「民泊」解禁で「シェアリング・エコノミー」拡大なるか ホテル逼迫、国家戦略特区で実現

シェアリング・エコノミー、なかなか面白い世界的な動きですが、日本の規制打破にひと役買うことになるかもしれません。日経ビジネスオンラインに書いた記事です。→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/102200009/


 一般住宅の空き部屋を宿泊施設として活用する「民泊」が、東京都大田区に限って解禁されることになった。

 不特定多数の人を宿泊させる場合、旅館業法などで厳しい規制がかけられてきたが、特定の地域に限って規制改革などをする「国家戦略特区」に認定することで、解禁にこぎつけた。

 海外ではインターネットを使って個人の住宅などを宿泊施設として紹介するAirbnb(エアビーアンドビー)など「シェアリング・エコノミー」と呼ばれるサービスが急拡大しているが、日本は様々な規制が壁になって出遅れていると指摘されている。すでに無許可での営業が広がっている実態もあり、まずは特区での特例として解禁することにした。

 今後、「民泊」の規制緩和大田区外にも広がるかどうかが注目される。

 政府は10月20日首相官邸で開いた「国家戦略特別区域諮問会議」で、民泊など14の事業を新たに認定した。民泊解禁は、国家戦略特区に指定されている大田区が、外国人旅行者の増加に対応するため、個人宅やマンションの空き部屋を宿泊施設として営業できるよう特例として認めるよう求めていたもので、この日の諮問会議で旅館業法の特例として認定した。

 床面積が25平方メートル以上などといった一定の条件が付されるが、旅館業法で義務付けられているフロントの設置や、寝室の面積基準などを満たさなくても、区が認定すれば正式に営業できるようになる。大田区は11月の区議会で関係条例を成立させ、来年1月から解禁する方針だ。

不法民泊、既に100軒以上

 「民泊」の解禁には、ホテルや旅館など既存業者の反対が根強い。旅館業法や消防法に則った施設整備や、保健所などによる厳しい衛生規制をクリアして営業しているだけに、規制の枠外の「民泊」が新規参入することへの抵抗感は強い。

 一方で、羽田空港に近い大田区ではここ数年、外国人観光客の宿泊が急増。区内のホテル・旅館の客室稼働率は90%を超えており、満室状態が続いている。そんな中で、空き部屋を提供する不法な民泊業者が既に100軒以上営業しているとされる。圧倒的に宿泊施設が足りない状況に直面しているのだ。

 大田区では既存のホテル・旅館の反発を招かないよう、解禁する民泊は、6泊7日以上の滞在に限る方針。事業者は営業を始める前に近隣住民に事業内容を説明することを義務付ける。区に立ち入り調査の権限も付与する。

 世界をみると、個人の空き部屋を宿泊施設とするなど、個人が相互にサービスを提供する新たな形態のビジネスが急拡大している。宿泊だけでなく、タクシーなどの交通サービスも広がり、「シェアリング・エコノミー」と呼ばれる大きなうねりになっている。

 Airbnbは米サンフランシスコに本社を置く企業が2008年から始めたサービスで、インターネットのウェブサイトを通じて、利用登録した個人が部屋を提供、サイトで空き部屋を検索した個人がネット上で申し込んで使う仕組み。既に190カ国以上の3万3000都市に広がり、80万以上の宿泊場所が提供されている。

規制と相入れない「シェアリングエコノミー」

 こうしたサービスは日本国内でも急速に広がっており、宿泊施設として登録、部屋を提供しているケースも多い。厳密には旅館業法違反になるが、現実には取り締まりができない状態になっている。大田区での解禁は、現状を追認したうえで、区による規制をかけようという思いがにじむ。

 もっとも、そうした「規制」によって一定の品質を維持しようという“発想”自体が、「シェアリング・エコノミー」と相入れないと言える。

 Airbnbなどのサービスで共通しているのは、サービス提供者のプロフィールが公開されており、そのサービスを選択するうえでの判断材料になっていること。さらに、利用者によるレビューやレーティングを通じてサービスが評価され、それが他の利用者の選択材料にもなっていることだ。

