話題の一冊を書いた元国家戦略担当相が指摘 「財政破綻」「ハイパーインフレ」という悪夢は、そこまで迫っている!

新著を出されたのを機に、古川元久・元国家戦略相に聞きました。現代ビジネスに7月29日にアップされた記事ですが、たくさんの方に読まれた原稿です。→
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44401

国債など国の借金が1000兆円を超える中、経済成長を優先する安倍晋三内閣は、予算の削減に消極的なようにみえる。

民主党内閣で国家戦略担当相を務めた古川元久衆議院議員は、このままでは、もはや財政破綻は避けられないと語る。最近上梓した『財政破綻に備える 今なすべきこと』(ディスカヴァー携書)では、破綻を前提に地域社会が自立することで新しい価値観をもった経済態勢を目指すことを提言している。

アベノミクスの限界

 問 タイトルを拝見して、日本の財政危機を訴えることで増税ムードを作ろうとする最近はやりの本かと思いました。古川さんは財務省OBでもあるので。

 古川 どう考えてもこのままでは財政破綻せざるを得ないでしょう。もちろんそれを回避するための努力は必要なのですが、今、安倍晋三政権がアベノミクスで進めている量的緩和もいつかは限界がやってきます。

 問 日本の戦後のハイパーインフレを例に、経済破綻した場合の悲惨さを書かれています。

 古川 ハイパーインフレは、普通の国民の犠牲のもとに国家がそれまでの膨大な借金をチャラにする方法です。財政が破綻すれば困るのは国ではなく国民です。しかも財産を持たない普通の庶民が一番困ります。社会保障の仕組みが行き詰まる一方、物価上昇で生活が一気に苦しくなるからです。

 問 すでに破綻を見越して財産を海外に移している人も増えているようです。

 古川 海外に移せるような資産を持っている金持ちはもう何年も前から海外逃避を続けています。ある著名コンサルタントと話していたら、投資する対象はドルか、生活必需品の会社の株式、都心の一等地の土地だと、何年も前から言っているそうです。困るのは一般の国民です。

 今、財政危機が問題になっているギリシャも、対岸の火事ではありません。お札を刷れば問題が解決するというアベノミクスはどこかおかしい。マジックのようですが、種も仕掛けもないマジックなどありません。結局、先々に問題を先送りしているのです。

 財務相麻生太郎さんが、予算委員会で、借金が増えれば金利が上がるというのが若い頃の常識だったが、今日はそれが通用しなくなったという趣旨の発言をしていました。私は、歪みが溜まっているだけで、いずれ大地震になると感じます。「見えざる手」がどこかで働くことになると思います。

 問 アベノミクスは禍根を残す、と。

 古川 財務相だった藤井裕久さんなどとやっている近現代史研究会の話で、日米開戦当時の経緯などを勉強しているのですが、開戦当時、2年間は戦えるがそこから先は分からないという判断だったそうです。冷静に最悪のケースを考えれば、負けることは見通せていたはずで、あんな無謀な戦争はやらない方が良いという判断ができていたかもしれません。良いことだけ、楽観的なことだけを考えて決断を下したわけです。

 おカネを刷りまくるアベノミクスは、日米開戦の時と同じではないのか、構造的な問題に手をつけず、時間稼ぎばかりしている。財政破綻という最悪のシナリオを想定していません。経済敗戦が財政破綻です。

 今の政策を止めさせなければいけないのですが、操縦桿を握っているのは我々ではありません。この道しかないと思い込んでいる人が首相なので、困ったものです。

 問 今年10月に予定されていた消費税率の10%への引き上げを見送りました。

 古川 飛行機を墜落させないために、我々が政権にいる時に(民主党自民党公明党による)三党合意を行いました。国民に負担をお願いするのを政争の具にしないということでした。 

 ところが、昨年末に突然、解散総選挙を行い、国民の信を問いました。10%への引き上げの再延期はないことになったものの、これで10%超に税率を引き上げようという政治家は、ここしばらく出てこなくなるのではないでしょうか。国民の信を問わなければならないわけですから、難しいです。

 問 財政破綻は不可避なのだから、それに備えよ、というのがこの本の結論ですね。地方の自立を求められていますね。これまでも地方の自立を求める声はあり、安倍内閣でも地方創生を訴えています。果たして地方は本当に自立できるのでしょうか。

 古川 地方が完全に自立できるかどうかは難しいでしょう。ただ、財政破綻の混乱を少しでも小さくするような社会づくりが必要だ、というのがこの本の趣旨です。川上村のレタス栽培や、日本酒の獺祭の取り組みなど、地域が都会から稼げる仕組みが大事だと思います。少なくとも地域経済を入超にする、つまり地域が外から買う額よりも外に売る額を大きくすることです。

 問 1次産業だけでなく、加工の2次産業やサービス業の3次産業と組み合わせて儲けを増やす「6次産業化」は民主党政権の時から取り組んできたテーマですね。

 古川 農業をもっと付加価値の高い産業に変えていくことが大事です。IT(情報通信)インフラを活用して、時間と場所の制約を乗り越えていくことで、地方は元気になると思います。東京は日本経済の心臓ですから、元気であることが重要ですが、地方の経済を自立的にしていくことは不可欠です。離島などの場合、そこに人が住んでいること自体が、安全保障の第一歩だと思います。

 問 民主党は経済成長に熱心ではなく、分配論にばかり偏っていると思います。

 古川 党内でも新しい成長戦略を作っていこうという話をしています。必ずしも分配論にばかり関心があるわけではないのですが、今後の日本の成長の形が変わってきたのではないかと思います。

 体が大きくなっていく成長から、人間的に大きくなっていく成長といったら良いでしょうか。バランスのとれた持続可能な成長を模索していく時です。物質的な豊かさだけを追いかけるのではなく、新しい価値観を築くことが大事ではないでしょうか。