GDP下方修正の日に日経平均1万8千円台 「不自然な株高」を演出しているのは誰か

「投票日まで持つか」という発言をする証券関係者が増えていましたが、一時、日経平均株価が1万8000円を付けたことで、市場に達成ムードが広がり、売りを誘ったようです。10日は400円の大幅安で引けました。どうやら強気一辺倒ではなくなってきたようです。現代ビジネスに書いた原稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41386


12月8日、日経平均株価が一時、7年4ヵ月ぶりに1万8000円台に乗せた。円安の進行や米国の雇用情勢の改善などを材料とされていたが、市場関係者からは「不自然な買い」を指摘する声もあった。

景気は低調、上げ相場は続くのか
8日は今年7〜9月期の国内総生産(GDP)の改定値が発表された。先月の速報段階で年率換算でマイナス1.6%だったが、発表ではマイナス1.9%と下方修正された。企業の設備投資がマイナス0.2%から0.4%に、公共投資がプラス2.2%からプラス1.4%にそれぞれ下方修正されたことが響いた。

先月の速報値段階で安倍晋三首相が消費増税の先送りと解散総選挙を表明しており、改定値への関心が薄れていたとはいえ、景気の低調さを改めて示した。日経平均株価もいったんは1万8030円まで付けたが、結局引け値は1万7935円と前週末比15円高にとどまった。

市場関係者の関心はこの上げ相場がいつまで続くか。10月21日に1万4804円だった日経平均株価は、10月31日の日銀による追加緩和とGPIF(年金積立金等管理運用独立行政法人)のポートフォリオ見直しによって、一気に上昇に弾みが付いた。わずか1ヵ月半の間に3000円、20%以上も上昇したのである。

この上昇を支えたのは海外投資家だった。

東京証券取引所の投資部門別売買動向によると、11月1ヵ月間(11月4日〜28日)に、海外投資家は1兆2586億円を買い越したのである。週ベースでは10月20日の週から11月21日まで5週連続で買い越していたから、ほぼ日経平均の上昇は海外投資家が支えたと言っても過言ではない。11月トータルでは証券会社の自己売買部門も9714億円買い越しており、相場上昇に色を添えた。

2013年に15兆円も買い越した海外投資家だったが、今年に入ってからは日本株に慎重姿勢を取り続けていた。そんな海外投資家が一気に買いに動いたのはなぜか。

安倍官邸の周囲にも株高を演出したいムード
GPIFのポートフォリオ見直しを評価したのは間違いない。GPIFが運用する130兆円あまりの投資先を、日本国債を中心とする「国内債券」60%から35%に引き下げる一方で、国内株式の割合を12%から25%に、外国株式の割合を12%から25%に、外国債券を11%から15%にそれぞれ引き上げたのである。 

このポートフォリオ見直しは現在動いている2014年度末までの中期計画の見直しという形で行われているので、早ければ来年3月にもこの割合が実現することになる。GPIF幹部が「できるだけ早期に見直す」と発言したと報じられ、株式市場で「材料視」された。

なにせ130兆円にのぼる運用資産の5%分が動くだけで、6.5兆円の資金が入ってくるのだから、投資家は無視できない。国内株式を12%から25%に引き上げられるという方針が、日本の株式市場にプラスに働くのは間違いないからだ。

一方で、国債を60%から35%に引き下げれば、その分、GPIFが債券を処分することになるわけだが、これはポートフォリオ見直しと同時に行われた日本銀行の追加金融緩和が“引き受ける”格好になった。つまり、GPIFが処分しても、日銀が買い増すので、国債暴落は起きないという“流れ”ができたのである。

巨額の資金が入ってくる日本株市場を無視できない、というのが海外投資家の動きにつながった。特に短期の利益を狙うヘッジファンドが、率先して買っていたことは間違いない。

安倍官邸の周囲にも「株高」を演出したいというムードが強くある。アベノミクスで選挙を戦う以上、株価が下落傾向にあっては戦いにならない。GPIFのポートフォリオ見直しもそうした政府の思惑と機を同じくしている、と市場関係者は感じている。

国内投資家の間で、12月に入って、「不自然さ」を指摘する声が増えている。その日の材料に関係なく、日経平均株価の構成銘柄などを中心に、幅広く買い物が入っている、というのだ。GPIFの資金が日経平均株価が上昇するように株を買っているのではないか、というのだ。GDPの下方修正という悪材料が出た8日に節目の1万8000円に乗せたのが典型だというのだ。つまり、政府が株価をコントロールしようとしているのではないか、というわけだ。

個人投資家は、アベノミクスを信任せず!?
だが、政府がコントロールできていない投資主体がいる。個人投資家である。週ベースでは10月20日の週以降、6週続けて売り越しとなっている。その額合計2兆8800億円。11月1ヵ月だけに限っても1兆9837億円を売り越したのである。株価が上昇したところで、いったん利益を確定しておこうという売り物が多かったのだろう。

今年1月〜3月に海外投資家が売り越したタイミングで、個人投資家は買いに回っていた。海外投資家とGPIFが買いに回っている時を、個人は絶好の売り場とみなしているのだ。

安倍首相がいくらアベノミクスの成果を声高に叫んでも、将来にわたって景気が良くなるという確信を個人は持てていないということでもある。個人の投資動向を見る限り、アベノミクスは十分に信任を得られていないようだ。

では、海外投資家は、アベノミクスの成功を信じて、日本株を買っているのだろうか。そうではなさそうだ。GPIFのポートフォリオ見直しをきっかけに買いに動いた海外投資家は、ヘッジファンドなど短期の利益を狙う投資家が多いと見られ、年金やプライベートバンクなどの長期資金が本格的に日本株に向かっているわけではない。

短期的な利益が得られると思えば、株価水準が一定以上になると、買いを一変、売りに出てくる可能性は十分にあるわけだ。市場関係者が海外投資家の動向を注視しているのはそのためだ。もちろん、今年の1月とは違い、外国人投資家の売りが相場全体を大きく崩すことになるかどうかは分からない。今年1月とは違い、GPIFの資金による買いがまだまだ入ってくる可能性があるからだ。

そのタイミングで、焦点の個人投資家がどう動くのか。アベノミクスを問い直す選挙の結果を見て、日本経済の先行きに期待が持てるとなれば、再び下値を拾う動きが広がることになるだろう。