 つまり、利用者の評価という市場原理によって粗悪なサービスが排除されていくことが想定されているのである。規制によって一定レベルを維持しないと営業できない「参入規制」ではなく、誰でも参入できる一方で市場で評価されて粗悪なものは排除されていくという「競争原理」によって品質を維持する仕組みになっている。

 配車アプリを提供する米ウーバー・テクノロジーズも、「シェアリング・エコノミー」の代表格。スマートフォンのアプリを使って、近くにいるタクシーを呼ぶ配車サービスだが、アプリ上には運転手のプロフィールやそれまでに使ったユーザーたちの評価が記されている。

 そうした情報を見たうえで、車を呼ぶことができるわけだ。一方で、利用後は運転手によってユーザーも評価されており、客として問題を起こすと最終的にはサービスが受けられなくなるケースもあるという。欧米では営業許可を得たタクシーではなく、個人が独自に営業する自家用車が配車される仕組みだ。

 ウーバーは2年前に日本にも上陸したが、日本ではタクシー会社と提携。営業免許を持つハイヤーやタクシーを配車する仕組みでスタートした。日本のタクシー営業の規制内で欧米と表面的には似たサービスを提供している訳だが、実際には個人の自家用車が配車されているわけではなく、「シェアリング・エコノミー」とは言い難い。

 ウーバーは今年3月、福岡市と周辺市町で「ライドシェア(相乗り)」と銘打って、実験的に自家用車の配車サービスをした。需要があるかどうかを見極める情報収集が狙いとして、ドライバーにはウーバーが報酬を支払い、利用者は無料にするという「実験サービス」だったが、国交省からストップがかかった。

  許可なく有償で乗客を運ぶ「白タク」に当たるとされたのだ。もちろん、背後にはタクシー業界の猛烈な反対があったのは言うまでもない。

 実は、10月20日の諮問会議では安倍晋三首相がこんな発言をしている。

 「日本を訪れる外国の方々の滞在経験を、より便利で快適なものとしていかなければなりません。このため、旅館でなくても短期に宿泊できる住居を広げていく。過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する。(中略)石破担当大臣と民間有識者の皆様には、引き続き、規制改革メニューの大胆な拡大と、指定区域の追加について、精力的なご議論をお願いしたい」。

規制の壁厚いライドシェア

 前半で言っているのは、今回、認定された「民泊」の話だが、後半は「ライドシェア」である。この会議を受けて、日本経済新聞は「一般の住宅に観光客を泊める『民泊』を拡大し、自家用車で有償運送する『ライドシェア』を解禁する」と踏み込んで書いた。首相の意思が強いと見たのだろう。

 ライドシェアは外国人観光客向けだけではなく、過疎地域の交通弱者対策としても要望する声が上がっている。中山間地でバス路線が廃止された場合、町の中心部に出る手段を失った高齢者などの足として、自家用車での送迎を有償にしたいという希望が出ているのだ。

  山間地はタクシー自体の数が少ないうえ、正規のタクシー料金を支払おうと思うと高額になってしまう。地域の人たちが相乗りで少額の代金を負担し合う「ライドシェア」が、今後の過疎地域では有望だというわけだ。まさしく「シェアリング・エコノミー」だが、規制の壁は厚い。

 首相の「指示」を受けて、既に特区に指定されている地域の「区域会議」で、今後、ライドシェアの拡大について結論が出されることになりそうだ。中山間地域で特区に指定されている兵庫県養父市や、秋田県仙北市などが手を挙げる可能性があるという。また、首相が言う「外国人観光客」をライドシェアの対象として想定した場合、大田区のような都市部での特例認可の可能性も出てくるだろう。

 ただ、タクシー業界の反発は必至。小泉純一郎内閣によるタクシーの自由化が2013年に見直され、むしろ規制強化が進んでいる。そんな中でライドシェアの解禁には業界だけでなく、自民党内などからも反発の声が上がりそうだ。

 特区内に限って解禁できるかどうか。安倍首相自身、「規制改革の突破口」と位置付ける国家戦略特区の真価が問われることになる。