【高論卓説】外国人家政婦の解禁 働く女性に朗報も重い費用負担

海外では当たり前の外国人家政婦を、ようやく日本でも使うことができるようになります。業界団体だけでなく与党内にも反対論が根強かったのですが、安倍首相の強い意欲で実現することになりました。女性活躍を促進するには、そのためのインフラが不可欠だという思いが背景にあるそうです。フジサンケイビジネスアイに拙稿が掲載されました。本日の日経新聞朝刊1面も同じ話ですが、私の原稿は先週出稿していたもので、偶然です。ネットページ→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150827/mca1508270500004-n1.htm

 欧米やアジアの、バリバリ働く女性のお宅には、たいがい家政婦がいる。掃除洗濯はもとより、子供の学校への送り迎えなど、女性を家事の重圧から解放しているのだ。だから心置きなく社会で活躍できるともいえる。家政婦の多くがフィリピンなど出稼ぎ外国人である。

 ところが日本では長い間、バリバリ働く女性は、家事はもとより、夫や子供の面倒を全て見て、そのうえ職場でも活躍するのが当たり前だとされてきた。スーパーウーマンであることを求められてきたのだ。

 実際には、家事や子育ての重圧から、仕事を断念せざるを得ないケースも多い。女性の就業率をグラフにすると、子育て世代がへこんでMのようになる「M字カーブ」問題に象徴される。

 安倍晋三首相は政権に就いて以来、「女性活躍の促進」を政策の大きな柱として掲げてきた。女性活躍を男女同権といった「社会問題」として捉えるのではなく、人口が減少する中で女性に社会で活躍してもらえなければ日本はもたないという「経済問題」として捉えているのが特長だ。

 景気が回復基調になって、人材不足が一気に表面化しているのをみると、安倍首相の焦りが杞憂(きゆう)ではなかったことを示している。まさに日本は女性の活躍を一気に進める必要に迫られているのだ。

 そんな中で、首相肝煎りの政策が9月1日に施行される。外国人家政婦の解禁である。女性に活躍してもらうには、女性を家事負担の重圧から解放することが不可欠だという安倍首相の強い指示で実現した。野党だけでなく、自民党内にも根強い反対論があったが、何とか法律の施行にこぎつけそうである。

 今回解禁されるのは、人材派遣業者がフィリピンなどから外国人を招聘(しょうへい)し、家庭などに家政婦として送り込む事業。これまでも外国人の外交官や企業経営者などに限って、外国人家政婦を連れて来ることができる特例があったが、今後は広く日本の家庭でも、家政婦を依頼することができるようになる可能性が出てきた。

 可能性と書いたのにはわけがある。今回の規制緩和が、国家戦略特区内に限られたものだからだ。今のところ、大阪市横浜市川崎市などがこの制度の活用に前向きな姿勢を見せている。

 バリバリ働く女性にとっては間違いなく朗報だろう。ただし問題は費用。労働組合などの反対を受けて、「日本人家政婦と同等」の賃金を支払うルールになったからだ。参入を検討している家政婦派遣会社、シェヴの柳基善CEO(最高経営責任者)によると、「1カ月フルに家政婦を使うと20万円はかかる」という。今度は費用が大きな重圧になりかねないのだ。

 自民党内では、こうした家政婦への支払いなど家事代行の経費を必要経費として認める「家事支援税制」が検討されたことがある。先進各国では当たり前の制度だが、財務省の反対で棚上げされたままだ。国会の特区での解禁は突破口には違いない。

 だが、本当に女性に活躍してもらう社会をつくろうと思えば、税制を含めたインフラの整備が待ったなしである。