法人減税で「サプライズ」なるか

サンケイ新聞社の発行する日刊紙「フジサンケイ・ビジネス・アイ」に10月29日に掲載された原稿です。ネットのサンケイビズにも掲載されています、是非ご一読ください。
オリジナル→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/141029/mca1410290500001-n1.htm


 「このままではアベノミクスは、アベNOミクスだ」-。旧知の米国人エコノミストの訪問を受けたある閣僚は、そんな厳しい評価を聞かされて驚いたという。アベノミクスは口先ばかりで実行が伴わない、というのだ。もともとそのエコノミスト氏はアベノミクス支持者で、6月に安倍晋三内閣が閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」も高く評価していた人物だった、という。それがここへきて評価を一変させている、というのだ。

 日本株に注目していた外国人投資家の多くは、アベノミクスに疑念を抱き始めている。1本目の矢である大胆な金融緩和の効果が明らかに薄れてきたと見ているのだ。消費税率引き上げの影響がジワジワと広がり、足元の消費の弱さが目立ってきた。2本目の矢である機動的な財政出動も、建設現場の人手不足で、予算を積み上げても消化できない。

 本来は1本目と2本目で景気に火がついたところで、3本目の矢である成長戦略が徐々に効果を上げてくるというシナリオだったはずだが、改革はなかなか具体的な行動になって表れてこない。そういら立っているのである。

 「農協改革だって年内にまとめる方向で、やるべき事は着々とやっているのだが」と安倍官邸の改革派はぼやくが、なかなか外国人に伝わらない。安倍首相が繰り返し海外で行ってきたスピーチの評価が高く、改革期待を盛り上げた反動とも言えなくもない。それだけに、具体的な中身への期待度が高まっているわけだ。

 そんな外国人投資家が注目するアベノミクスの具体的な政策とは何か。

 短期的には「法人税減税」の具体的な中身だろう。成長戦略では「数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」と書かれている。実効税率は2013年度で37%だったので、20%台にするという方針は発表した段階ではかなりのインパクトがあった。

 では何年かけて、何%まで引き下げるのか。「年末に向けて議論を進め、具体案を得る」ことになっている。そこで「サプライズ」を起こすことができるかどうかで、アベノミクスへの評価の流れは変わる。

 数年とはふつう3〜4年を意味する。最大でも5年だろう。20%台というのはギリギリが29.9%である。だから、「5年かけて29.9%にする」というのが最低レベルで、これでは「サプライズ」は起きない。

 だが、それ以上に下げようとすれば、財務省などの抵抗は必至だ。成長戦略にも「2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するよう、課税ベースの拡大等による恒久財源の確保をすることとし」という一文が盛り込まれている。つまり、法人税減税には財源の確保が前提だ、という縛りがかかっているのだ。

 農業や医療、雇用制度など「岩盤規制」改革で目に見える成果が上がるには、まだ時間がかかる。それまで期待をつなぎ留められるかどうかは、法人税率の引き下げの具体的なスケジュールをどこまで示すことができるか。海外投資家の間に失望が広がれば、日本株が売られるなど、経済にも大きな影響を及ぼすことになる。