大塚家具、考え方もやり方も正反対の父娘。PR会社も使った情報戦、雌雄を決する決め手とは?

会長と社長、親と子による委任状争奪戦は前代未聞ですが、それぞれの闘い方も大きく違うように見えます。現代ビジネスに原稿を書きました。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42524

プロキシ−・ファイト後はノーサイド
大塚家具の経営権を巡る父娘の対立は、3月27日に開かれる株主総会に向けた委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)に発展した。双方、大株主を回って経営方針などを説明し、支持を要請しているほか、PR会社を使った情報戦を繰り広げている。両者の考え方や、情報発信の仕方は対照的で、「世代の違い」を如実に示している。大株主がどちらに投票するかも、案外、世代によって分かれることになるかもしれない。

株主総会で雌雄を決する決め手となる双方の支持株数は拮抗している。筆頭株主である会長の大塚勝久氏は、昨年6月末現在で発行済み株式数の18.04%を保有、会長側に付いている妻の大塚千代子相談役も1.91%を持つ。両者の保有分を合わせると19.95%だ。

一方で、一族の資産管理会社である「ききょう企画」は9.75%を保有する。ききょう企画は株式の10%を千代子氏、5人の兄弟姉妹が各18%を持つ。ここでは勝久氏側の母と長男を合わせても議決権の28%しかなく、兄弟姉妹4人が結束して久美子氏を押しているため、9.75%は久美子氏側になる。

さらに久美子氏側には、昨年12月末で10.13%を持っていたとみられる米国の投資会社、ブランデス・インベストメント・パートナーズが支持を表明。これを合わせると19.88%になる。

ここまでの段階では、ほぼ拮抗しているわけだ。総会までに、残り60%の株式をどちらが確保するのかが焦点になる。

焦点のひとつだった従業員持株会は6月末段階で2.84%を保有しており、12月末には持ち株がわずかに増えている可能性もある。持株会は通常、会社側提案に賛成するのが普通だが、今回は会長側の要求もあり、自由投票となった。株式を100株以上保有する社員が、持株会の理事長に対して、どちらに投票してほしいかを指示する文書を提出している。

会長側から、「久美子社長が社員に無理やり自分側への投票を迫っている」といった批判が報道機関に流されたが、会長側である長男の勝之氏や、会社側の弁護士も立ち会って粛々と行われたという。社長から社員に対して、「どちら側に投票しても、結果が出た後はノーサイド。お客様の方を向いて仕事をして欲しい」という説明がなされたようだ。社員からすれば、投票によって、会長派、社長派といったレッテル貼りがされる事を一番恐れている。

情勢は五分五分、カギは個人投資家
持株会の投票の行方について勝久会長は産経新聞のインタビューで、「8割は信じてくれると信じている」と語っている。

会長の弟である大塚春雄氏も2.77%を保有する株主だが、どちらに付くのか明らかになっていない。

最大の焦点は保険会社や銀行といった機関投資家の行方だ。日本生命保険(5.88%)や東京海上日動火災保険(3.22%)がどちらに付くかで、趨勢が決まる可能性もある。一般的には会社側提案に賛成するケースが多いほか、今回は議決権行使助言大手の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が会社提案に賛成する意見を表明。また、同業の米グラス・ルイスも会社提案に賛成する意見を表明している。

日本の機関投資家の多くは、昨年、安倍晋三内閣がアベノミクスの一環として導入したスチュワードシップ・コードを受け入れており、年金受託者など資金の出し手にとって最も利益になる行動を取らざるを得ない。会社側提案ではなく株主提案に賛成するには、相応の説明責任を負うことになるため、現実的には会社側つまり久美子社長側の提案に賛成する可能性が高そうだ。

ISSの意見書については、会長側がすぐに反論する意見を出しており、これを機関投資家がどう判断するかは不明だ。

機関投資家のほかに、取引先などの法人株主がいる。有価証券報告書などから分かるところでは、ジャックスやフランスベッドなどがまとまった株式を保有する。取引先は単に投資としての利回りだけでなく、取引関係強化などの観点からもどちらに投票するか判断するものとみられる。

ざっくりと、親族や取引先が会長側を支持し、機関投資家が社長側を支持したと仮定すると、それでも五分五分の可能性はまだ残る。そうなると、個人投資家がどちらに投票するかも、大きな意味を持つ。

一般に個人投資家は議決権行使に関心は薄く、議決権行使書が届いても会社側に返送しないケースが圧倒的に多いとされる。最近では、投資家が委任状を送らないために定足数に達せず、株主総会の成立が危ぶまれる例も出ている。今回は、両者の騒動がテレビのワイドショーなどでも連日伝えられていることから、通常の株主総会に比べれば関心は高いとみられる。それでも議決権を行使したり、株主総会場に足を運ぶ株主はそう多くないとみられる。

大塚家の会社であるべきかどうかが「争点」か
最後の最後まで「激突」状態となることを想定して、両者ともPR作戦を展開している。そのやり方は対照的だ。

2月25日に勝久会長が初めて会見では、雛壇の後ろにずらりと幹部社員が並んだ。勝久会長は「1700人の社員は(自分の)子ども」と発言、「社員はみな私を支持してくれている」と訴えた。

これに対して26日に中期経営計画を発表した久美子社長は報道陣の前にひとりで現れ、冷静な受け答えに終始した。会長が幹部社員を連れて会見に臨んだことに対しても「ああいった演出に社員を巻き込んだのは申し訳ない」と述べ、会長側のパフォーマンスだと切り捨てた。

3月に入ると複数の週刊誌に「鬼のパワハラ」といった久美子社長の言動に対する批判記事が登場した。多くのメディアが会長側が流したものとみたためか、その後、人格批判などは広がらなかった。

久美子社長側は経済系の担当記者などに声をかけ、中期経営計画や、株主還元策、コーポレートガバナンス企業統治)のあり方などに対する会長との考え方の違いを強調した。機関投資家など「プロ」を意識して情報を発信しているのは明らかだ。

久美子社長の主張は、大塚家具は株式を公開した以上、いつまでも大塚家の会社であってはいけない、というものだ。いわば、「脱大塚家」戦略を進めようとしているのだ。これに対して、会長や妻が“心情的”に反発しているという構図のようだ。

会長を支持する幹部社員も、久美子社長が私利私欲で勝久会長に引退を求めているわけではない、という点は認めている。そのやり方が強引だ、というのだ。

「社員は子ども」と言い切る勝久会長にとって、大塚家具はまさに「自分の会社」なのだろう。久美子社長は「次の世代」を考えれば、早く脱大塚家経営を進めた方が、株主としての大塚家の利益を守ることができる、と考えているのではないか。だからこそ、「次の世代」である兄弟姉妹5人のうち、4人が久美子社長を支持しているのだろう。

オーナーを中心に結束して会社を盛り立ててきた旧来のやり方と、外部の取締役や投資家の利益を尊重する「いま流」の経営が、真正面からぶつかり合っているように見える。

創業者は無条件に尊重されるべきか、娘は父親の言う事を黙って聞くべきか、社外取締役はお目付け役で、具体的な経営戦略にまで踏み込むべきではないのか、社員はトップに絶対服従すべきか、上に長女がいても年下でも長男が家業を継ぐべきかーー。

大塚家具の騒動を通じてみえてくる問題は、いまの日本社会に交錯する新旧の価値観のぶつかり合いを如実に示しているようだ。