百貨店消費の実態は?高級品や化粧品の販売は底入れ 外国人消費の効果除いた実質はまだ水面下。

消費の行方はいったいどうなるのでしょうか。消費税率引き上げがジワリと財布を圧迫しているようにも見えます。現代ビジネスにGW前に掲載された原稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43120

昨年4月の消費増税にからんで、駆け込み需要とその反動減があまりにも激しかったために、消費関係の統計ははなはだ実態がつかみにくくなっている。4月21日に日本百貨店協会が発表した今年3月の全国百貨店売上高がその典型で、前年同月比19.7%減という大幅な落ち込みになった。

 昨年3月の売上高はその1年前に比べて25.4%増えていたから、駆け込みによる急増分が剥げたことが減少の主因なわけである。今後発表される今年4月の売上高は、1年前が12.0%の大幅減だったので、今年は間違いなく大きなプラス数字になる。だが、そんな数字の乱高下を見て一喜一憂していても実態は見えない。

2年前の3月と比べると・・・
 そこで、今年3月の売上高を実額で2年前の数字と比べてみた。

 今年3月の全国百貨店売上高は5441億円。2年前は5447億円だから0.1%減とほぼ横ばいだった。アベノミクスが始って百貨店売上高が伸び始めた頃の水準を維持しているわけだ。消費増税の影響で、消費が振り出しに戻ったという見方もできるし、一方で、消費は底割れせずにアベノミクス当初の水準を維持しているという見方もできる。

 そんな中で特長的なのは高級ブランド品などの「美術・宝飾・貴金属」や「化粧品」、ハンドバッグや財布などの「身の回り品」は2年前に比べても伸びていることだ。3月の「美術・宝飾・貴金属」の売上高は306億円と、2年前の261億円に比べて17.2%も増えている。「化粧品」は358億円と300億円から19.1%も増えた。年平均にしても2ケタ近い伸び率ということになる。

アベノミクスが始まると、百貨店売上高の中でもまっ先に「美術・宝飾・貴金属」の伸びが始まった。円安に伴って株価が上昇し始めたことから、株式を保有している富裕層を中心に財布のひもが緩んだためとみられた。保有資産が増えた分が消費に回ったことから「資産効果」と言われた。この高級品の大幅な伸びは昨年4月の消費増税直前まで続いた。消費増税で大きな影響を受けてはいるが、2年前に比べるとまだまだ高い水準にあるわけで、高級品消費は今も底堅いと見ていいだろう。

 東京や大阪など主要10都市だけをみると3621億円と2年前の3588億円から0.9%増えている。大都市圏を中心に高級品の売り上げが底堅いというここ2年間の傾向を数字は如実に示していると言えるだろう。

高級品は利益率が高いことから、百貨店の業績にとっては大いにプラスになっている。例えば2月決算の高島屋が4月7日に発表した2015年2月期連結決算は、売上高は9125億円と、前の期に比べて0.9%の増加に留まったが、営業利益は320億円と10.0%増、純利益が225億円と20.7%も増えた。小幅増収ながら大幅な利益増加につながったのは高級宝飾品など収益性の高い商品が大きく伸びたことが大きい。

外国人観光客の売り上げは大きく伸びたが・・・
 もっとも、こうした高級品商品が必ずしも国民全般の「消費意欲の高さ」を示しているかどうかは分からない。同じく日本百貨店協会がまとめている外国人観光客向けの売り上げ動向によると、外国人観光客が免税手続きを行って購入した商品の3月の売上高は138億3000万円と、前の年の3月に比べて3.2倍に膨らんだ。昨年10月から化粧品などが免税対象に加わったことが大きい。

 全国百貨店売上高の統計は85社244店舗が対象だが、外国人観光客向けの売り上げ動向調査の対象は61店舗だけ。もちろん、外国人消費をすべてカバーしているわけではないが、都市部の売上高の多くを外国人消費が占めているであろうことは想像がつく。

 この外国人消費の2年間の増加分だけでも118億円ある。これを主要10都市の今年3月の売上高3621億円から差し引くと、3503億円である。これは2年前の10都市の売上高3588億円に比べて2.4%も少ない。つまり、0.9%増えているように見える都市部の百貨店売り上げの伸びは、外国人効果を除くと2.4%減になってしまうわけだ。逆に言えば、3.3%ポイントも消費を押し上げているということが分かる。

日本政府観光局(JNTO)の推計によると、3月に日本を訪れた訪日外客数は152万6000人と、月別で初めて150万人を突破した。円安によって日本にショッピングに訪れる外国人観光客が大きく増えていることが大きい。

百貨店で「爆買い」
日本を訪れた観光客が向かう先のひとつが大都市部の百貨店である。百貨店各社は中国語や韓国語、英語などを話せる店員を、外国人観光客の多い、宝飾品や身の回り品売り場に配置するなど、対応を急いでいる。中華系外国人を中心に、百貨店の売り場に大挙して押し寄せ、「爆買い」している光景はもはや当たり前になりつつある。

日本百貨店協会の調査では外国人ひとり当たりの購買単価は7万9000円に達する。もちろん、これは免税手続きを行った分だけだから、その他の課税商品も含めれば百貨店にとって上顧客になっている。

 円安が進んだことで外国人観光客による消費が大きく増えたのも、間違いなくアベノミクスの効果ではある。だが、それが、国内消費の統計数字を大きく左右するようになるとは当の安倍晋三首相ですら考えなかったに違いない。

 日本の消費を外国人観光客が下支えしてくれるのは有難いことに違いはない。だが、一方で、日本国民による国内消費自体はなかなか消費増税の影響から脱却できていないということでもある。大企業を中心にベースアップが増え、中小企業も人手不足を背景に給与上昇傾向が強まっているという。こうした給与増の動きが消費増に結びつき、百貨店の売り上げに表れて来るかどうか。もうしばらく時間がかかりそうだ。