取締役会4対3、大塚家具の仁義なき戦い 劣勢の父会長が株主提案で、不毛な委任状争奪戦も

新聞各紙だけでなく、週刊誌も内紛劇を報じるようになりました。3月末の株主総会前までに父娘の間で決着が付けられればよいのですが、なかなか対話も成立していない模様です。
とりあえず、2月中旬段階までの状況を、日経ビジネスオンラインの編集者の強い要請(要は後輩からの命令)を受けて書きました。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150219/277731/?leaf_ra


 大塚家具の経営権を巡る父娘の対立が続いている。2月13日に大塚久美子社長が発表した3月末の株主総会での取締役候補者名簿には、父親で創業者の大塚勝久会長の名前がなく、久美子氏が今後、経営の全権を握るものと思われた。

 ところが翌週の17日には、大株主でもある勝久氏から、まったく別の取締役候補者名簿が株主提案として出されていることが、会社の発表で明らかになった。その名簿には逆に、久美子氏の名前はなかったのである。

 久美子氏は昨年7月に突如、社長を解任されたが、わずか半年後の今年1月に再び社長に復帰。それ以降、勝久会長と久美子社長がともに代表権を持つ体制になっている。一見、両者が和解したかのように見られていたが、実態はまったく違った。水面下ではその後も、父娘の激しい主導権争いが繰り広げられているのだ。

満場一致ではなかった久美子社長復帰

 1月の取締役会で久美子氏が返り咲いたのも、満場一致で決まったわけではない。昨年12月まで大塚家具の取締役会は8人で構成されていたが、1月の取締役会直前に社外取締役だった中尾秀光氏が辞任、7人になった。

 中尾氏は勝久氏によって取締役に招かれた人物で、当然、勝久氏側に付いていたから、その辞任によって取締役会の勢力図が大きく変わることになったのである。

 3月の総会に向けて両者が提出している取締役候補者名簿を見れば、現在の取締役会の対立の構図が鮮明になる。7人の取締役は、久美子氏派4人、勝久氏派3人の4対3に完全に割れているのだ。

 会社側提案として出ている久美子氏側の候補者名簿には、久美子氏のほか、佐野春生氏と社外取締役の長沢美智子弁護士、同じく社外の阿久津聡・一橋大学大学院教授の名が書かれている。一方の株主提案として出されている勝久氏側の名簿には、勝久氏のほか、長男の大塚勝之専務と渡辺健一氏の名前があり、他の現職取締役の名はない。

 つまり、1月の取締役会では4対3で久美子氏の復帰が決まったということが容易に想像できるわけだ。2月13日の取締役会で決まった、株主総会で会社側が提案する取締役候補者名簿も、おそらく4対3で決議されたものだ。

株主提案取り下げ、説得不調か

 1月の株主総会直後に出された勝久氏の株主提案が2月まで公表されなかったのも、久美子氏側が勝久氏に取り下げを説得していたためと思われる。勝久氏に創業者として相応しい名誉職を用意することで、何とか引退に応じてもらおうと考えていたのだろう。

 そんな説得に勝久氏が応じなかった場合、株主総会で父娘が激突することになってしまう。それこそ前代未聞の椿事である。株主を真っ二つに割る激しい委任状争奪戦(プロキシ・ファイト)になるのだ。

 大塚家具の株式は、勝久氏が発行済み株式の18.04%を保有する筆頭株主。一方で、一族の資産管理会社である「ききょう企画」が9.75%を握る。ききょう企画は母千代子氏と5人の兄弟姉妹が株主だが、現在の取締役会は久美子氏が主導権を握っている。また、投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズが10.77%を保有しているが、ブランデスは久美子氏側を支持しているとみられている。

 ここまでだと両者がほぼ拮抗している。あとは大手の機関投資家や一般の個人投資家がどちらに付くかだ。

 だが、一般に総会の議案では会社側提案が圧倒的に有利だ。機関投資家は最近提案の中味を精査するようになっているが、それでも会社側提案を退けて株主提案に賛成するのはよほどのことがない限りしない。さらに、賛否を明らかにしないで投票した場合、会社側提案への白紙委任という扱いになるというテクニカルな面での有利さもある。

 また、久美子氏側が積極的に経営改革姿勢を打ち出していることも大きい。会長は対立が表面化して以来、一度もメディアの前に姿を現しておらず、娘の経営方針のどこに不満だったのか、娘をクビにしてどんな経営を行うのかすら語っていない。

 もともと両者の対立は、大塚家具のビジネスモデルを巡る経営方針の違いだった。勝久氏は、何か目当ての品物があって来店する客だけを入店させる「会員制」にこだわり、大々的に広告宣伝を打つことで、そうした「目的買い」の客をがっちりつかむという戦略に今も、固執しているという。

 一方で、久美子氏は消費者の購買行動が多様化する中で、自由に入店できる店づくりを進めるべきだとする。

 過去の成功モデルにこだわる創業者と、それを否定しようとする後継者。これまでも繰り返されてきた創業オーナーの引き際の難しさを大塚家具の紛争は如実に表している。

 「これ以上、ドタバタを演じたら、企業イメージを大きく毀損してしまう」と関係者のひとりは語る。町の桐ダンス店から一代で株式公開企業にまで育て上げた勝久氏の輝かしい経歴にまで傷を付けることにもなる。久美子氏側からすれば、会社の将来のためにも、潔く一線を退いて欲しいという思いだろう。

委任状争奪戦に発展も?

 株主総会に詳しい弁護士によると、大株主が総会で会社と対立しようと本気で考えれば、株主提案だけでなく、様々な手があるという。議長の不信任や取締役の解任など動議を繰り出すのだ。だが、そうなれば、世の中に格好の話題の種を提供するだけで、大塚家具にとっては何のメリットもない。

 仮に、委任状争奪戦に勝久会長が勝ったとして、強引に経営権を奪取した場合、メディアや株主から経営混乱の説明を求められ、矢面に立たされることになるのは明らかだ。メディアの前に一切出てこない勝久氏が、それをこなして混乱を収束することなど無理だ、という見方もある。

 久美子氏への対抗上、株主提案は出したものの、本気でそれを可決させようとは思っていない、という見方も周辺には根強くある。つまり、株主提案は条件闘争のための武器で、株主総会までには取り下げられるというのである。

 だが、どんな条件ならば、久美子氏に経営権を譲ることに同意するのか、今の段階ではまったく見えない。自らの処遇か、やはり同時に退任が予定されている長男、勝之専務の処遇なのか。3月末の株主総会ギリギリまで、予断を許さない状況が続くことになりそうだ。