アベノミクスの成果はあったか。今年の10大ニュースで検証する

アベノミクス」もそろそろ2年がたちます。安倍首相が強調するほど成果が出ているのか、今後も期待はできるのか。来年は、その評価が定まる年になるのではないでそうか。2014年最後の現代ビジネス原稿がアップされました。オリジナル→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41529


2014年も「経済」に多くの関心が集まった年だった。アベノミクスで景気は良くなるのか。日々の生活は改善するのか。株価は上昇するか。年金など社会保障の将来は大丈夫かーー。そんな疑問や不安を持って安倍晋三首相の政権運営を見守って来た人も多いに違いない。

安倍首相が「アベノミクスを問う選挙」と位置付けた12月の解散総選挙では、与党が議席の3分の2を獲得したものの、投票率は戦後最低となった。

アベノミクス十大ニュース
アベノミクスに代わる経済政策を打ち出せなかった民主党があまり議席を伸ばせず、アベノミクスに一貫して反対してきた共産党が躍進した。選挙結果は、アベノミクスは消極的賛成を得たに過ぎないと言ってもよいだろう。それほどにアベノミクスの具体的な成果が国民の目に見えていないということだろう。

いったい今後、アベノミクスによってどんな変化が起き、経済はどう動いていくのか。それを占うために、私が選んだ2014年1年間の「アベノミクス十大ニュース」を振り返り、検証してみることにしよう。

アベノミクス十大ニュース
1 成長戦略に「コーポレートガバナンス強化」を明記
2 法人税率の20%台への引き下げ方針を決定
3 「JPX日経インデックス400」の先物上場
4 スチュワードシップコードを制定
5 コーポレートガバナンス・コードの策定
6 国家戦略特区を指定
7 GPIFポートフォリオ見直し
8 女性力の活用訴え
9 農協改革
10 消費税率再引き上げの見送り

6月24日に閣議決定された成長戦略「日本再興戦略 改訂2014」には、注目すべきいくつかの政策が盛り込まれた。1年前に成長戦略「日本再興戦略」を閣議決定した際に比べて、内外の評価は高かった。

もっとも画期的だったのが、「日本の稼ぐ力を取り戻す」として、真っ先に「コーポレートガバナンスの強化」を上げたことだろう。日本企業が稼ぐ力を取り戻すことで日本経済全体の成長力を取り戻そうという発想だ。従来の成長戦略は。国が見定めた戦略分野に補助金を付けるなど、「国が企業に何をするか」が中心の議論だったが、今回は、まずは企業自身に変化を求めることで、国自体も変わっていこうという志向に転換したのである。

コーポレートガバナンスで企業経営に緊張感を持たせることで、経営者自身が低採算の事業を見直し、収益性の高い事業へ集中していくことを促している。従来のガバナンス論は、不正防止や経営者の暴走阻止に重点を置いて語られることが多かったが、むしろ企業がより儲けるために経営者の背中を押す仕組みとしてガバナンスの重要性が語られるようになった。

法人税減税
1つの柱である社外取締役の導入についても、外部からの不正に対するチェック役を期待するという視点から、戦略的な経営判断に外部の知見を入れるという視点へと大きく変わりつつある。

国の成長戦略の中にROE(株主資本利益率)という言葉が書き込まれたのも画期的なことだろう。

ガバナンスの強化で、企業経営者に厳しさを求める一方で、経営者が求めてきた法人税減税にも大きく踏み込んだ。閣議決定した成長戦略の中に、「数年で法人実効税率を 20%台まで引き下げることを目指す。この引下げは、来年度から開始する」と明示したことで、財務省が強く抵抗してきた法人税率の引き下げが実現に向けて動き出すこととなった。法人税の実効税率は現在35%で、これを最低で29%まで下げるとすると、6%ポイントの引き下げが必要になる。初年度の引き下げ幅をどのくらいにするのか、政府与党は年内にも固める方針だ。

ROEの高さを目指す
企業に変化を促す効果が大きそうなのは東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が2014年1月から算出を始めた「JPX日経インデックス400(JPX400)」という新しい株価指数だ。

ROEの高さなど経営指標をベースに400社が選ばれ、毎年夏に入れ替えが行われる。国際的に通用するグローバル企業というのが選定の謳い文句だけに、経営者の間で、何とかこの指数に選ばれようという動きが強まった。つまり、ROEの向上などを目指す経営者が増えたのだ。

指数の構成銘柄として選ばれる意味はほかにもある。インデックスを使った投資信託などが設定されるようになり、指数構成銘柄への買いニーズが一気に高まったのだ。つまり、インデックスに採用されると自社の株式売買が増えるという副次効果が出始めたわけだ。さらに11月末に新指数の先物が上場され、人気を博していることから、先物取引に関連した現物の売り買いも増えている。

