送配電網、ガス導管の切り離しも決定へ。電力・ガス自由化に向けた法改正が本格化

いよいよ電力・ガスの自由化が本格的に動き出します。自由化の肝になるのは、電力の送配電部門やガスの導管部門が、新規参入者にも平等に設備を使わせること。それを担保するうえで、分社化が議論されてきました。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42295


電力・ガス自由化への法改正の動きが本格化

電力・ガスの自由化の法改正に向けた具体的な動きが本格化してきた。自民党は2月19日に経済産業部会などの合同会議を開き、経済産業省が提示した電力の送配電部門とガスの導管部門を分社化することを義務付ける法改正案を了承した。与党間で協議のうえ閣議決定されて今国会に提出、成立する見込みだ。

法律案では、東京電力など電力9社に対しては2020年4月までに送配電部門を、東京ガスなど都市ガス3社には2022年4月までに導管部門を、それぞれ切り離すことを義務付けている。2016年には電力の小売りが完全自由化されることが決まっているほか、ガスについても2017年4月から小売りを完全自由化する法案が国会に提出されることになっている。

電力・ガスの小売り自由化で新規参入する企業などが、インフラである電力の送配電網やガスの導管網を使いやすくするのが今回の法改正の狙い。

現状のように1つの会社が発電と送配電網、ガス製造と導管網を保有していた場合、異業種などの新規参入企業の利用を妨げられ、公平な競争が行われない恐れがあるためだ。分社化を進めることで新規参入や企業間の競争を促し、料金を引き下げやサービス向上につなげるのが法改正の趣旨である。

もちろん、こうした分離方針には批判の声も根強くあった。電力会社から送配電網を切り離したり、ガス会社から導管網を分離することで、安定供給に支障が出るといった声が出ていたほか、保安体制が揺らいで安全が損なわれるといった指摘もあった。法案を了承した自民党の部会の席でもこうした慎重論は出たものの、自由化を進める基本方針を優先する格好で決着した。

というのも、安倍晋三政権はアベノミクスの改革の目玉の1つとして電力やガスなどエネルギー産業の自由化を掲げていることが背景にあるからだ。農業や医療、労働規制と並んで「岩盤規制」と指摘されることもある。

こうしたエネルギーの自由化方針は、安倍首相が米欧の投資家などを対象にした演説などでも繰り返し強調されており、アベノミクスの改革姿勢を測るひとつのバロメーターのような扱いになっている。

省エネ住宅ほかガスへのシフトが進む

電力やガスなどの事業に新規参入する場合の最大の障壁とされた送配電網やガス導管網が平等に利用できるようになることで、事業者のあり方は大きく変わるのは必至だ。業界内の再編だけでなく、業界を越えた合従連衡が起き、ガスと電力を両方供給する総合エネルギー会社などが成長してくる可能性が高い。

ガス会社と電力会社の相互参入が一段と進むと見られているほか、大手製造業や流通業、通信事業者などが発電事業やガス事業に新規参入する動きも強まりそう。激しい顧客獲得競争が繰り広げられることになるのは明らかだ。企業が地域を超えて連携を模索していく動きも広がるに違いない。

電力会社の場合、全国は十の大手電力会社による独占状態だが、ガスの場合、事業者は全国に200社以上存在する。小売りの完全自由化をにらんで、とくにガス業界での再編が加速する見通しだ。

合従連衡が本格化した際、資本力の大きい電力会社がガス会社より有利になるという見方が強かったが、2011年の東日本大震災以降、状況が大きく変わっている。原子力発電所の稼働停止が続く中で、電力の供給不安が繰り返し指摘されてきた。国民の間に節電意識などが急速に高まっていることもあり、電力需要自体が減少傾向にある。オール電化住宅などの需要が頭打ちになり、ガスを利用した省エネ住宅などがブームになっている。

また、原発停止に伴って電力価格が大幅に上昇。大口需要家である企業の間でも節電対策が急速に進んだ。ガス・コージェネレーション(熱電併給)システムなどの導入拡大によって、電力からガスへのシフトが進んでいる。

もともと原油価格とLNG(液化天然ガス)の価格急騰が、日本のエネルギーコストを押し上げていたが、昨年秋以降、原油価格が急速に下落している。原油価格の下落はガスの販売価格の下落につながるが、電力については原発停止問題が解決していないため、価格下落に直結しない可能性が高い。このため、電力とガスの価格差が徐々に大きくなる可能性が出てきている。

九州電力川内原子力発電所の再稼働も遅れており、原発が動き出すとしても今年秋にズレ込む可能性が出ている。こうした状況の中で、電力とガスの自由化がほぼ同時に始まれば、ガス事業により大きなチャンスが訪れる可能性はある。

当然、電力会社自身もガス事業に参入するほか、化学会社や鉄鋼業などが副産物のガス販売などに乗り出すことになりそうで、業界地図は今後、大きく塗り替えされることになりそうだ。また、総合エネルギー会社が拡大してくることで、これまでとは違った形で、家庭にエネルギーを中心に総合的に生活支援サポートをする新サービスなどが誕生する可能性もある。ICT(情報通信技術)企業などとの連携なども見込めそうだ。