大都市では消費増税後初の前年同月比プラス・・・ 8月の百貨店売り上げデータをどう読むべきか?

消費増税の影響からいつ抜け出すことができるのか。消費は力強さを再び取り戻すのか。百貨店売上高のデータを分析してみました。
オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40536


12月8日のGDP発表後に消費増税の是非決断
店舗数調整後の前年同月比ではマイナス0.3%と5ヵ月連続で前年同月割れとなったが、7月のマイナス2.5%から着実に改善して、ほぼ前年同月並みの水準まで戻った。中でも、大阪、福岡、東京、横浜、神戸が、消費税引き上げ後初めて前年同月比プラスに転じたのが注目された。大都市がけん引する形で、消費が戻ってきていることを示している。

政府が9月8日に発表した4−6月期の国内総生産(GDP)改定値は、1−3月期に比べて1.8%減で、年率に換算すると7.1%の大幅悪化となった。もちろん、消費増税を控えた駆け込みで、1−3月が年率換算で6.7%増と大きく伸びた反動で、ある程度予想されたことだった。だが、この数字が発表されると、エコノミストなどを中心に景気の失速を懸念する声が急速に広まった。

というのも、消費税率の再引き上げ議論がいよいよ本格化してきたからである。安倍晋三首相は7−9月期のGDP改訂値が発表される12月8日を待ったうえで、引き上げるかどうかを判断したいとしている。

4−6月期が大幅なマイナスだったので、それと比較する7−9月期がマイナスになることは考えにくいが、プラスが想定よりも小さければ再引き上げに赤信号が灯る。税率の再引き下げに反対する立場のエコノミストなどはことさらに、足元の景気悪化を強調している面もある。つまり、消費税率をさらに引き上げるべきかどうかという政治的な立場で、景気判断にバイアスがかかっているのである。

では足元の消費は、冷静に見てどうなのか。

9月に「貴金属」「身の回り品」が伸びるかどうか
百貨店の売り上げを見る限り、7月、8月と着実に回復傾向にあるのは間違いない。

8月の百貨店売り上げで大都市と地方を合わせた全国ベースでプラスになったのは「身の回り品」(1.6%増)と「雑貨」である。身の回り品はハンドバックやアクセサリーなど。購買層は圧倒的に女性で、財布のひもを緩める際に真っ先に売れ始める部門として知られる。雑貨の中でも伸びが目立ったのは「化粧品」で、4.1%も増えた。これまた購買層は女性である。ここでも、消費税増税から5ヵ月がたって、財布のひもが緩んできているように見える。

今年3月まで百貨店の好調を支えてきたのは雑貨の中の「美術・宝飾・貴金属」部門だった。アベノミクスが始まって以降、対前年同月比で2ケタの伸びがほぼ一貫して続いてきた。株価が大きく上昇したことで、高級ブランド時計や宝石、絵画といった高額品に消費が向かったわけだ。いわゆる「資産効果」消費である。

この「美術・宝飾・貴金属」部門は今年3月に113.7%増という伸びを記録した。消費税率が5%から8%に上がればまるまる3%分の価格差が出る。高額なうえに、腐るものではないから、どうせ買うなら消費税引き上げ前に、という心理が働くのは当然だ。113.7%増というのは前の年の2.1倍売れたということだから、まさに飛ぶように売れたという感じだろう。

その反動で4月に38.9%減、5月は23.2%減と大きく減ったのは当然だろう。それでも6月には10.8%減、7月は8.0%減、8月は4.2%減と、平年並みに戻ってきた。昨年のこの時期は2ケタの伸びが続いていた時期だから、水準としては高いところに戻ってきたということだ。

回復傾向にあるのは間違いないが、だからといって、3月までの「勢い」が戻ってきたか、というとそうではない。

「美術・宝飾・貴金属」や「身の回り品」が2ケタ近い伸びになるようでなければ、「消費は強い」とは言えない。9月の百貨店売上高で、こうした高額品がどの程度の伸びを見せるかで、消費の強さが判断できるだろう。

訪日外国人の消費増と景気回復は別?
もうひとつ今の消費の実態をつかみにくい要素がある。訪日外国人による消費だ。

日本百貨店協会は免税手続きをした売り上げを「訪日外国人向け売上高」として公表している。これによると8月の購買客数は前年に比べて53.9%も増加。売上高は41.3%増えて、8月としては過去最高の47億円を記録した、という。

8月の全体の売上高が4272億円だから、全体の1%強に過ぎないが、これは氷山の一角とみるべきだろう。旅行者が免税手続きをするものに限られる。外国人が多く購入している化粧品や食品などはほとんど含まれていないのだ。

つまり、8月に好調だった「身の回り品」や「化粧品」の伸びを、訪日外国人が支えている部分は小さくない可能性があるのだ。日本政府観光局(JNTO)の推計によると2014年8月に日本を訪れた外国人は111万人。8月としては最高だった去年の90万6000人を20万3000人、22.4%も上回った。まさに訪日ラッシュが続いているのだ。彼らが百貨店などでの買い物で落とすおカネはバカにならない。

日本を旅行で訪れる外国人にとって、消費税率の引き上げはほとんど関係がないと言ってよい。それよりも急速に進んでいる円安のメリットの方がはるかに大きい。

家電製品や高級ブランド品などを購入する際には、免税手続きを行って消費税の還付を受けることも可能だ。こうした外国人による国内での消費、いわば「国内外需」が日本経済を支えるひとつの要素として急成長しているのだ。

もちろん、外国人旅行者による消費でも、国内消費には変わりないから、それが企業の利益となり、いずれ給与などの形で従業員に還流することになる。中長期的には経済にプラスになることに違いはない。

だが、こと消費税の影響という点でみると、国内に住む消費者が財布のひもを締めている「痛み」が見えにくくなっているかもしれない。よほど「勢い」が戻って来てからでないと、税率再引き上げによって消費マインドが一気に冷え込むことになってしまうのではないか。消費の伸びに勢いが戻ってくるのかどうか。9月、10月の統計データに注目したい。