戦後最長の通常国会、議論は低調  データから明らかになる国会の内実

世話人を務めている「国会議員の活動データを集積する会」が9月に閉会した今年の通常国会のデータを集計して発表しました。そのランキングなどを基に原稿を書きました。日経ビジネスオンラインです。→http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20130321/245368/


 9月に閉幕した今年の通常国会(第189回国会)は、大幅な会期延長の結果、245日間という戦後最長の通常国会だった。では、その長い会期に見合った充実した審議が行われたのだろうか。非営利の任意団体「国会議員の活動データを集積する会」が国会ごとに集計している「質問時間」や「質問回数」を基に分析してみた。

 衆議院での質問時間の総計(討論や趣旨説明、議事進行などを除く純粋な質問答弁時間)は7万582分(1176時間22分)と、2014年の通常国会(186国会)の6万6390分(1106時間30分)に比べて増加をした。

 もっとも、2014年通常国会の会期は150日間で、今年は会期が95日も長かったにもかかわらず、質問時間は4192分(69時間52分)増えただけで、会期の長さに見合った充実した審議が行われたとは言い難い状況が浮かび上がった。集団的自衛権を容認する安全保障関連法案など重要な法案の審議が多かったにもかかわらず、安保関連法案の審議方法を巡って与野党が対立するなど、国会が空転する局面も多くみられたためだ。

 「質問回数」をみると、この傾向は歴然だ。今年の通常国会での衆議院議員の質問回数総数は2274回。いずれも会期が150日だった2014年通常国会の2482回や、2013年通常国会の2357回を下回った。

自民は民主の半分以下

 一方、参議院での「質問回数」総数は2401回と衆議院を上回った。過去の参議院での質問回数と比べても、2014年通常国会の2108回や2013年の通常国会の1366回に比べて大きく増えている。自民党が絶対多数を占める衆議院に比べて、勢力が拮抗する参議院の方が回数ベースでみる限り、積極的な国会論戦が行われたようだ。

 衆議院での質問時間を、政党別にみると、最も長いのが民主党で、2万7489分(458時間9分)、次いで維新の1万7960分(299時間20分)、共産が1万644分(177時間24分)だった。

 自民党は7668分(127時間48分)、公明党は5329分(88時間49分)で、与党を合わせても215時間にしかならず、民主党の半分以下にとどまる。これは国会の慣行で与党よりも野党に質問時間を多く割り振ることになっているためだ。政府と与党は一体という考え方がベースにあるわけだ。

 もちろん、与党の中にも法案に様々な意見を持っている議員はいるわけだが、それは法案を提出する前の自民党内での議論で決着が付いているという建前だろう。国民からみると、国会というオープンな場ではなく、党の政務調査会など密室で決まっているという印象を受ける。

 まして、圧倒的な多数を与党が握っている衆議院では、国会に法案が出された時点で決着が付いていることになってしまうだけに、国会が形骸化しているようにさえ見える。

 衆議院の「質問回数」を政党別に見ると、369人の議員(会期中在籍した議員の総数)が活動した自民党が合計で331回だった。自民党議員のうち130人が質問回数がゼロだが、これは大臣や副大臣といった政府の役職に就いたり、議長や委員長といった国会の役職に就いている人が多いためで、基本的に質問側ではなく、答弁側に回っている議員が多いことを示している。

 そうした事情があるものの、自民党の場合、議員の数が圧倒的に多いため、会期中に質問に立てるチャンスが乏しかった議員が多いのも事実。会期中に1回しか質問に立てなかった議員が63人にのぼる。これは所属する委員会での質疑も含んでいるわけで、慣行とはいえ、議員としての活動の最も重要な場面である質疑の場が少なすぎるのではないかと感じられる。

 民主党の場合、衆議院議員62人が746回の質問を行った。単純平均でもひとり当たり12回に達する。この傾向は少数政党ほど顕著になり、548回質問に立った維新はひとり当たり単純平均13回、340回立った共産は単純平均16回といった具合である。

 集積する会が発表した議員ごとのランキング(表参照)では、野党の少数政党に有利な結果になっている。衆議院の質問回数のトップは維新の足立康史議員の44回、質問時間は同じく維新の井出庸生議員の1511分だった。参議院で質問回数が最も多かったのは社民党福島瑞穂議員の55回だった。

