サンケイ新聞社の発行する日刊紙「フジサンケイ・ビジネス・アイ」に8月22日に掲載された原稿です。ネットのサンケイビズにも掲載されています、是非ご一読ください。
オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/140822/mca1408220500002-n1.htm
秋以降の安倍晋三内閣の最大の課題は「地方再生」である。内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部」を置き、本部長には首相自身が就任。9月の内閣改造では担当大臣も置く。政権として本腰を入れる意気込みだ。
「アベノミクス」の効果がまだまだ地方には及んでいないという声が強い中で、来年の統一地方選挙を有利に運ぶには、地方経済の底上げが不可欠だという事情もある。だが、何よりも、日本の地方が崩壊寸前の状態に追い込まれているという現実が、政治に対応を迫っている。
地方で最も深刻なのは人口減少である。少子化による人口減少は大都市圏よりも地方で顕在化している。さらに地方でも中核都市への人口集中が進み、周辺の町村など基礎自治体の人口減少が著しい。
激しい高齢化と人口減少によって、経済活動の循環が崩壊し、基礎自治体としての機能が失われかねないところが出始めた。本部の名称が、仕事を創り、人口を増やし、町を創生するという意味なのはこのためだろう。
では、具体的にどうやって経済活動を復活させるのか。安倍内閣が6月24日に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」にはこんなくだりがある。
「人口減少の下で右肩上がりの時代と同じ地域戦略を採用することは、効果がないばかりか、共倒れを招きかねない」
この一文のいう「地域戦略」が何を指すかは明らかだろう。公共事業のバラマキによるハコモノ建設である。
公共事業の増加は一時的には仕事を増やす効果があるが、不要不急な道路や堤防、公民館やホールなどを作っても、あとあと何の利益も生まず、人口減少に歯止めをかけることは難しい。さらにハコモノの維持管理費用が重くのしかかれば、自治体の財政は破綻しかねない。
地方経済にとって、従来の公共事業は、副作用を伴うカンフル注射なのである。だが、もはや副作用に耐えられない地方が少なくない。それが「共倒れを招く」ということだろう。
ところが、選挙が近づくと旧来型のバラマキを求める声が強くなる。自民党議員の中にも「国土強靱(きょうじん)化」政策に便乗して、選挙区での公共事業の増大を求める動きが出てくる。安倍首相は就任以来、「古い自民党には戻らない」と繰り返し発言してきたが、その発言を守り通すことができるのかどうか。試される時が来る。
では、抜本的に地方経済を復活させるには何が必要か。
実は第1次安倍内閣も「地方」に手を付けようとした。「地域力再生機構」(仮称)を設立して、がんじがらめになって動かなくなったおカネの流れを復活させようと考えたのだ。
地方自治体の第三セクターや土地公社が抱える不良資産が地方の金融機関や自治体の財政を硬直化させている。それを解きほぐそうとしたわけである。
当時、未着手で終わった地方の「本質」問題は、結局、今もそのまま大半が残っている。これに安倍内閣はもう一度取り組むことができるのかどうか。「政権をかける」とまで言う安倍首相の本気度が問われる。