内閣改造に見えない岸田首相の「本気度」。デジタル、女性、経済対策いずれも期待外れ

現代ビジネスに9月20日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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期待「高まらず」

岸田文雄首相が9月13日に内閣を改造し、第2次岸田第2次改造内閣が発足した。直面する課題に対応できる強力な布陣を敷くと改造前には見られ、いくつかの売り物ポストが事前に報じられていたが、蓋を開けてみれば斬新さに欠ける改造となった。

内閣改造で期待『高まっていない』77%」

改造直後の9月16、17日に世論調査を実施した毎日新聞は、こんな見出しを掲げた。内閣支持率は25%と8月の26%(26、27日に調査)から1ポイントの低下し、岸田内閣発足以来最低だった2022年12月の調査と並んだ。不支持率は8月と同じ68%だった。支持率で見る限り、内閣改造は空振りで、与党内からも落胆の声が漏れていた。

世論調査では改造で内閣への期待が高まったかどうかも聞いていたが、77%が「高まっていない」と答え、「高まった」はわずか10%だった。

河野太郎留任

今年5月までは上向いていた岸田内閣の支持率が低下した要因のひとつはマイナンバーカードの紐付け個人情報のミスが大量に見つかるなどトラブルが続出していること。デジタル化対応への不信感が強まっていた。一方で、マイナンバーカードに健康保険証を一体化して来年秋までに現行の保険証を廃止する姿勢は崩さないなど、デジタル対応にどう向き合っていくのかが焦点になっていた。

そんな中で、改造前に「デジタル行財政改革担当相」という閣僚ポストを新設し、省庁横断の司令塔機能を持たせるという報道がなされた。6月に「令和版デジタル行財政改革」を政府の重要政策に位置付けると自ら打ち出していた方針を形にするものだった。当初はマイナンバーカード問題で火だるまになっている河野太郎デジタル相を交代させると見られたが、結局、蓋を開ければ、河野大臣が残留、新担当を兼務することで終わった。

河野氏にはデジタル大臣とデジタル行財政改革担当に加え、デジタル田園都市国家構想担当、行財政改革担当、国家公務員制度担当、内閣府特命担当大臣(規制改革)の肩書きが並ぶ。岸田首相がぶち上げた“目玉政策”を軒並み引き受けた格好だが、省庁の枠を超えてこうした改革を実行できるとなると、まさにスーパーマンだ。

河野氏が岸田氏の右腕ということならそれも納得できるが、河野氏は岸田氏の後を狙うライバル。悪く言えば、課題はすべて政敵に押し付けたとも言える。デジタル化による行財政改革で省庁の縦割りを打破し、行政コストを引き下げようと岸田首相が考えているのか、その「本気度」にも疑問符が付いた格好だ。

女性副大臣政務官はゼロに

もう1つの改造の焦点は女性登用だった。安倍晋三内閣時代から女性活躍促進は課題として掲げられてきたが、日本社会全体でジェンダーバランスが大きなテーマになっている。上場企業の間でも女性取締役がいない企業の経営トップの選任議案に株主総会機関投資家が反対票を投じる例が相次ぎ、閣僚への女性登用は大きな焦点だった。おそらく岸田首相にそれを提言した側近がいたのだろう。改造では過去最多に並ぶ5人を起用した。

これで世の中からは評価されると考えたのだろう。実際、FNNの世論調査(9月16、17日実施)では、内閣支持率自体は下がったものの、5人の女性閣僚の起用については「評価する」が65%に達した。

もっとも、このプラス評価もすぐさま消え去ることになった。というのも組閣2日後に明らかになった副大臣大臣政務官の人事では、一転して54人全員を男性が占めた。前回の改造では副大臣政務官に11人の女性がいたことを考えると、目立つ大臣の数では「最多」にこだわったものの、あまり報道対象にならない副大臣政務官では本音が出たとも言える。結局、女性活用でも首相の「本気度」が問われることとなった。

厚労相にマイナ保険証抵抗勢力

改造の焦点の3つ目は何と言っても経済対策。岸田首相は早くから改造後に新たな経済対策を打ち出すとしており、経済官僚に実力派を据えるのではないかと見られていた。

実際に蓋を開けると、主要な経済閣僚は残留となった。鈴木俊一財務相にせよ、西村康稔経済産業相にせよ、それぞれの所管省庁の方針にそった判断をし、政治的な主張を強く打ち出すタイプではない。小泉純一郎内閣や安倍内閣時代は、官邸主導で「経済財政政策担当相」が強い力を持ったが、改造でこのポストに座ったのは新藤義孝氏。総務相などを務め、行政改革などに高い知見を持つが、経済財政でリーダーシップを発揮するタイプではない。

岸田首相は経済対策について、「物価高から国民を守り、賃上げと投資の拡大の流れをより強いものとする総合経済対策にしたい」としているが、結局のところ、各省庁任せになりそうな気配だ。

ちなみに河野氏がデジタル行財政改革担当相として大活躍する可能性もないではないが、これまでマイナ保険証の推進を共に強く主張してきた加藤勝信厚労相が退任、後任には何と日本医師会の支持を受ける武見敬三氏が就任した。医師会は現行の紙の保険証の廃止に抵抗しており、武見氏は就任記者会見でも「予定通り廃止する」とは明言しなかった。河野氏と対立すれば、デジタル改革は大きく躓くことになりかねない。

いずれにせよ、首相の本気度が伝わって来ない改造に、多くの国民が「期待外れ」と感じているのだろう。