地域おこしの仕掛け人  水代優「グッドモーニングス」代表

地域おこし」をアドバイスするコンサルタントなどは山ほどいますが、飲食店運営を含めた現場のオペレーションから、全体のコンセプトづくりまでをできる人はそういません。丸の内や神田、あるいは地方各地などで地域おこしの拠点づくりで成果を上げている水代優さんを、週刊エコノミストのインタビューで取り上げました。



「人と人をつないで、新しいものを作る手伝いを」

 町おこし、場つくりの専門家として引っ張りだこですね。千葉・館山のプロジェクトではグッドデザイン賞も受賞しました。
水代 館山・北条海岸の鐘ケ浦通りに2014年5月オープンした「SEA DAYS」ですね。グッドデザイン賞をもらったのは14年10月のことです。建物のデザインだけではなく、施設全体のコンセプト、地域おこしの拠点を作るという仕組み全体の「デザイン」が評価の対象になったそうです。人気グループ「AKB48」が大賞に選ばれたのと同じカテゴリーだということでした。
 どんな施設なのですか。
水代 小割洋一さんというオーナーが作った、アウトドア・フィットネスとカフェです。北条海岸は昔からある伝統的な海水浴場ですが、地域の高齢化が進んで活気が失われていました。そこに、目の前の海を生かした電気を使わないジムを作ろう、というコンセプトでプロジェクトが始まりました。
 水代さんの役回りは。
水代 僕は建築家で「オンデザインパートナーズ」代表の西田司さんに誘われて参加しました。「カフェ・スーパーバイザー」という立場で、ランニングクラブや、健康志向の食育を学ぶ体験グループなど、コミュニティーを作る役割を担いました。
 カフェは、仕事帰りに立ち寄ったり、読書やのんびりした時間を過ごせる「場」。コミュニティーの中心になる施設です。これまでやってきたプロジェクトの経験が生きました。

葉山で海の家経営

 神奈川・葉山で、人気の海の家を経営していたそうですね。
水代 09年から昨年夏まで葉山の一色海岸で、夏の間だけ「カフェ ド ロペ ラメール」というビーチハウスを仲間と共同でやってました。真っ白でオシャレなハウスを大工さんと一緒になって建てるところから始まり、メニューの開発、イベントの立案・運営に毎年知恵を絞りました。
 街中のカフェで食べられるようなオシャレでおいしい食事はもちろん、朝はヨガ、昼間は子供連れが楽しめるような遊び、夜はディスクジョッキーを呼んだり。バーベキューや流しそうめんなども定番イベントとして人気でした。
 当初は、地元にあまり歓迎されなかったとか。
水代 周辺の町内会長からそろって反対されました。要は、東京から来たよそ者がオシャレなことを始めて、自分たちの場所が荒らされると考えたのでしょう。
 根気強く地域の人たちとコミュニケーションを図って、自分たちのやっていることが地元の利益にもつながるということを理解してもらう努力をしました。
 すると4年目ぐらいでしょうか。カフェの集客が地元にも経済的な利益をもたらすことが鮮明になってくると、反対の声はなくなりました。
 昨夏を最後に海の家をやめることにしたそうですね。なぜですか。
水代 一つの完成形ができたかな、と思ったんです。一色海岸が米国のCNN放送が選んだ「世界ベスト100ビーチ」の65位に選ばれたんです。日本国内で他に選ばれたのは沖縄県座間味村阿嘉島の58位だけ。日本を代表する海岸として世界に認められるまでになった。そこで営業する自分たちは既得権側になってしまったと感じました。
 僕はまだまだ改革派でいたい。可能性があるのに沈んでいるところの町おこし、地域おこしにこそ、力を注ぐべきだと考えました。

 水代さんは愛媛県の名門高校を卒業後、東京の大学に進学するがすぐに中退。高田馬場のバーに勤める。忙しい店で、飲食業、接客業の基本をたたき込まれた。その後、アシスタントとしてさまざまな専門家の下で働いた後、愛知県の家具会社の東京進出を手伝う。それが新店開発などで才能を開花させるきっかけになった。01年に当時の経営者に見込まれて、家具販売のイデーに入社した。

