頼みは住宅・爆買いのみ? 「3四半期ぶりGDPマイナス」はアベノミクス終焉のサインか

4−6月のGDPがマイナスになりました。これを一過性とみるべきなのか。景気の変節点とみるべきなのか。現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44798


悪い材料がずらり
4−6月期の国内総生産GDP)がマイナス成長になった。8月17日に内閣府が発表した速報によると、物価変動の影響を除いた実質の、季節調整値で前の1−3月期に比べて0.4%減、年率換算で1.6%減となった。マイナスになるのは昨年7−9月期以来、3四半期ぶりのことだ。

問題はこれが一過性にとどまるのか。それともアベノミクス景気が終焉するトバ口に差し掛かったとみるべきなのか、である。

今回、マイナスになった主因は、輸出と個人消費の落ち込みだった。輸出は4.4%減と、6四半期ぶりにマイナスになった。中国の景気減速が鮮明になる中で、輸出にも影響が出始めた。原油価格の下落などで、輸入も2.6%減ったものの、輸出から輸入を差し引いた「外需」のGDP寄与度はマイナス0.3%となった。

上海株の大幅下落や天津の大爆発事故など、今後も中国景気の先行きは予断を許さない。日中間の貿易が縮小するようだと、日本の景気にもさらに影響が出て来る可能性はある。

もっとも、今回の要因でより重要なのは個人消費の低迷だろう。GDPの6割は個人消費が占めており、消費の先行きが日本の景気に直結する。4−6月期の家計最終消費支出(実質)は前期比0.8%減と、消費税率引き上げの影響が出た昨年4−6月期以来、4四半期ぶりのマイナスとなった。

電気料金の値上げや、円安に伴う輸入食材の値上がりが家計を圧迫しているとみられ、財布のひもは一段と固くなっている。大企業を中心に業績好調によって、賃金を引き上げる動きが広がっているものの、まだ、実質的な所得を増やすに至っていないようだ。

日本百貨店協会がまとめている全国百貨店売上高の推移をみると、消費増税後ほぼ一貫して対前年同月比マイナスが続いてきたものが、4月は、消費増税直後の落ち込みの反動で13.7%増と急増したものの、5月は6.3%増、6月は0.4%増と伸びが鈍化している。特に衣料品の売り上げが7.7%減と大きく落ち込むなど、消費に「変調」の兆しが出ていると見ることもできる。

日本チェーンストア協会が発表している全国のスーパーマーケットの売り上げ高推移も同様で、4月(既存店ベース)に6.4%増、5月に5.7%増だったものが、6月には0.3%増にまで落ち込んだ。やはり衣料品が6.4%減と大きく落ち込んだことが響いた。食料品は4月以降前年同月比プラスが続いているが、これは円安による価格上昇の影響が大きいと見られる。

「構造的な問題」なのか?
昨年4月の消費増税の影響がまだ続いているという見方もある。昨年3月末までの消費の伸びをみると、4月の増税が大きな転換点になったのは間違いない。消費増税分を価格に転嫁するよう政府が強く指導したこともあり、家計の負担に直結した面もある。もっとも、消費税だけでなく、その後の電気料金の大幅な引き上げや、円安による物価上昇の影響も大きいと見られる。

一方で、消費が盛り上がらないのには構造的な問題がある、という見方もある。デフレ時代を通じて「買いたいものがない」としばしば指摘されたが、それに根本的な変化がない、というのである。また、団塊の世代が退職して年金生活に入るなど、高齢化によって消費自体が抑制されているとの見方もある。

アベノミクスによる大胆な金融緩和で、資金は株式など貯蓄や投資に向かい、株価の上昇には結び付いたものの、結局は本格的な消費ブームには結び付かなかったのではないか、というのだ。日本の構造問題を前にアベノミクスも歯が立たなかった、という見方である。

もっとも、今回の消費落ち込みは一時的なものだとみる材料もないわけではない。

例えば、新設住宅着工戸数。2014年3月から今年2月まで、対前年同月比でマイナスが続いてきたが、3月に0.7%増とプラスに転じた。4月は0.4%増にとどまったが、5月5.8%増、6月は16.3%増と急速に回復している。6月は8万8118戸と、2013年12月以来の8万戸台を記録した。分譲マンションも1万4173戸と、前年同月比82.8%も増えた。

「買いたいものがない」中で、家を新築したり、マンションを購入すれば、家具や家電製品、家庭用品などの買い替えにつながる。新築着工が増えれば、タイムラグを置いて、消費が盛り上がると見ることもできるのだ。

7月は訪日外国人が1年で最も多い時期で、今年も大勢の旅行者がアジア諸国を中心にやってきた。おそらく月間の訪日外国人客数としては過去最高を更新するに違いない。

中国や台湾、香港などからの旅行者は、円安で割安になったことから日本での「爆買い」をひとつの大きな目的にやってきている。百貨店の免税手続きも過去最高の勢いで、こうした外国人消費が、日本の消費を下支えしていることは間違いない。

問題は、こうした旅行者の消費需要がいつまで続くかだろう。2020年の東京オリンピックに向けて、政府は観光客誘致に拍車をかけたい考えだが、ひとたび為替が円高に振れることでもあれば、一気に「爆買い」需要がしぼんでしまう可能性もある。

その頃までに、住宅完成による消費需要が生まれるのかどうか。日本経済の先行きを占うことになる個人消費の行方から目は離せなくなってきた。