安倍内閣、バラマキ復活で「古い自民党」へ回帰? 「地方創生」で馬脚を現すか

安倍内閣は本当に「古い自民党」と決別したのか。秋から具体化する「地方創生」の政策の中味で明らかになるでしょう。日経ビジネスオンラインに書いた記事です。オリジナル→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140731/269476/


菅義偉官房長官は7月25日の記者会見で、「まち・ひと・しごと創生本部」の設置に向けた準備室を発足させたと発表した。政府が検討してきた、いわゆる「地方創生本部」を具体化するもので、安倍晋三首相が推進する「アベノミクス」の効果を地方にも波及させるのが狙い。地方版の成長戦略ともいえる「ローカル・アベノミクス」を策定するという。

 菅氏は会見で、「人口減少にしっかりと歯止めをかけて、地方の活性化ができるよう、安倍首相を本部長として、内閣全体として全力で取り組んでいく」と述べた。次の内閣改造で担当大臣を置くことも検討しているという。

 安倍内閣が「地方創生」に取り組むのには理由がある。

 アベノミクスによる景気浮揚が言われているが、「地方経済にはまだまだ効果が及ばない」という声が多い。地方出身の議員たちはこうした声を地元で散々聞かされている。安倍首相も早い段階から地方経済の底上げ策を検討するよう、自民党や政府内に指示してきた。

 実際、日本の地方は崩壊寸前ともいえる状態になっている。最大の問題は、菅氏も会見で触れていたように、人口減少が限界に達しつつあること。地方でも中核都市への人口集中が進み、周辺の町村など基礎自治体の人口減少が急速に進んでいる。平成の大合併によって基礎自治体の大規模化が進められたが、その後の人口減少で、少ない人員で広範囲の行政サービスを提供せざるを得なくなっており、コミュニティ自体が維持困難に直面している。

消滅する自治体続出へのカウントダウン

 地域を回っている専門家の中には「ここ10年以内に消滅する自治体が出てきても不思議ではない」という声もある。地方の再構築は待ったなしなのである。

 人口減少と高齢化によって地方経済も硬直化している。生産人口の減少によって所得が減少、これに伴って消費も低迷している。マーケットが縮小を続けていることで企業活動も停滞。雇用も生まれない。多くの地方で「若者の就職先は市役所の職員など公務員か、農協の職員ぐらいしかない」と言われる状態に陥っている。

 そんな中で、安倍内閣が地方創生に取り組もうとしているのには別の理由もある。来年春の統一地方選挙だ。アベノミクスの効果が大都市圏に偏っているという批判が強まれば、地方自治体の選挙での自民党の勝利はままならない。かつて自民党は頑強な地方組織によって支えられてきたが、地方の崩壊と共にこの組織も弱体化している。

 自民党員はピークだった1991年に547万人に達していたが、野党に転落した後の2010年には100万人を割り込み、2012年末には過去最低の73万人にまで落ち込んでいた。現在、所属議員にノルマを課して党員拡大を急いでおり、昨年末には78万人にまで戻したが、かつての勢いはない。このままでは地方議会銀選挙や首長選挙での党勢拡大は望めないとの危機感から、地方対策を求める声が多いのだ。

 地方の自民党組織が求めているのは、地方への公共事業や予算配分の積み増しなどである。ともすると、旧来のバラマキの復活につながる。安倍首相は就任以来「古い自民党」には戻らないと繰り返し述べてきたが、一方で「必要な公共事業はやる」という姿勢も貫いてきた。自民党内には「国土強靭化」を掲げて公共事業の積み増しを求める議員も依然として力を持っている。

寄せ集めの成長戦略がもたらすバラマキ

 地方創生本部の準備室には、総務省財務省経済産業省厚生労働省国土交通省などからの出向者を集めており、本部が動き出すと数十人規模になる見通しだ。各省庁寄せ集めのため、放っておけば、各省庁が地方でやりたい政策や事業を寄せ集めてホチキスで止める「ホチキス型」の成長戦略が出てくるのは必至だ。

 自民党側もそれぞれの部会が独自に「対策」を要求すれば、必然的にバラマキ型の政策になっていく。古い自民党型の公共事業バラマキに回帰していく可能性が高いのだ。

 問題は、そうした旧来型の公共事業バラマキで、地方経済が立ち直るかどうかだ。公共工事を積み増し発注しても、恩恵を受けるのは一部の土木建築業者だけで恩恵を受ける人が減っているのである。かつてと違って土木工事に従事する人たちのすそ野が狭くなっているのだ。

 若者が土木事業に就かないことに加えて、高齢化によって建設作業員の確保も難しくなっている。加えて、東日本大震災の復興予算が膨大に付いていることから、建設業界は超繁忙で、地方に予算を付けても人手不足でなかなか執行できないのが実状だ。

 それでも地方を選挙地盤とする議員の間からは予算の積み増しや補助金などを求める声が強い。土木業界に乗っていれば楽々当選できた時代も終わっているのだが、なかなかバラマキ以外に「手」がないのである。

 だが官邸で地方創生を担当する官僚の中には、そんなバラマキでは地方の崩壊を止められないと考えている人もいる。総務大臣経験者で官邸の政策決定のかじ取りを担う菅官房長官や、安倍首相自身も、旧来の公共事業バラマキ型では本当の意味での地方再生などあり得ないことも分かっている。

 では今後、どんな政策が出てくるのか。

 安倍内閣が6月24日に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」にはこんな一文がある。

 「人口減少の下で右肩上がりの時代と同じ地域戦略を採用することは、効果がないばかりか、共倒れを招きかねない」

 旧来型の地域へのバラマキ政治では、もはや再生は難しいと吐露しているのである。では何をやるか。

 「地域活性化の鍵は、若者を含めた魅力ある雇用の場を実現できるかどうかにかかっている。そのためには、地域を支える企業の合従連衡や新陳代謝を通じて、収益性・生産性の一定程度の向上を図り、地域の雇用と賃金の安定を実現する必要がある」

 地方に雇用が生まれ、経済が自立できる仕組みを作るには、企業の合従連衡などによって生産性を高めなければならない、というのである。

インパクトに欠ける「改訂2014

 問題意識は正しいが、では具体的にどうやってそれを政策としてまとめ、実行していくのか。改訂2014に書かれている施策は以下の6つだ。

 1 地域活性化関連施策をワンパッケージで実現する伴走支援プラットフォームの構築
 2 地域の中小企業・小規模事業者が中心となった「ふるさと名物応援」と地域の中堅企業等を核とした戦略産業の育成
 3 地域ぐるみの農林水産業の6次産業化、酪農家の創意工夫
 4 世界に通用する魅力ある観光地域づくり
 5 PFI/PPP を活用した民間によるインフラ運営の実現
 6 地域の経済構造改革に向けた総合的な政策推進体制の整備

 どう見ても政策としてはインパクトに欠ける。これまでアベノミクスで進めてきた政策の羅列で、地方固有の問題にはまったく斬り込めていない。

 「地方創生」を首相がどこまで本気でやろうとしているのか。統一地方選に向けて「バラマキ」政治を復活させるための口実に過ぎないのか。それとも日本経済の重石になっている構造問題として、抜本的に改革しようとしているのか。

 もし前者だとすれば、「古い自民党には戻さない」という安倍首相の言葉とは裏腹に、安倍内閣が馬脚を現すことになる。