 それでも、それぞれの政党の中でも積極的に質問に立つ議員と、少ない議員に分かれている。もちろん、若手に質問の場をできるだけ与えようという方針を持つ党や、政策通の言われる看板議員を質問に数多く登板させているケースなどがある。

首相経験者は質問しない

 国会の長年の慣行のようになっているのが、「大物」は質問しない、という点。首相経験者などは本会議場の最後列に席を占めているケースが多いが、委員会などにはほとんど所属しておらず、滅多に開かれることのない「懲罰委員会」などに属しているケースが多い。首相まで務めてしまったら、「後はのんびり」ということなのか。政治家の間からも首相経験者は政界を引退すべきだといった声が上がるのも無理はない。

 前通常国会には3人の元首相が国会議員として在籍していた。麻生太郎氏と民主党政権で首相だった野田佳彦氏、それに菅直人氏である。麻生氏は現職の副総理兼財務相として国会答弁に立っていたが、他の2人はどうだったのか。

 野田氏は“慣例どおり”といってよいのか、一度も質問には立っていない。ところが、もうひとりの菅氏は“異例”なことに3度質問に立っている。原子力問題調査特別委員会で2度質問しているのだ。東日本大震災に伴って福島第一原子力発電所の事故が起きた際の首相だった菅氏と、当時野党議員として菅首相の対応を痛烈に批判していた安倍氏が攻守入れ代わった格好だ。

 質問以外に収集が可能な定量データとして「議員立法提出件数」と「質問主意書提出件数」を同会ではデータ化し、それもランキングしている。

 立法府である国会では、国会議員は議案を提出できることになっているが、ほとんどの法案が政府が提出する「閣法」で、「議員立法」は少ない。議員立法の提出件数が最も多かったのは、衆議院では維新の今井雅人議員の11回、参議院では民主党大塚耕平氏の11回だった。

 「質問主意書」は国会議員ならば誰でも国会開会中に文書で質問をし、政府から回答を引き出すことができる制度だ。衆議院では民主党の鈴木貴子議員の171回がダントツで1位。2位の緒方林太郎議員の43回を大きく上回った。

 鈴木氏は父親の鈴木宗男氏が質問主意書を大量に提出していたが、この手法を踏襲している。参議院では民主党小西洋之議員の73回が最多だった。

 この質問主意書にも国会の長年の「慣行」がある。与党議員は質問主意書を出さないというものだ。回答はすべて閣議決定されるため、「手間ひまがかかる」として政府の官僚や閣僚の間で評判が悪い。とくに、文案を調整して作る各省庁の幹部や内閣官房の幹部にとっては、煩雑な仕事だという意識が強い。それだけに、与党議員は政府に質問しない、という不文律が出来上がっているのだ。

質問主意書、自民・公民はゼロ

 衆議院での質問主意書の提出件数を政党ごとにみると、民主党議員は360本にのぼる。これに対して、自民党議員はゼロである。ちなみに公明党質問主意書は出していない。

 与党と政府は一体でなければいけないのか。

 与党議員になったら、すべて政府の言う事に無条件で承認を与えなければならないのか。自民党に所属している場合、党で決めた議決に国会内でも従うことを求める「党議拘束」といった慣行もある。議院内閣制のあり方として議論する時期に来ているように思われる。

