支持率下落の安倍首相に「経済立て直すラストチャンス」と、ある経済人が直談判した

今後の安倍内閣の政策の軸足はどこに置かれるのか。現代ビジネスにアップされた記事を編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39972


内閣支持率、初の50%割れ」−−。

日本経済新聞社は同社が7月25日から27日の間に行った世論調査の結果をこう報じた。同社の6月の調査に比べて5ポイント下がって48%となり、2012年12月の第2次安倍晋三内閣発足以降、初めて50%を割ったとしている。

内閣支持率が不支持率に逆転される流れ
不支持率も2ポイント上昇して38%と最も高くなり、支持率・不支持率の差が10ポイントにまで縮まった。NHKが7月11日から13日まで実施した政治意識月例調査でも支持率が47%と初めて50%割り、不支持率が38%にまで上昇しているので、ほぼ同様の結果が出たわけだ。

日経新聞によると、「20〜30歳代では集団的自衛権の行使容認について『評価しない』が6割近くに達している」としており、安倍首相が“信念”によって進めたとみられている集団的自衛権の容認問題が、安倍内閣の足元を揺すぶったことは間違いない。一方で、昨年末の「特定秘密保護法」を巡る強行採決の後には、各社の調査で内閣支持率は軒並み10ポイント前後急落しており、それに比べれば国民の反発は小さかった、という評価もある。

今後、秋にかけては、九州電力川内原子力発電所(鹿児島県)の再稼働問題が焦点になる。原発再稼働は国民の意見が大きく分かれる問題だけに、このままの流れが続くと、内閣支持率と不支持率が逆転する局面も予想される。支持率で見る限り、安倍内閣がひとつの「節目」を迎えつつあることは確かだろう。

そんな中、ひとりの経済人が安倍首相と向かい合っていた。首相に直言するためである。

「もう1回、経済最優先にカジを切ってもらえませんか。この国の経済を立て直すラストチャンスです。改革を進めるには内閣の高い支持率が不可欠。首相が経済最優先と言えば、必ず株価も上がり、支持率も上がります」

地方で弱いから「地方創生」
この経済人は、安倍内閣の成長戦略策定にも深く関わってきたが、安倍首相に改めてじっくり話す時間を求めたのは初めてだったという。それほど“信念”で走る安倍首相に危うさを感じていたのかもしれない。

熱のこもった意見を静かに聞いていた首相は深くうなづくと、「デフレからの脱却と地方創生は政権の最重要課題です」と答えたという。

首相就任以来、日本経済再生を最優先課題として掲げ、一定の評価を得てきたからこそ、国家安全保障局の創設や特定秘密保護法の成立、集団的安全保障の容認など、自らの“信念”に沿った政策を実現できたことを首相自身よく理解しているという。もとより「経済再生最優先」という自らのスタンスが支持の基盤であることも分かっている。

では、外交や安全保障に軸足を移したかにみえる安倍内閣は再び「経済最優先」に政権のカジを戻すのだろうか。

すでに政府与党は「地方創生」を重要課題として掲げ、「地方創生本部準備室」を立ち上げた。準備が整い次第、本部として発足、地方再生の司令塔役を果たすことになる。秋の臨時国会には、地方を活性化するための法案を提出する意向だ。

政府与党、とくに自民党公明党が地方経済の活性化を重要課題とするのにはわけがある。来年春の統一地方選挙を控えていることだ。国政でこそ高支持率を何とか維持している安倍内閣だが、地方の首長選挙などでは必ずしも勝っていない。

直近では7月13日に行われた滋賀県知事選挙で自公両党が推薦した元経済産業省官僚の小鑓隆史氏が、前民主党衆院議員の三日月大造氏に敗れている。集団的自衛権問題で浮動票が三日月氏側に流れたのは間違いないが、根底にある自民党批判は経済問題だ。

安倍首相が推進するアベノミクスによって都市圏の景気は良くなったかもしれないが、地方にはまったく恩恵が及んでいないという苛立ちが、全国の地方中小都市には広がっている。安倍官邸が「地方創生」に躍起になるのはこのためだ。

地方創生は結局バラマキで終わるのではないか
では、「地方創生」で何をやるか。

「どうせバラマキでしょう」

霞が関にはそんな声も少なくない。というのも「創生」という言葉にかつての記憶を呼び起こされた幹部が少なからずいたからだ。1988年から89年にかけての竹下登内閣で、「ふるさと創生」事業として、各市町村に1億円ずつ配布したのだ。観光地の整備など地域活性化のために使われ地域経済にプラスになったという見方がある一方で、不要不急のハコモノ建設に費やしたと批判されたケースも多く、バラマキ、無駄遣いの典型だったという見方もある。

安倍内閣アベノミクスの2本目の矢「機動的な財政出動」によって、公共事業を積み増してきた。現実には震災復興の現場などで公共事業が積み上がり、建設作業員などの深刻な人手不足を招いている。そんな中で、ハコモノ投資に資金をばらまこうとしても、実際にはおカネは流れず、地域経済の浮揚には役立たないだろう。

商店会などに補助金を付けても、実際には商店主の高齢化が進んだシャッター商店街が再び活気を取り戻すわけではない。それでも自民党内には旧来型の補助金や公共事業を求める声が少なくない。

疲弊して党員が激減したとはいえ、今でも残る党員は土建業者や商工業者で、自民党が組織をあげて下から声を吸い上げれば、古い自民党型の要望が集まってくるのである。

安倍首相に直言した経済人もその点を苦慮していた。地方創生とは名ばかりに、結局ハコモノ向けのバラマキで終わるのではないか。そうなれば、安倍首相が就任以来否定し続けてきた「古い自民党には戻らない」という公約が反故にされることになる。

地方で「古い自民党」との決別ができるかどうか
だが、安倍官邸のスタッフたちは、かつてのような古い自民党型のバラマキで地方経済が復活することなどあり得ないことに気づいている。

これは農業を巡る構造とまったく同じだ。農業振興という名前の下で補助金漬けにしてきた農業が、自立できない虚弱体質になったのと、地方経済はうり二つなのである。安倍内閣は農業政策でも「古い自民党」的政策から決別する姿勢を見せている。「強い農業」を掲げ、既得権を打破して、やる気のある農業者を支える仕組みに変えようとしているのだ。

地方経済の復活でも、これと同じ事ができるかどうかが焦点になる。これまで地方の自治体や経済界は、国に頼ることばかりを考えてきた。中央からの補助金助成金、税制優遇、国の公共事業をいかに取って来るかが優秀な首長であり、業界団体の長だった。だが、その結果、自治体自身が財政自立しようという気概を失い、地方経済を独自に反映させようという創意工夫を失わせてしまった。

本気で地方経済を復活させようと思えば、地方経済が自立し、持続的に成長できる仕組みを作り直す必要がある。

自民党が今年5月にまとめた「日本再生ビジョン」や6月の政府の成長戦略「日本再興戦略改訂2014」には、地方経済の復活に向けたいくつもの施策が盛り込まれている。そこには、「地域の新陳代謝加速」など、これまでの硬直化した地方の構造を解きほぐそうという意欲が見える。安倍内閣が、この夏から本格的に動き出す「地方創生本部」を使ってどんな改革案をまとめあげるのか。

地方創生の中味が「古い自民党」流のバラマキへの回帰なら、安倍内閣への支持率は上がらず、早晩内閣の命運は尽きるだろう。農業同様、抜本的な改革をぶち上げ地方経済の構造を一から見直す「創生」の道筋が付けられるならば、安倍内閣は再び支持を得ることになるかもしれない。付け焼刃ではない地方改革が求められる。