の増加である。

 ところがその後、従業員は減少に転じる。あまり稼げなくなったことで他の業界に移った人もいただろう。だが、08年に規制が再強化の方向に動き始めると、従業員数は大きく減る。12年3月末には41万2962人と、規制緩和前より少なくなった。個人タクシーも4万人にまで減っている。

 今後、実際に減車されれば、タクシー業界はもうかるようになり、乗務員も多く雇えるようになるのだろうか。普通に考えれば、車が減ると乗務員の数を減らすか、乗務する回数を減らさねば均衡しないように思える。乗務回数が減っても収入が増えるには、タクシー利用客がよほど増えなければ難しいだろう。ところが、4月からは消費税増税に伴う値上げもある。値上げしても台数が減るので利用客は使わざるを得ないと読んでいるのか。

 国交省が言うように、規制強化がサービスの向上につながるかどうか。消費者の利益を度外視したとしか思えない「社会実験」の結果を待つことにしたい。(ジャーナリスト 磯山友幸