第189回国会版・衆議院議員の国会活動ランキング

【質問回数】
順位 議員 政党 回数
1 足立 康史 維新 44
2 井出 庸生 維新 41
3 重徳 和彦 維新 31
4 高井 崇志 維新 30
5 吉川 元 社民 29
6 清水 忠史 共産 28
7 山井 和則 民主 26
8 鈴木 義弘 維新 25
    高橋 千鶴子 共産 25
10 玉木 雄一郎 民主 24
11 井坂 信彦 維新 23
    緒方 林太郎 民主 23
13 赤嶺 政賢 共産 22
    岡本 充功 民主 22
    國重 徹     公明 22
    小熊 慎司 維新 22
    藤野 保史 共産 22
18 河野 正美 維新 21
    階 猛     民主 21
    鈴木 貴子 民主 21
    柚木 道義 民主 21
22 阿部 知子 民主 20
    大西 健介    民主 20
    穀田 恵二 共産 20
    田村 貴昭 共産 20
    初鹿 明博 維新 20
    宮本 徹     共産 20
    山尾 志桜里 民主 20
29 落合 貴之 維新 19
    木内 孝胤 維新 19
    畑野 君枝 共産 19
    堀内 照文 共産 19
    村岡 敏英 維新 19
34 稲津 久     公明 18
    神山 洋介 民主 18
    後藤 祐一 民主 18
    中島 克仁 民主 18
    中根 康浩 民主 18
    西村 智奈美 民主 18
    牧 義夫  維新 18
41 塩川 鉄也 共産 17
    畠山 和也 共産 17
    宮本 岳志 共産 17
44 大串 博志 民主 16
    木下 智彦 維新 16
    篠原 孝  民主 16
    田嶋 要  民主 16
    玉城 デニー 生活 16
    中野 洋昌 公明 16
    馬淵 澄夫 民主 16
【質問時間】
順位 議員 政党 回数
1 井出 庸生 維新 1511
2 足立 康史 維新 1445
3 重徳 和彦 維新 1031
4 高井 崇志 維新 1022
5 清水 忠史 共産 979
6 緒方 林太郎 民主 925
7 山井 和則 民主 923
8 高橋 千鶴子 共産 921
9 玉木 雄一郎 民主 920
10 鈴木 貴子 民主 900
11 柚木 道義 民主 892
12 赤嶺 政賢 共産 879
13 山尾 志桜里 民主 875
14 階 猛 民主 863
15 阿部 知子 民主 839
16 井坂 信彦 維新 837
17 岡本 充功 民主 832
18 鈴木 義弘 維新 750
19 後藤 祐一 民主 728
20 小熊 慎司 維新 718
21 河野 正美 維新 669
22 吉川 元 社民 661
23 穀田 恵二 共産 659
24 大西 健介 民主 653
25 初鹿 明博 維新 651
26 村岡 敏英 維新 644
27 中島 克仁 民主 621
28 宮本 徹 共産 615
29 黒岩 宇洋 民主 598
30 大串 博志 民主 592
31 塩川 鉄也 共産 588
32 田村 貴昭 共産 581
33 神山 洋介 民主 575
34 宮本 岳志 共産 574
35 泉 健太     民主 572
    辻元 清美 民主 572
37 堀内 照文 共産 568
38 福島 伸享 民主 556
39 木内 孝胤 維新 551
40 馬淵 澄夫 民主 548
41 下地 幹郎 維新 539
42 落合 貴之 維新 533
    篠原 孝     民主 533
44 寺田 学     民主 516
45 牧 義夫     維新 513
46 西村 智奈美 民主 511
47 國重 徹     公明 509
    藤野 保史 共産 509
49 田嶋 要     民主 505
50 柿沢 未途 維新 504
議員立法
順位 議員     政党 回数
1 今井 雅人 維新 11
2 柿沢 未途 維新 10
3 江田 憲司 維新 9
    玉木 雄一郎 民主 9
5 岸本 周平 民主 8
    福島 伸享 民主 8
7 小山 展弘 民主 7
8 金子 恵美 自民 6
    佐々木 隆博 民主 6
    松野 頼久 維新 6
11 足立 康史 維新 5
    馬場 伸幸 維新 5
13 逢坂 誠二 民主 4
    小沢 鋭仁 維新 4
    後藤 祐一 民主 4
    田嶋 要     民主 4
    丸山 穂高 維新 4
18 田島 一成 民主 3
    玉城 デニー 生活 3
    平沼 赳夫 次世代 3
質問主意書
順位 議員 政党 回数
1 鈴木 貴子 民主 171
2 緒方 林太郎 民主 43
3 初鹿 明博 維新 39
4 井坂 信彦 維新 27
5 本村 賢太郎 民主 21
6 山井 和則 民主 18
仲里 利信 無所属 18
8 中根 康浩 民主 12
長妻 昭 民主 12
10 照屋 寛徳 社民 10


