消費の動向は庶民の景況感を端的に示しています。百貨店売上高は昨年12月も対前年比マイナス。アベノミクスの効果が実感できないという声を数字が裏付けています。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41841
株式相場の上昇や、公務員や大企業のボーナス増で期待された昨年の「年末商戦」が空振りに終わった。
消費増税の反動が続く
日本百貨店協会が1月19日に発表した全国百貨店売上高概況(店舗数調整後)によると、昨年12月は前年同月比1.7%減と、消費増税以降9ヵ月連続のマイナスとなった。アベノミクスによる円安で企業業績が改善、給与が増えるという「経済好循環」を安倍晋三首相は繰り返し強調しているが、その成果のバロメーターと言える消費は盛り上がりに欠けている。安倍政権発足後の1年間は消費好調が続いたが、そのムードを昨年4月の消費増税が一気に打ち砕いてしまった。アベノミクス効果の「息切れ」が鮮明になったと言えそうだ。
昨年1月から12月の累計では、0.3%のプラス(店舗数調整前は0.1%のマイナス)とほぼ前の年並みだった。4月からの消費増税を控えて、1〜3月には駆け込む消費が膨らみ、特に3月は空前の売上高となったが、4月以降の9ヵ月間でその貯金をほぼ食い尽くした。
地域別では、大阪(3.3%増)、名古屋(3.1%増)、福岡(2.4%増)、東京(1.5%増)と、大都市圏では比較的順調だったが、大都市以外の地方は軒並みマイナスになった。百貨店消費でみても、地方経済の苦戦が目立っている。
また、商品別では「衣料品」(1.1%減)や「家庭用品」(1.7%減)、「食堂喫茶」(3.0%減)などがマイナスとなった。一方、駆け込み需要の大きかった「美術・宝飾・貴金属」(5.3%増)や「化粧品」(6.6%増)、ハンドバッグなどの「身の回り品」(2.7%増)は年間にならしても何とかプラスを維持した。もっとも、「美術・宝飾・貴金属」部門は消費増税前まで対前年同月比で二ケタの伸びが続いてきただけに、消費増税の反動がいかに大きかったかを示している。
財務省の見通し外れ、安倍首相怒る
安倍首相は11月に消費税率の再引き上げを当初予定の今年10月から2017年4月に先延ばしすることを決めた。その理由は、財務省がさんざん主張してきた4月の消費増税の影響は短期間で吸収できるという見通しが大幅に外れたことに怒ったためだとされる。
例えば、アベノミクス開始以来、対前年同月比でほぼプラスが続いていた月次の百貨店売上高は、4月以降、12.0%減→4.2%減→4.6%減→2.5%減→0.3%減と、8月までは減少幅が着実に小さくなり、プラスに転じるのではないかと見られていた。
ところが9月は0.7%減、10月は2.2%減と一向にプラスに転じることはなかったのである。結局、11月も1.0%減、12月は1.7%減と水面下に沈んだままの状態が続いている。「好循環」どころか、めっきり消費が盛り上がるムードは見られなくなってしまったのである。
5%から8%へと一気に引き上げたとこで、消費マインドを冷やしてしまった可能性が強いのだ。
もうひとつ、アベノミクスの「消費」喚起には、円安による株高で、株式を保有している層の収益が上がり、その分、消費に向かう「資産効果」もあるとされてきた。実際、アベノミクスが始まる前後からほぼ二ケタ以上の伸びが続いてきた「美術・宝飾・貴金属」部門の好調は、その証明だとされてきた。
ところが、この「美術・宝飾・貴金属」も消費増税で大きな影響を受ける。駆け込み需要が大きかっただけに、その後の落ち込みも長く続いているのだ。
4月以降の増減率は、38.9%減→23.2%減→10.8%減→8.0%減→4.2%減→2.8%減と、9月までは減少幅が着実に小さくなっているように見えた。ところが、10月は6.4%減に拡大してしまう。
11月以降株高となり、日経平均株価は一時1万8000円を付けるが、それでも11月の「美術・宝飾・貴金属」は0.6%減だった。ようやく12月になって6.5%の増加となったが、全体の売り上げをプラスに押し上げるほどの原動力にはならなかった。
経済最優先!
それでも12月の高額品消費が9か月ぶりのプラスに転じたのは明るい材料と見ることもできる。だが、本当にこれが「経済好循環」が始まる兆候なのかどうかは、もう少し見極める必要がありそうだ。
というのも、今年の年末商戦では大きな異変があったからだ。というのは、バーゲンセールの会場で大量に商品を買っていた客の多くが外国人旅行者だったこと。いわゆる「国内外需」「インバウンド消費」と呼ばれる消費が百貨店売上高で馬鹿に出来ない規模になってきたのである。
日本百貨店協会の調べでは、免税カウンターで手続きをした商品の集計で12月に初めて100億円を突破して126億円を記録。年間でも730億円と前の年の384億円に比べて1.9倍に増えた。
12月の売上高は7100億円なので、126億円は一見、微々たる金額に見える。実際には、免税対象外の商品なども大量に購入しているのは確実で、百貨店売上高への外国人観光客の貢献度は大きい。
ちなみに10月から免税範囲が拡大され、化粧品なども含まれた。化粧品の売り上げの伸びにも外国人旅行者は大きく貢献していると見られる。もちろん、免税手続きを行う外国人旅行者にとっては消費税増税はほとんど関係がない。つまり、国内居住者の消費ムードは、もしかすると、数字以上に悪い可能性がくすぶっているのだ。
安倍政権が期待する株高も、年明け以降、不安感が増している。原油価格の下落やロシア通貨の暴落、スイスフランの急騰など、国際金融市場が不安定になっているからだ。株価も上下幅が大きくなっており、株価上昇による資産効果を体感している個人はそう多くないのかもしれない。
安倍首相は「経済最優先」で、アベノミクスが掲げる構造改革などを進めていく姿勢を強調している。日本企業が「稼ぐ力」を取り戻し、給与が増え、消費が再び盛り上がりを見せるのかどうか。3年目を迎えたアベノミクスが具体的な成果を上げられるかどうかが焦点になる。