中国人「爆買い」の影で、日本人の消費意欲は、増税ショックを脱していなかった

現代ビジネスに2月下旬にアップされた原稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42621


日本百貨店協会が発表した2015年2月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)は、前年同月比1.1%増と、昨年4月の消費増税後初めてプラスに転じた。

上顧客は「爆買い」観光客
東京地区の伸びが5.3%増と大きかったこともあり、十都市平均では1.6%増と好調な伸びを示した。大都市圏を中心に消費が堅調だったことを伺わせる。昨年2月といえば、消費増税前の駆け込みで、その前の年の2月に比べて3.0%の伸びを記録していたから、それを上回ったということは、百貨店はかなりの繁忙状態だったことを示している。

だが、1年前と今年では、店舗の様子は大きく違った。中華系を中心とする外国人観光客が大挙して百貨店に押し寄せたのである。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2月の訪日外客数は138万7000人と、月間としては過去最高の人数を記録した。1年前に比べて1.6倍の外国人が押し寄せたのだ。

中華圏の旧正月休みが2月中下旬に当たったことから、中国本土からの旅行者が35万9100人と2.6倍に急増、これも単月としては過去最多の記録を大きく塗り替えた。台湾から1.5倍、香港から1.7倍、シンガポールから1.6倍と軒並み増えたのである。

こうした外国人旅行者の狙いのひとつが買い物。百貨店やアウトレット、ドラッグストアなどで、一気に買い漁る「爆買い」が話題になった。今や百貨店にとっても無くてはならない上顧客になっている。

同じ日本百貨店協会が調べている54店舗の2月の外国人売上高は153億円と前年同月比3.4倍になった。これは免税手続きをした売り上げを集計したものだが、昨年10月から免税対象に1店舗で5000円以上の買い物をした場合の食料品や飲料、化粧品、医薬品などが加わったため、一気に免税売り上げが拡大した。

比較対象を高級ブランド品や時計、洋服といった昨年と同じ比較対象だけに絞っても、2.9倍で、訪日外客数の伸びの効果がいかに大きかったかが分かる。

同協会によると、外国人に最も人気のあった商品はハイエンドブランドで、これに婦人服や婦人服飾雑貨が続くという。新たに免税対象に加わった化粧品も人気を集めている。資生堂などの人気化粧品ブランドでは、店頭で品切れになる商品も出たという。

免税手続きをした外国人のひとり当たりの購買単価は8万7000円というから、百貨店にとっては無視できない存在になっている。店員に中国語や英語のできる人を配置するなど、外国人客対策に取り組んでいるのは当然の流れなのだ。

消費増税の影響はまだまだ消えていない
これだけ外国人による消費が盛り上がっていることは、もちろん、日本経済にプラスではある。だが、いったい日本人による百貨店での買い物具合はどうなっているのか。外国人の場合、免税手続きをすれば消費税はほぼ関係ない。昨年4月の消費増税もほとんど関係ないわけだ。一方で、国内で生活する日本人は消費増税の影響をモロに受けている。

そこで、全国百貨店売上高から外国人売上高を差し引いて「日本人売上高」を試算し、前年同月と比較してみた。

全国の売上高の集計対象は240店あるが、外国人売上高は54店舗なので、実際の外国人売上高はさらに大きい可能性がある。また、外国人客は当然、免税対象以外の買い物もしているとみられ、外国人売上高の金額以上に消費に貢献しているのは間違いない。

それでも、試算した「日本人売上高」からは面白い結果が明らかになった。

2月の全国百貨店売上高は4457億円。これは店舗調整前の数字(4430億円)と比べると0.6%増に当たる。ところが、ここから外国人売上高の153億円を引いた「日本人売上高」を計算すると4304億円。同じく前の年の売り上げ(4385億円)と比較すると1.8%のマイナスになるのだ。

表面上の数字は11ヵ月ぶりにプラスに転じたわけだが、日本人の消費だけを取り出してみると、マイナスが続いているのである。やはり、昨年4月の消費増税の影響はまだまだ消えていないと見ていいだろう。 

日本人の消費マインドが回復してくるか
同様の手法で、2014年1月〜12月までの年間の全国百貨店売上高をみると、0.08%減とほぼ横ばいだった。ところが、ここから2014年の外国人売上高730億円を引いて計算すると、0.6%のマイナスになる。百貨店の売り上げ統計では、もはや外国人売上高が無視できない規模になっているのだ。

昨年3月は消費増税前の駆け込み需要で売上高が前年同月比で25%も増えた異常な月だったから、今年3月の数字がマイナスになるのはほぼ確実だ。

逆に昨年4月は消費増税によってマイナス12.0%だったから、これと比較して今年プラスにならなかったら一大事である。問題は5月以降も着実に百貨店売上高が前年同月比プラスを続けることができるかどうかである。

表面上、それを左右しそうなのが、訪日外客数の動向だ。急激なピッチで増え続けてきた訪日外国人は、いつまで増え続けるのか。外国人観光客が増えた引き金のひとつが円安だったことは間違いない。円安が一服する気配も見せている中で、訪日外国人が頭打ちになれば、国内消費にマイナス要因になる可能性もある。

要は、外国人消費が盛り上がっている間に、日本人の消費マインドが回復してくるかどうかだ。大手企業を中心に春闘でのベースアップが実現している。給与が増えた分が、百貨店などでの消費に向かうのかどうか。安倍晋三首相が目指す「経済好循環」が実現するのかどうか、注目される。