第189回国会版・参議院議員の国会活動ランキング
【質問回数】
順位 議員 政党 回数
1 福島 みずほ 社民 52
2 荒井 広幸 改革 47
3 山本 太郎 生活 44
4 川田 龍平 維新 42
5 薬師寺 みちよ 無所属 41
6 行田 邦子 無所属 38
7 山田 太郎 元気 37
    和田 政宗 次世代 37
9 小池 晃 共産 36
10 田村 智子 共産 35
11 紙 智子 共産 33
    中西 健治 無所属 33
13 井上 哲士 共産 32
    井上 義行 元気 32
    浜田 和幸 次世代 32
    渡辺 美知太郎 無所属 32
17 倉林 明子 共産 31
    藤巻 健史 維新 31
19 長沢 広明 公明 30
    吉田 忠智 社民 30
21 辰巳 孝太郎 共産 28
    寺田 典城 維新 28
    又市 征治 社民 28
    松田 公太 元気 28
議員立法
順位 議員 政党 回数
1 大塚 耕平 民主 11
2 小野 次郎 維新 9
3 柴田 巧     維新 5
    福島 みずほ 社民 5
5 荒井 広幸 改革 4
    小川 敏夫 民主 4
7 糸数 慶子 無所属 3
    尾立 源幸 民主 3
    主濱 了  生活 3
    谷 亮子     生活 3
    前川 清成 民主 3
12 足立 信也 民主 2
    荒木 清寛 公明 2
    大久保 勉 民主 2
    金子 洋一 民主 2
    川田 龍平 維新 2
    清水 貴之 維新 2
    中西 健治 無所属 2
    西田 実仁 公明 2
    羽田 雄一郎 民主 2
    水野 賢一 無所属 2
    溝手 顕正 自民 2
質問主意書
順位 議員     政党 回数
1 小西 洋之 民主 73
2 藤末 健三 民主 53
3 牧山 ひろえ 民主 30
4 中西 健治 無所属 29
5 大久保 勉 民主 24
    山本 太郎 生活 24
7 浜田 和幸 次世代 21
8 有田 芳生 民主 20
9 糸数 慶子 無所属 16
10 福島 みずほ 社民 15
11 川田 龍平 維新 13
12 小見山 幸治 民主 11
13 水野 賢一 無所属 10
    和田 政宗 次世代 10

凡例(衆議院
【対象議員】
2015年1月招集の第189回国会時に在籍した衆議院議員
議員名の表記は衆議院HPに従った。
【質問回数】
国会会議録検索システムを使用。第189回国会の会議録をもとに質問回数を数えた。
議事録が上がっていないものについては、「衆議院インターネット審議中継」を使用。質問と思われるものについては、1回と数えた。
1回の委員会の内、同じ議題について質問している場合は質問が2回に分かれていても1回とカウントした。
地方公聴会は対象から除く。
議長の司会進行、提案理由説明、趣旨説明、法案採決の際などの「討論(賛成・反対)」、「修正の提案理由説・質問中」に休憩が入った場合、1回の質問とする。
閉会中審査は除いた。
議員立法発議回数】
第188回特別国会、第189回通常国会を対象とした
衆議員事務局の情報提供を基に「発議者」を集計。
質問主意書の提出回数】
第188回特別国会、第189回通常国会を対象とした
衆議院HPの「質問主意書答弁書」の「提出者」を集計。

凡例(参議院
【対象議員】
2015年1月招集の第189回国会時に在籍した参議院議員
議員名の表記は参議院HPに従った。
【質問回数】
国会会議録検索システムを使用。第189回国会の会議録をもとに質問回数を数えた。
議事録が上がっていないものについては、「参議院インターネット審議中継」を使用。質問と思われるものについては、1回と数えた。
1回の委員会の内、同じ議題について質問している場合は質問が2回に分かれていても1回とカウントした。
地方公聴会は対象から除いた。
議長の司会進行、提案理由説明、趣旨説明、法案採決の際などの「討論(賛成・反対)」、「修正の提案理由説・質問中」に休憩が入った場合、1回の質問とする。
閉会中審査は除いた。
議員立法発議回数】
第188回特別国会、第189回通常国会を対象に集計
参議院事務局の情報提供を基に「発議者」を集計。
質問主意書の提出回数】
第188回特別国会、第189回通常国会を対象に集計
参議院HPの「質問主意書答弁書一覧」の「提出者」を集計。
データ提供:国会議員の活動データを集積する会