これまで日本を代表する指数は日経平均株価だったが、日経平均は株価の時価総額が大きい企業が主として選ばれる。好業績企業を集めたJPX400が人気を博すのはある意味当然ともいえる。今後、日本を代表する株価指数になっていくだろう。この指数や指数先物の導入も、成長戦略で求められていたもので、アベノミクスの柱のひとつと言うことができる。

スチュワードシップコード
そうした企業の変化を外部から促す仕組みとして導入されたのが、スチュワードシップコードだ。企業の株式を持つ金融機関など「機関投資家」が、株主としてどう行動するかを示したもので、昨年の成長戦略を受けて今年2月に策定された。ほとんどの機関投資家がこのコードの受け入れを表明。株主として適正に行動することを宣言した。

例えば従来は、生命保険会社が保険契約を取るためや関係維持のために、企業の株式を取得し、株主権の行使を適正に行っていなかったようなケースもみられた。今後は保険契約者の利益を最大化する視点で株主権の行使が迫られるようになる。つまり、一種の株式持ち合いで、経営者に白紙委任状を渡すような行動はとれなくなるわけである。

来年に向けて策定が急がれているのがコーポレートガバナンス・コード。日本企業の「あるべき姿」を示し、遵守できない場合にはその理由を記載することになる。会社法などでは絶対的に遵守する線がルールになるため、最低水準が決められるが、あるべき姿では理想像を示すことが可能。懸案の独立社外取締役についても2人以上の設置が、「あるべき姿」として明記され、3分の1以上を社外取締役としようとする企業も、その方針などを明記するようコードに記載された。

来年の株主総会からこのコードの遵守が求められる見通しで、日本企業の経営体制のあり方が大きく変わるきっかけになりそうだ。

企業の間で、ダイバーシティ(多様性)を追及する動きも強まっている。多様性が企業の収益性を高めるという分析はほぼ定着している。安倍首相が就任以来繰り返し主張してきた女性力の活用も、企業内に急速に広がっている。女性幹部の登用に踏み切る企業が相次いでいるのだ。これもアベノミクスの効果と言っていいだろう。

企業が変わった後、国はどう変わるか。企業活動の自由度を増すためには規制改革が不可欠になる。特に医療や農業、労働分野は、安倍首相が言う「岩盤規制」として自由度を著しく縛っている。

農協改革がアベノミクスバロメータ
安倍首相はこれら岩盤規制に穴をあけるために「国家戦略特区」を指定し、その中で規制を大胆に見直すとした。3月には具体的な特区地域が指定された。農業分野では新潟市兵庫県養父市、医療など複合的な国際都市としての基盤整備として大阪を中心とする関西圏と東京圏、ベンチャー育成など労働分野の規制改革拠点として福岡市、観光拠点として沖縄県の6つが「国家戦略特区」に指定された。

今後は、それぞれの地域で、どれぐらい具体的な規制突破の成功例が出てくるかどうかがカギだろう。さらに、地方創生などを目指して、特区の拡充にも取り組む姿勢を見せている。

農協改革は岩盤規制の象徴的な存在。JA全中の実質的な解体がどこまでできるか。今後のアベノミクスの改革度合を測るバロメーターになる。

もっとも、夏ごろからアベノミクスの効果に対する批判的な見方が広がった。4月に消費税率を5%から8%に引き上げた影響がジワジワと出始めたことも大きい。夏以降の消費が盛り上がらず、このままでは景気が失速する可能性も出ていた。

そんな中で、安倍首相が取り組んだのがGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用資産のポートフォリオ見直しである。これまで国債中心だった運用を株式などに大きくシフトさせる決断を下した。デフレからインフレに経済体制が変わるとみれば、債券から株式へのシフトは合理的だが、一方で、大幅なポートフォリオの組み替えを一気に行ったことから、株式相場の上昇に結び付いたという見方も出ていた。

さらに、安倍首相自身が消費税率の再引き上げを2015年10月から2017年4月に延期する方針を決断。野党からは「アベノミクスの失敗を糊塗するための決断だ」という批判を浴びた。増税延期が、今後、日本の景気にどんな影響を与えるかは、今のところまだ見えていない。

年明け以降も、アベノミクスの行方に人々の関心を集まるだろう。第1の矢の大胆な金融緩和や、第2の矢の機動的な財政出動は、即効性のあるカンフル剤だ。その効果が持続している間に、第3の矢である構造改革、規制改革を実行しなければ、本当の経済成長には結びついていかない。どれだけ第3の矢で成果を出すことができるのか。3年目を迎えるアベノミクスの真価が問われることになる。