 現在は、東京・丸の内にある会員制カフェ「倶楽部21号館」の運営を中心に、全国に活動の場を広げています。丸の内の再開発に関わることになったきっかけは。
水代 イデーでは新業態開発やカフェの運営などをしていたのですが、三菱地所が02年に東京駅前に丸ビルをオープンしたのに合わせて、丸の内にコミュニティー拠点を作りたいという話をいただきました。僕がやっていたイベントやコミュニティーづくりが、三菱地所の目に留まったのだそうです。

丸の内に交流の場

 そこから三菱地所との関係ができたんですね。
水代 「倶楽部21号館」には、店づくりから関わってきました。イデーの経営者が代わり、その後、無印良品を展開する良品計画の傘下に入ったこともあり、12年に独立して「グッドモーニングス」を設立、三菱地所から運営受託を引き継いだのです。
 店のコンセプトは、会員になったら僕が会社の同僚以外の友達を3人作ってあげます。というもの。丸の内のサラリーマンは会社勤めしている間は何百通もの年賀状が来るのに、退職したら数枚しか来なくなる人が少なくありません。そんな「会社人生だけ」ではない丸の内の人生を育む拠点として位置づけました。
 丸の内に仕事ではないコミュニティーができたのですね。
水代 はい。僕としてはそのコミュニティーをベースにした人間関係によって、新しい会社が生まれたり、商品が生まれたり、意識が変わるような提案が出てくることを期待していたんです。ところが本業の名刺でコミュニティーに参加するのではなく、会社から離れた別世界で新しい自分を見つけたいといったムードが強いのです。「倶楽部21号館会員誰の誰」みたいな名刺を作る人まで出ています。まあ、成功といえば成功なんですが、それでは現実逃避ではないか、と思ってしまいます。
 三菱地所との仕事が評価され、安田不動産が取り組んだ東京・神田の街づくりにも関わっています。
水代 神田淡路町の再開発で生まれた「ワテラス」という複合ビルで、上層階は1000人を超える人が住む高級住宅となり、下層階にオフィスや店舗が入っています。周辺の昔からの神田の住民と新住民が融合できるコミュニティー・スペースを作るということで、図書館の設置・運営や、公共広場でのマルシェ(市場)の運営、文化ワークショップなどの展開を請け負いました。
 丸の内で積み上げたノウハウを、神田の新旧が融合する場に適用したというわけですね。
水代 ワテラスには学生マンションもあるのですが、格安の家賃で住める代わりに、地域のお祭りや防犯活動、マルシェなどイベントの手伝いを義務づけています。活動に参加するとポイントがもらえますが、1年間に一定のポイントを獲得しないと退去させられる仕組みです。
 そんな地元と学生をつなぐお手伝いもしています。今年、学生マンションから初めての卒業生が出るのですが、みんな軒並み有名企業に就職が決まったんです。地域活動が評価されたからでしょう。そうなった途端に、入居希望の学生が殺到しています。現金なものですね(笑)。

