外国人家政婦解禁は実現するのか? 国家戦略特区に「前のめり」な安倍首相の思惑

規制緩和の具体策が注目される中で、ひとつの「突破口」になりそうなのが、国家戦略特区での、外国人家政婦の受け入れ緩和です。現代ビジネスに原稿を書きました→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40594

安倍内閣の規制改革に終わりはありません。この2年間で、あらゆる岩盤規制を打ち抜いていく。その決意を新たに、次の国会も、更にその次も、今後、国会が開かれるたびに、特区制度の更なる拡充を、矢継ぎ早に提案させていただきたいと考えております」

国家戦略特区をめぐる官邸と霞が関の駆け引き
9月29日に開幕した臨時国会の冒頭、所信表明演説に立った安倍晋三首相はこう述べた。「規制緩和の突破口」と位置づけてきた「国家戦略特区」を、今後、国会が開かれるたびに拡充させていくとしたのである。

実は、国家戦略特区を巡っては水面下での駆け引きが続いてきた。昨年12月の法律に明記された項目以外には拡げたくない霞が関と、具体的な改革姿勢を打ち出したい官邸に温度差があったのだ。特区という「治外法権」が広がれば、霞が関が握る規制権限をはく奪されることになりかねない。首相が「突破口」というように、初めは特区に限った規制撤廃かもしれないが、いずれそれが全国に広がる可能性は十分にある。規制権限を握り続けたい守旧派官僚からすれば、特区のテーマや地域がどんどん増えていく「特区の拡充」は何としても避けたいところだったのだ。

にもかかわらず、首相が所信表明で、ここまで強い言葉で拡充を打ち出すことができたのは、内閣改造の効果が大きい。

「特区」が石破茂地方創生相の武器に
昨年末の法律制定で置かれることになった「国家戦略特区担当相」は、改造前まで総務大臣が兼務してきた。総務省厚生労働省と並んで多くの規制権限を握る巨大官庁だ。地方自治体を束ね、地方交付税交付金を握るほか、通信行政や郵政なども所管している。その規制官庁が、安倍首相が言う「ドリルの刃」である特区を嫌うのは必然だった。

それが内閣改造によって、石破茂・地方創生相が国家戦略担当相を兼務することになった。

地方創生相は内閣改造の目玉ポストで、「地方創生」は今臨時国会の重点課題とされている。地方創生が「課題」であることは明らかだが、実際に問題を解決する具体的な「施策」があるかというと、話は簡単ではない。つまり、地方創生相が政策を具体化しようにも、なかなか「弾」がないのだ。

そんな中で「特区」が地方創生相の数少ない武器になったのである。石破氏が「特区」推進に前向きになるのはある意味当然の流れだった。

石破大臣の指示を受けた官邸官僚が、思い切り「前のめり」の表現で盛り込んだのだ。「国会が開かれるたびに」「矢継ぎ早に」とこれ以上ない表現が短い一文の中に詰め込まれている。

国家戦略特区は今年3月末に具体的な地域が指定された。東京圏、関西圏、新潟市兵庫県養父市、福岡市、沖縄県の6ヵ所である。その後、各地域ごとに規制緩和項目を盛り込んだ「区域計画」が策定されつつある。

「中山間農業改革特区」とされた養父市では農業委員会が握っていた農地の権利移転の権限を市長に移すことが盛り込まれた。また、「グローバル創業・雇用創出特区」とされた福岡市では、地域活性化のイベントなどで公道使用の特例を認めることが盛り込まれている。さらに、関西地域では「先端医療特区」としての区域計画が議論されており、特区内で病床数規制が緩和される方向だ。

これを聞いて分かる通り、国家戦略特区といっても緩和される規制はごく一部だ。この規制緩和が突破口となって新しいビジネスが生まれるかと言えば、はなはだ不十分だろう。安倍首相は「規制緩和の突破口」と言うが実際には法律で定められている規制の「特例」は限られているのである。

安倍首相は施政方針で、この法律の改正を繰り返していくことで、どんどん規制緩和項目や対象地域を広げていく、と明言したわけだが、拡充しなければとうてい突破口にはなりえないのだ。

世界で最もビジネスがしやすい場所
では、今後、具体的にどんな規制緩和項目が、加わるのだろうか。

同じく施政方針で安倍首相自身が具体例を挙げている。

「創業や家事支援に携わる、能力あふれる外国人の皆さんに、日本で活躍してもらえる環境を整備します。公立学校の運営を民間に開放し、グローバル人材の育成や、個性に応じた教育など、多様な価値に対応した公教育を可能にしてまいります」

前段の「家事支援」とは、外国人家政婦などの受け入れを意味する。後段は公設民営学校の設置を指している。

フィリピン人家政婦などの家事支援人材は、外国人の経営幹部が日本に住む場合に、特例として帯同が認められているものの、一般的には禁止されている。一方で、働く女性の増加などにより家事支援ビジネスは急速に拡大しており、フィリピン人など外国人に就業を解禁すべきだという意見が根強くあった。

国家戦略特区は、「世界で最もビジネスがしやすい場所」を想定しており、外国では当たり前の「生活インフラ」を提供できる体制を目指している。その1つが外国人家政婦で、もう1つが学校だ。公設民営で英語だけで授業を行うインターナショナルスクールを設置しようという動きもある。

外国人家政婦「特区」への障壁
だが、依然として、外国人家政婦を特区で認めることに、霞が関の中には強い抵抗がある。特区とはいえ「安い労働力」を入れれば、なし崩し的に外国人労働者を全面的に受け入れることになりかねない、というのだ。もちろん、外国人が入ってくれば日本人の仕事が奪われかねないという感情的な反発もある。

現在、特区を使って解禁を検討しているものの、様々な条件が付される可能性がある。まずは、日本人と外国人の賃金に差を付けないこと。つまり断固として「安い労働力」は入れない、というわけだ。

もうひとつは、外国人家政婦を受け入れる企業に、身元保証義務を負わせること。なし崩し的に日本に居住し続けてしまうようなことがないようにしようというわけである。これでは外国人家政婦を受け入れる意味がない、という声もあるが、一方で事業化の検討に乗り出している企業もある。

外国人家政婦の解禁に最も乗り気なのは大阪。当初は福岡も手を挙げるのではないかと見られたが、現在は様子見になっている。最も需要が大きいと見られる東京は、舛添要一知事になってトーンダウンしているとされ、話が進んでいない。一方で、「東京圏」の一角である横浜や川崎などが意欲を見せている、といわれる。

いずれにせよ、外国人家政婦を認めるには国家戦略特区法などの見直しが必要になる。また、次々と改革の弾を打ち出さなければアベノミクスの改革イメージが一気に失速しかねない。

安倍首相は海外でのスピーチでも国家戦略特区を使った改革を表明しており、国家戦略特区での改革項目が「弾切れ」になれば、海外投資家の期待がはげ、株価が急落する可能性もある。臨時国会での議論を通じてどんな新しい「弾」が出て来るのか、注目したい。