中国人急増で外国人旅行者の「国内外需」が急拡大 「地方創生」のカギは観光客呼び込みにあり

今年に入って中国人観光客が再び急増しています。尖閣問題の後、一時激減しましたが、月間の過去最高を更新するのも時間の問題です。彼らが日本国内で消費する「国内外需」が日本の消費を下支えするようになってきました。ますます増える外国人にいかに国内でおカネを落としてもらうか。地方創生のキーワードでもあります。現代ビジネスに書いた原稿です。是非ご一読を。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40052


日本にやってくる外国人旅行者による消費が急拡大している。日本国内で宿泊したり、飲食するだけでなく、都心の百貨店や郊外のアウトレットで高級ブランド品を買うなど、多額の資金を日本国内に落としている。外国人による国内消費は輸出つまり「外需」と同じ効果を持つ。いわば「国内外需」が景気回復に大きく寄与し始めている。

「旅行収支」は44年ぶりに黒字に
財務省が発表している国際収支統計では、今年4月の旅行収支が、1970年7月以来およそ44年ぶりに黒字化した。訪日外国人が国内で使った金額から日本人が海外で支払った金額を差し引いたものが「旅行収支」。日本人の海外旅行ブームとともに赤字が常態化していたが、ここへきて外国人旅行者が急増したことで、一転、黒字になった。

つまり、日本人が海外旅行で落とすおカネよりも、外国人旅行者が日本国内で消費して落とすおカネの方が上回ったのだ。

日本政府観光局(JINTO)の推計によると4月の訪日外国人数は前年同月に比べて33%も増え、123万人と過去最高となった。桜の名所はどこも外国人観光客の姿が目立った。

訪日外国人数はアベノミクスによって円高が修正されたことで、2013年の初頭から増え始めた。2012年秋に尖閣諸島を巡る問題で日中関係が冷え込んだことから、2012年7月には月間20万人を超えていた中国人観光客が5万人台にまで激減するが、今年1月以降再び急増している。月間ベースで20万人を突破するのも時間の問題とみられる。

また、台湾からの旅行者も急増しているほか、日本政府によるビザ要件の緩和もあり、東南アジア各国からの旅行者も増えている。こうして、日本の魅力に惹かれてやってくる外国人が、全国の観光地でおカネを使うことで、予想以上の景気刺激効果が生まれている。

高額消費の筆頭は中国人観光客
観光庁の推計では、今年4−6月の訪日外国人の旅行消費額は4874億円と前年同期に比べて33%増加した。1−3月も統計を取り始めて初めて4000億円を突破しており、四半期ベースでの過去最高を更新し続けている。昨年1年間の消費額は1兆4167億円で、このままのペースでいけば今年1−12月の消費額は2兆円に迫る勢いだ。

なかなか統計には表れないが、国内で売れている高額のブランド品などでは、外国人旅行者による購入がかなりの割合を占めると見られている。百貨店では、高級ブランド服を一度に何十万円分も買う姿をしばしば目にする。高級時計や宝飾品なども中国人旅行者がお得意様だという。

観光庁は訪日外国人ひとり当たりの旅行支出も公表しているが、今年4−6月の支出が5・7%増えた理由として、「単価の高い中国旅行者数の大幅な増加」をあげている。

経済成長によって中国人の貧富の格差が拡大しており、平均的な日本人より豊かな中国人は少なくない。日本への旅行で一気にまとめ買いする傾向が強いのだ。

国内の会計事務所の幹部によると、提携先の中国の会計事務所の幹部が会議のために日本にやってくると、必ず100万円以上の単位で買い物して帰るという。高級時計やカメラなどをポンと買うのだそうだ。女性の場合、フランス製などの高級ブランド品を大量に買う。中国国内よりも日本の方が安いうえ、偽物をつかまされる可能性はほとんどない安心感もあるという。

外国人旅行者が高額の商品を買う場合、消費税の免税手続きをするケースが多い。ということは、この4月に5%から8%に引き上げられた消費税増税もほとんど関係ないということである。国内の消費者は消費税増税を控えて3月に駆け込みで消費し、4月には一気に財布のひもを締めた。

ところが、統計全体でみると、百貨店での高額品消費などは駆け込み需要に比べて、反動の落ち込みは小さく、5月、6月の戻りも早い。この背景には「国内外需」の下支えがあると見てよいだろう。

「国内外需」が「地方創生」のカギになる
アベノミクスによる円安で、輸出が回復するという期待が強かった。ところが、自動車などの輸出数量はほとんど増えていない。円安によって輸出採算は改善したため、企業収益は向上したが、輸出量にはほとんど影響を与えていないのだ。電気料金の上昇懸念などもあり、むしろ企業は着々と生産の海外シフトを進めている。

当初、経済産業省は、円安初期は輸入価格の上昇で貿易収支が悪化するが、しばらくすれば輸出が増えて、貿易収支は大きく改善すると主張していた。グラフにすると「J」のような線になることから「Jカーブ効果」と呼んでいたが、最近では「Jカーブ効果は出なかった」という見方が定着している。つまり、日本の経済構造がすでに「貿易立国」型ではなくなっていたことを図らずも示したわけだ。

一方で、観光客の増加による「国内外需」の急増も予想されていなかった。政府は長年「観光立国」を訴えていたが、輸出を代替するような経済効果がこれほど早く現れるとは思ってもいなかったのである。

仮に輸出企業が輸出量を増やしたとしても、その代金を回収して企業業績に反映され、それが従業員の賃金や下請け会社の納入価格にプラスに働くには半年から数年のタイムラグがある。

ところが「国内外需」は外国人旅行者が訪れるところならどこでも生まれ、その経済効果が零細中小のサービス業など末端にまで直接波及する。輸出による経済効果よりも「国内外需」の経済効果の方が即効性があるのである。

政府は秋から「地方創生」を政策の主軸に据えるという。来年の統一地方選などに向けて、地域経済の活性化を図りたい与党自民党公明党に配慮してのことだ。だが一部の「古い」タイプの自民党議員が求めているような、公共事業の積み増しや補助金のバラマキでは、本当の意味の「地方創生」など果たせるはずもない。どうやって自立できる経済を作り直すかがポイントになる。

その際の切り札は、どうやって地方が自らの魅力を発信し、外国人観光客を呼び寄せるかだろう。急速に拡大している「国内外需」が、これからの「地方創生」のカギを握ることになりそうだ。