消費増税は予定通りでも「地獄」、先送りしても「地獄」なワケ

現代ビジネスに4月25日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64324

「やはり」で広がる波紋

消費増税の先送りはあるのか。安倍晋三首相の側近のひとりである萩生田光一幹事長代行の発言が波紋を広げている。

インターネット番組に出演した萩生田氏が、10月の税率引き上げについて、「6月の日銀短観全国企業短期経済観測調査)の数字をよく見て『この先危ないぞ』と見えてきたら、崖に向かい皆を連れていくわけにいかない。違う展開はある」と発言した。

自民党幹部から相次いで批判の声が上がり、萩生田氏は「政治家としての私個人の見解を申し上げた」と釈明せざるを得なくなった。

政府与党幹部の火消しにもかかわらず、萩生田氏の発言を聞いた関係者の多くは、やはり首相周辺では増税に危機感を持っている人たちが多くいるのだと感じている。それぐらい、足元の消費が弱いのだ。

日本百貨店協会が4月23日に発表した3月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)は前年同月比0.1%増となり、2カ月連続でプラスになった。

宝石や高級時計といった「美術・宝飾・貴金属」部門が6.7%増だったことが全体を引き上げたが、衣料品は1.4%減、家庭用品は6.6%減と全体として消費が盛り上がっているわけではない。

駆け込みはどこに行った

予定されている消費増税まで半年となり、本来なら駆け込み需要が盛り上がるタイミングだ。

「美術・宝飾・貴金属」部門は、前回の消費増税前には2ケタの伸びが続き、増税直前の2014年3月には113.7%を記録した。つまり前年同月の2倍の売れ行きを示したのだ。ちなみに増税半年前は15.7%増だった。それに比べると今回は「駆け込み」がほとんど起きていないと言っても良いだろう。

前回の消費増税前は、アベノミクスへの期待が高く、株価も上昇していた。今回は安倍首相が繰り返し述べていた「経済好循環」による所得増の効果に疑問符が付いているタイミングで、むしろ先行きの世界経済の減速すら懸念されている。株価も一進一退といった状況だ。

3月の百貨店売上高がプラスになったのも、国内居住者の消費が伸びているというよりも、相変わらずインバウンド消費、つまり観光などでやってくる訪日外国人による買い物が好調だったことが大きい。

百貨店で免税手続きをして買われた商品の総売上高は332億8000万円と前年同月に比べて14.9%も増え、過去最高を記録した。手続きをした客の数は45万2000人に上る。購買客数は2013年2月以降、74カ月連続の前年同月比プラスが続いており、日本の百貨店のインバウンド依存が高まっている。

インバウンドによる免税売上高を引いた「実質国内消費」で見ると、マイナスが続いており、国内の消費は百貨店で見る限り、弱さが際立っているのだ。

百貨店売り上げが全体の消費動向を示していないのではないか、という見方もあるだろう。財務省が発表している「租税及び印紙収入、収入額調」によると、2月分の消費税の税収は前年同月比1.1%減となっている。

消費のタイミングと納税の時期が必ずしも一致していないので、正確にはわからないが、思うほど消費が伸びていない可能性はある。年度始めから2月までの累計の消費税収は2.7%増となっているが、法人税の8.5%増などに比べると伸びは低い。

危惧だけが高まっていく

問題は、果たして、このまま増税に踏み切って、日本の消費は大丈夫なのか、という点だ。

当初の目論見では、「経済好循環」によって、企業業績の好調さが給与増などによる所得増につながり、2019年は消費が底堅い状態になることが期待されていた。駆け込み需要も盛り上がることから、夏にかけては、消費の足取りはしっかりしたものになるとみられていた。

政府が気にしていたのは、むしろ10月の消費増税後の反動減で、これによって日本経済の底が抜けないよう、プレミアム商品券などさまざまな反動減対策を打ち出した。2014年4月の増税後の反動減が大きかったため、その轍は踏まないという強い意志が働いていた。

反動減を小さく抑えれば、2020年の東京オリンピックパラリンピックがやってくる。年間4000万人の外国人観光客が日本に押し寄せれば、インバウンド消費の「特需」が起きることは間違いない。つまり、消費増税をするとすれば、2019年10月をおいて他にはないというのが、首相官邸財務省の読みだったのだ。

ところがである。増税まで半年に迫っても、なかなか駆け込み需要が盛り上がらないどころか、足元の景気が弱いままなのである。そこへ増税などしたら、本当に経済の腰が抜けかねない。

本来ならば駆け込み需要によって、7月の参院選に向けて景気がじわじわ良くなり、株価も上昇するので、政権与党にとっては追い風になる、という読みもあったはずだ。それが、追い風どころか、経済が選挙の足を引っ張りかねない状況担っているのだ。

この機を逃したら

萩生田氏の発言は、そんな焦りの表れとも言えるし、選挙に向けたパフォーマンスのひとつと見ることもできる。

というのも、消費増税を見送る場合には、国民の信を問う必要がある、という話になっているからだ。参議院選挙前に衆議院を解散して、衆参ダブル選挙を行うのではないか、という見方が永田町には一気に広がっている。

もっとも、実際に、消費増税を延期することは難しいだろう。

システム改築などの準備が民間でも進んでいることもあるが、延期した場合、いつ増税するのか、という問題が出てくる。2020年の東京オリンピックパラリンピック後に先送りしたとすれば、オリンピック特需が終わり、景気全体が減速する中で増税することになりかねない。そうすれば、経済への影響はさらに甚大になるだろう。

そうなれば、また長期にわたって消費増税ができなくなる可能性が大きくなってくるわけだ。