いよいよ実現する? 女性が活躍する日本社会 「にいまる・さんまる」実現にはまだ大きな壁

「女性力活用」の旗を振る安倍晋三首相は「本気」です。右寄りの政治家は「女は家を守るもの」という昔ながらの価値観を持つ人が多いのですが、こと女性に関しては、安倍首相は自民党政治家の中で最も開明的のように見えます。なぜなのでしょうか。私は、「家庭内野党」の安倍昭恵夫人の存在が大きいと見てきたのですが、ついに首相自らがスピーチで家庭内の話を明かしました。日経ビジネスオンラインに書いた記事です。→http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140925/271692/


女性が活躍できる社会――。1986年の男女雇用機会均等法施行以来、何度もテーマに掲げられて来たが、実際には諸外国に比べて大きく出遅れてきた。それがここへ来てムードが変わってきた。就任以来、「女性力活用」を掲げる安倍晋三首相のリーダーシップの効果がジワジワと表れてきているように見えるのだ。

 9月は「女性活躍」が話題になる事が多かった。3日の内閣改造では首相以外に18人いる閣僚のうち5人を女性にした。高市早苗総務相、松島みどり法相、小渕優子経産相山谷えり子拉致問題担当相、有村治子行政改革担当相の5人である。官邸正面階段での記念撮影では首相の両脇と後ろを5人の女性閣僚が固め、「女性活躍内閣」をアピールした。さらに、改造に先立って行われた自民党役員人事でも政調会長稲田朋美・前行革担当相を据えた。

 5人という女性閣僚の数は過去最多と並ぶ。改造前から「首相は女性5人にこだわっている」という話が流れていたが、当選回数を積み重ねた女性ベテラン議員の数は限られているため、「実際には難しいだろう」という下馬評だった。ところがそれを首相は押し切ったのである。

意外なほど女性活躍推進に本気の安倍首相

 「妻、昭恵から説得されたからでは、もちろんありません」

 安倍首相は9月12日から14日まで政府主導で開いた女性活用の国際会議「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」でスピーチし、こう切り出した。

 安倍昭恵氏はいくつものNPOなど様々な社会運動に積極的に関わっている。どちらかというと左派系の人たちが集まる集会にも躊躇なく参加している。女性たちの集まりなどにもゲストとして引っ張りだこだ。

 「昭恵は『家庭内野党』などと言われることがあります。しかし、こと、女性の活躍については、夫婦の間で意見の相違は全くないことを告白しておきます」

 安倍首相は、昭恵さんから言われて「女性活躍」を政策の柱に掲げたわけではないが、女性が活躍できる社会を作るという点に関して、意見は一致していると明言したのだ。

 「女性活用」では安倍首相は筋金入りの推進論者だ。

 内閣には「男女共同参画担当相」が置かれることが慣例化しているが、当初は官房長官の兼務だったものを、独立した大臣として任命したのは2005年の第3次小泉改造内閣内閣が最初だったが、これを引き継ぎ、第1次安倍内閣では高市早苗氏、改造後は上川陽子氏を担当相にあてたのである。

 それ以降、2009年の政権交代まで中山恭子氏と小渕優子氏が大臣を務めた。民主党政権でも「男女共同参画担当相」は置かれたが、3年余りの間に8人の大臣が交代するなど、とても「重視」と呼べる状況ではなかった。

 第二次安倍内閣が発足すると、安倍首相はまっ先に「女性力活用」を打ち出す。もちろん、政府・官僚機構の中でも「男女共同参画」は着々と進めるべき政策テーマとして捉えられてきたが、こと政治家、とくに男性政治家で、この問題に深く関心を示してきたのは安倍氏を置いて他にはいない。アベノミクスを打ち出し、その成長戦略をまとめていく過程で、いの一番の打ち出したのが「女性力活用」だった。

 しかも、安倍首相が繰り返しているのは、女性力の活用を「社会問題」として捉えるのではなく、「経済問題」として捉えている、という点だ。つまり、「男女同権」といった旧来からの権利意識から女性活躍を訴えるのではなく、女性が活躍することが経済的にプラスになる、という「実利」を訴えたのだ。

 国際シンポジウムのスピーチでも安倍首相はこう述べている。

「社会問題」より「経済問題」としてアピール

 「(米)フォーチュン誌の選んだ上位500社を対象にした調査では、女性役員を3人以上擁する企業は、1人もいない企業に比べ、8割以上も利益率が高く、株の投資先としても有利であるという結果が出たとのことです」

 つまり、女性がいる方が企業の収益性は上がる、というのである。女性登用は権利や義務ではなく、実利面からみて必要不可欠、という安倍首相の論法に反論するのは難しい。従来の男社会を守ろうという潜在意識が強い大手企業のトップも、「女性がいた方が儲けられる」と言われれば、なかなか反論できない。なにせ、日本企業はこの20年、低収益に喘いで、「儲けられない」状況に陥っているから、下手な反論は経営者としての能力を問い直されることになりかねない。

 政府主導の会議と並んで、民間レベルでも9月には様々な会合が開かれた。9月19日にはジャパン・ダイバーシティ・ネットワーク(代表理事・内永ゆか子氏)が主催した「ダイバーシティが社会を変える」というシンポジウムが開かれた。

 また、米ロサンゼルスを拠点に、日米の架け橋としてグローバルに活躍する女性リーダーの育成を支援するNPO団体GOLD(Global Organization for Leadership andDiversity、代表・建部博子氏)の6回目のシンポジウムも同日、東京で開かれた。

 女性に対するリーダーシップ教育の重要性を訴え続けてきた建部氏は、「誰かが旗を振らないと女性の活躍の場は広がらない。安倍首相のリーダーシップが良いきっかけになっている」と評価する。

 安倍首相は海外でのスピーチでも繰り返し「女性力活用」に取り組む姿勢を示しているが、この効果は大きい、という指摘もある。

 安倍首相は「もし(経営破綻した)リーマン・ブラザーズリーマン・ブラザーズ・アンド・シスターズだったら今も存続していたのではないか」というコラムニストの言葉を何度も引用している。日本が進める女性力の活用が経済成長にもプラスになる、と訴えているのだ。

 さらに、2013年に国連本部で行った一般討論演説では、女性が輝く社会をつくるという自らの政策は国内にとどまらず「日本外交を導く糸となる」として、「紛争下の地域、貧困に悩む国々でも、『女性が輝く社会』をもたらしたいと、私は念じます」と述べ、喝さいを浴びた。

 日本に住む米国人ジャーナリストは、「日本を詳しく知らない外国人は、日本女性はまだまだ男性に従属しているとイメージを持っている。首相が海外で、日本での変化を訴えることは、国際社会の感覚を変える役割を担っている」という。

「指導的地位に女性30%」実現への具体策は乏しい

 安倍内閣は、2020年までに指導的地位に立つ女性の割合を少なくとも30%にするという目標を掲げている。「にいまる・さんまる」と呼ばれるターゲットだ。この目標は実際には2003年に掲げられたものだが、安倍内閣が発足するまで、実現が可能だと考える人はほとんどいなかった。

 安倍首相は自らの人事権をフルに使って女性を登用しているのに加えて、経済団体トップに取締役に最低ひとり女性を入れることなどを呼びかけている。企業に管理職に就いている女性の割合を公表させるなど、情報開示も強化する。だが、30%を実現するほどの、社会が変わるインパクトのある具体的な政策はまだ打ち出されているとは言い難い。今後、安倍首相がどんな政策を打ち出すか。注目したい。