被災地の地域おこしも

 地方の町おこし、地域おこしにも協力しています。
水代 岡山県新庄村や熊本県菊池市宮城県名取市閖上(ゆりあげ)などでもお手伝いをしています。新庄村では、村内の道の駅のコンセプトの見直しや、若手村民の意識改革が仕事です。菊池市は改革派の江頭実市長が「いっぱい宝が埋もれている」というように非常に豊かな地域です。地域のプロモーションのお手伝いや、地元の経営者との連携などで農業6次産業化に力を貸しています。すでに東京でも菊池の食材を使った試食会などを開催、旅行会社や雑誌社などとつないだりしていますね。
 閖上東日本大震災で大きな被害を受けた地域ですね。
水代 震災前から続いていた「ゆりあげ港朝市」の復活に協力しています。朝市をやる港の広場にウッドデッキを敷きたいという朝市の組合長の希望で、半畳分1万円を募る「ゆりあげはんじょう募金」を開始。半畳と繁盛をかけてネットなどで呼びかけました。既に1200万円が集まり、順調にウッドデッキを敷くことができています。
 最近は全国各地の良いものを世界に向けて発信するプロジェクトを始めたとか。
水代 凸版印刷が事務局となってJTBなどにサポーターになってもらった「SHUN GATE」というプロジェクトです。日本中の本物を探し出し、直接取材してストーリーやプロモーションビデオを作成、ウェブサイトなどで公開していきます。三越伊勢丹のサイトでそうした商品を直接買うことができる仕組みになっています。
 水代さんの場づくり、地域おこしは、人と人をつなぐことで新しいコミュニティーを作っていく、ということなのですね。
水代 ええ。人と人がつながることで新しいものが生まれます。成功のためには、そのお手伝いをする外部のプロデューサーが不可欠で、自分たちがそうした役割を担いたいと考えています。
 たとえば、自分自身がおいしいと思うカレーを作ったとします。が、そこでいくら「俺のカレー絶品だぜ」と言っても、世の中の人には響きません。第三者が「彼の作るカレーは僕の人生で最高の味」と言うのを世の中の人が聞いて、では食べてみようかと思うのです。
 プロデューサーはおいしいカレーを作るアドバイスをすることだけでなく、それを誰に言わせるか、どうやって世の中に広げるかを考え、実行しなければなりません。それには外部の人が必要なのです。
 確かに、「よそ者」の視点が大事だとしばしば言われます。
水代 よく「よそ者、若者、馬鹿者」と言いますが、最近はそれだけでは不十分で、「よそ者、若者、馬鹿者、オンナの子」です。女性にウケて、女性の間で人気を博したものは、絶対に成功します。女性が支持するもので、男性にも受け入れられるものならば、間違いありません。

地域おこしは、地域で闘う人、プロデューサー、行政の三者の掛け算で成果が出る

 今、地域おこしの必要性が叫ばれ、安倍晋三内閣も「地方創生」を掲げています。成功の秘訣というのはあるのでしょうか。
水代 共通した失敗パターンというのはあるのですが、これをやれば絶対成功する、といった必勝パターンがあるわけではりません。地域それぞれに事情が違うわけですから。ただ、確実に言えるのは、何があってもへこたれずに闘い続ける人がその地域にいることが絶対に必要です。私は地域おこしの成果は、そうした闘う人と、私たちのようなプロデューサー、そして行政の三者の掛け算だと思っています。
問 行政も地域おこしには熱心で、悪意があるとは思えません。
水代 漫画の「クレヨンしんちゃん」の映画版で、しんちゃんが「正義の敵は悪魔じゃない。また別の正義なんだ」と言う場面があります。まさに名言です。行政も正義なんです。だから逆に厄介なわけです。悪意がないから。私は初期投資の一部を行政の助成金などに頼るのは仕方がないと思います。でも、運営経費まで行政のカネに頼ったら、予算が止まった段階でその事業は終わります。

三菱地所の“最小”取引先

12年に創業したグッドモーニングスの社員は8人、アルバイトも10人ほどいる。倶楽部21号館での飲食事業のほか、ワークショップやイベントの運営、地域おこしの提案やプロモーションツールの作成などを業務とする。資本金300万円、年商1億5000万円という規模は、三菱地所が直接取引する企業の中でおそらく最小という。若者が中心の元気な会社だ。

 グッドモーニングスも、会社としての体裁を整えようとしているそうですね。
水代 社員が増えていくと、僕の考えや行動パターンがなかなか伝わらなくなるので、会社としての社長とか目指す方向性を示すことにしました。方向性は「遊・食・住に向き合う」。人と人をつなげ、場を作ることで、新しい遊び、食、住のあり方を提案していく会社にすることです。
 今後の舞台はどこですか。
水代 今、東京・浅草の再開発ビル内でのコミュニティー拠点づくりの話がきています。浅草六区にできる「まるごと日本」という商業施設で、上層階はホテルになる。外国人観光客が多く滞在する見込みで、日本を紹介する格好の場になりそうです。 
 かつて繁華街として栄えた六区は、劇場を復活するプロジェクトが動くなど、面白いことが起きそうな地域です。外国人観光客が激増している今こそ、日本の本物の良さを外国人に知ってもらうチャンスだと思っています。