大塚家具とフランスベッドの私情

月刊ファクタの5月号(4月20日発売)に掲載された原稿です。編集部のご厚意で以下に再掲します。

オリジナル→http://facta.co.jp/article/201505006.html


本誌のこのコラムで最初に裏側を報じた大塚家具の経営権を巡る対立に、ひとまず決着が付いた。

3月27日、東京都内で開かれた株主総会では、社長で娘の大塚久美子氏が「会社側提案」として出した取締役候補案と、会長で父の大塚勝久氏が出した「株主提案」が激突。会社側提案には勝久氏の名はなく、株主提案には久美子氏が排除されていたことから、総会の勝者が経営権を握るという前代未聞の父娘対決になった。

結果は会社側提案が61.07%を獲得、久美子氏が社長を続投する一方で、勝久氏と長男の勝之専務は退任が決まった。株主提案への賛成は36.18%だった。

総会当日まで激しい委任状争奪戦が繰り広げられ、最後まで勝敗は予断を許さない状態だった。勝久氏は発行済み株式数の18.04%を保有する筆頭株主で、勝久氏側に付いた妻の大塚千代子相談役も1.91%を持つなど、「基礎票」だけでみると勝久氏側が有利だった。一方の久美子氏は、一族の資産管理会社である「ききょう企画」が保有する9.75%を押さえていたに過ぎなかった。

そんな久美子氏が予想以上の大差で勝利したのはなぜか。ひとえに金融機関や投資ファンドなどの機関投資家が賛成票を投じたことが決め手になった。

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「悪い子供を作った」と公衆の面前で娘を批判し、情に訴えた勝久氏に対して、久美子氏は終始冷静に「これは上場企業のコーポレートガバナンスの問題です」と理を説いた。

「いくら情に訴えられても、われわれの議決権行使にはまったく関係ないこと」だったと外資系金融機関のトップは言う。とくに外資系ファンドなどにとって、ガバナンスは重要事項。昨年12月末で10.13%を持っていた米国の投資会社ブランデス・インベストメント・パートナーズが早い段階で久美子氏側支持を表明したのもこのためだった。

1月の段階で久美子氏が社長に復帰、取締役会の多数を押さえたことも大きかった。機関投資家からすれば、よほど納得できる株主提案が出ない限り、会社側に反対するのは難しい。また、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などが会社側支持の意見書を出したことも久美子氏には大きな追い風になった。

保険会社の幹部は「企業価値を上げられるのはどちらかという視点でしか投票できなかった」と振り返る。一昔前なら、創業者との長年の人間関係を理由に、株主提案に賛成できたかもしれない。だが、機関投資家としてのあるべき姿を示したスチュワードシップ・コードが昨年導入され、その可能性は消えたという。保険契約者にとっていかにプラスになるかを、きちんと説明できなければ投票できなくなった。さらに、安易に棄権することも不可能になったという。

久美子氏は社長に復帰すると中期経営計画などを発表。構造改革中の3年間に限って配当を40円から80円に倍増することを示した。これに対して勝久氏側も経営計画を打ち出し、大幅な収益増を前提に120円という配当額を示したが、付け焼き刃の後追い提案の印象はぬぐえず、プロの目からすると実現可能性に疑問符が付いた。久美子社長は初めから大塚家具株を5.88%保有する日本生命保険や3.22%持つ東京海上日動など、機関投資家を意識した作戦を展開していたわけだ。

そんな中で、勝久氏側が「切り札」として頼ったのが、長年の取引先であるフランスベッドだった。

総会直前の3月25日、勝久氏側のPR会社からメディア関係者に一斉にプレスリリースが届けられた。そこにはこう書かれていた。

「大塚家具の大株主として退職給付信託口を含め3%超の議決権を有し、大塚家具の最大取引先の一つでもあるフランスベッド株式会社様より、本日、大塚勝久に対して委任状をいただきましたので、その旨お知らせ申し上げます」

そのうえで「極めて重要な意味を持つもの」という勝久氏のコメントを付していた。

その前には、従業員の“血判状”や、家具業界団体の支持などをアピール。従業員も業界も勝久氏の社長復帰を願っているという姿を示すことで、金融機関など機関投資家の支持を取り戻そうという戦略だったようだ。それには業界大手のフランスベッドの支持が「重要な意味」を持っていたのだ。

勝久氏だけでなく、久美子氏との面会にも応じて両者の主張を聞いていたフランスベッドは、勝久氏側に委任状を出すことに、かなりの逡巡があった模様だが、最後は池田茂社長の決断で勝久氏支持を決めた。池田氏創業家出身でフランスベッド筆頭株主。勝久氏と似たような立場にあることも背景にあったのだろう。

フランスベッド側は委任状を出した事実を勝久氏側が大々的に公表するとは思ってもいなかった、という説が流れている。とんだとばっちりを受けたぐらいにしか思っていないかもしれない。

だが、フランスベッド東証一部上場企業である。なぜ、大半の機関投資家が賛成したとみられる久美子氏側(会社側)ではなく、勝久氏側(株主側)に賛成したのか。株主総会で株主から問い質されれば、きちんと説明をしなければならない。その時、池田社長はどういう理由を述べるのか。

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3月に金融庁東京証券取引所有識者会議で決まった「コーポレートガバナンス・コード」には、いわゆる政策保有株の議決権行使について「適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである」という原則が盛り込まれている。機関投資家同様、理由が立たない「私情」で株式を保有したり、議決権行使することは難しくなっているわけだ。

大塚家具の内紛はこれで終わりとはいかないだろう。勝久氏は今も筆頭株主のままだ。久美子社長に付いたブランデス保有株を半分売却している。「ききょう企画」に対しては勝久氏側から15億円の貸付金を返済せよという訴訟が起こされている。ききょう企画の財産のほとんどは大塚家具株だから、実際には株を勝久氏側に引き渡せというのが本音である。

この訴訟はもう1年半も続いているが、結審するメドは立っていない。勝久氏側はききょう企画の株が手に入れば、30%近い株を握ることになるため、再び経営権を取り戻せると考えている。だが、仮に借金を返済せよという判決が下れば、すでにききょう企画の所有である大塚家具株は、第三者に転売されることになりかねない。

テレビのワイドショーをさんざん賑わせた大塚家具劇場は早晩、第二幕が開くことになるのかもしれない。