「爆買い」進化論〜彼らはいま「日本の本物」を欲している! デフレ脱却の起爆剤にできるか

現代ビジネスに8月24日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49527?page=3

「爆買い」がピークアウト

日本にやって来る外国人観光客による「爆買い」のピークアウトが鮮明になった。日本百貨店協会が8月19日にまとめた7月の外国人観光客の売上高・来店動向によると、集計対象の84店舗で免税手続きをした商品の売り上げは146億3,000万円と、前年同月比で21%減少した。前年同月比割れは4ヵ月連続となったのだ。

ではこれで、外国人消費が「終わった」のか、というと決してそうではない。実は免税手続きをした購買客数は27万9000人で、前年同月比で13.7%も増えているのだ。しかもこの27万9000人という数は過去最多。これまでの最高だった4月の26万人上回った。

購買客数は大きく増えているのに、なぜ売上高が落ちているのか。それは外国人観光客の購買動向が変わったためだ。

「爆買い」といえば、銀座のデパートで、中国人観光客などが高級輸入ブランド品を大量に買い込む姿が目立った。まさに「買い漁る」という言葉がぴったりのように、両手いっぱい高級ブティックの袋を下げて歩く姿が見られた。ところが、そうした商品の売り上げが大きく落ち込んでいるのだ。

百貨店協会の7月の統計で言えば、「ハイエンドブランド」は外国人観光客に人気のあった商品としては4位である。かつて1位の常連だったのと比べると様変わりなのだ。こうした高級ブランド品を含む「一般物品」の免税売上高は33.4%も減少した。

一方で、7月に最も人気のあった商品は「化粧品」。次いで「食品」、「婦人服飾雑貨」となっている。ちなみに、化粧品や食料品といった「消耗品の免税売り上げは33.3%も増えている。つまり、外国人観光客の購買志向が高級ブランド品から、化粧品や食品などに大きく移ったことを示している。

こうした購買動向の変化が端的に現れているのが免税手続きをした顧客一人当たりの売上高、つまり購買単価である。購買単価がピークだったのは、2014年の12月の8万9,000円。これがジワジワと低下し、2015年6月から今年2月までは7万円台で推移していた。今年3月と4月は6万8,000円だったが、5月以降急落。7月は遂に5万2,000円にまで低下した。

もちろん、これは高額商品を売りたい百貨店にとっては大打撃である。高級時計やバック、宝飾品といった高級品は当然利益率も高い。そこが落ち込めば、利益を大きく圧縮することになる。一方で、食料品などは利幅も薄く儲からない。

だが、これは日本経済にとって悪い傾向なのだろうか。

「正常」な消費行動に移行中

従来のハイエンドブランド品の「爆買い」は、為替マジックによって中国人観光客にとって価格面でバーゲンセールだったことが要因だ。円高時代に仕入れた高級ブランド品が、アベノミクスによる円安で猛烈な「お買い得」になった。同じフランス製高級ブランド品を、中国本土で買うよりも銀座で買う方が安いという状況が続いていたのだ。

ところが円安傾向が続いたことで、店頭に並ぶ高級ブランド品の円建て価格も上昇。さらに今年に入ると円高傾向になったため、アジアからの観光客にとって「価格面での魅力」が大きく失われたのである。

そもそも、輸入ブランド品が外国人観光客に売れて再輸出されても、日本の生産には結びつかない。「爆買い」と喜んでみたところで、日本の製品が評価されたわけではないのだ。

一方、化粧品や食料品となると、多くは日本製だ。とくに外国人観光客が好んで買う化粧品は「資生堂」などの日本ブランド品が中心である。食料品も日本製の食品が圧倒的に人気だ。中国人観光客など外国人の人気スポットとして知られる大阪・黒門市場では、ホタテの貝柱などが売れるが、「日本産」と明記しておかないと売れない。衣料品なども「日本製」と書いてあるものが売れるという。

つまり、価格が安いからという理由で輸入品を買っていた「爆買い」が、日本ならではの良い物を買う「本物買い」へとシフトしていると見ることができるのだ。価格が決して安くない百貨店で食料品を買って免税手続きをするのは、百貨店が価格は高くても良いモノを置いてあるからなのだ。そう考えれば、外国人観光客が、日本のより良いモノを日本に来て求めるという「正常」な消費行動に移行していると見ることもできるだろう。

これは見方によっては、日本の良いものを外国人観光客に売り込むチャンスでもある。何せ日本にやって来る外国人観光客はまだまだ増え続けているのだ。

日本政府観光局(JNTO)が8月17日に公表した7月の訪日外客数(推計値)は229万7000人と19.7%も増えた。単月としては今年4月の208万2000人を上回り、過去最多となった。

日本では昨年来、中国経済の減速懸念が強く、日本への中国人旅行者も頭打ちになるのではないか、と心配する声が強かった。ところが実際は、1-7月の累計で380万人の中国人が来日。前年同期間に比べると38.2%増という高い伸びになっている。訪日外客数の国別で最大の伸び率を記録しているのが中国なのだ。7月単月では73万1400人とこれまた過去最多を記録している。

日本の商品は安すぎる

中国だけではない。韓国も7月は30%増の44万7000人、台湾も9.8%増の39万7000人と大幅に増えている。さらに欧米からの旅行者も増加が続いている。円安で日本旅行が安いから、という理由で火が付いた日本ブームだったが、ここへ来て、本物になってきた感じなのだ。

これまでは、旅行先と言えば、京都というのが定番だったが、最近では外国人が訪れる観光地も多様化している。当初は奈良に宿泊する外国人観光客は少なかったが、最近は奈良の和風旅館にまで外国人が押し寄せるようになった。日本旅行が二回目、三回目という旅行者が増え、より日本的な旅を求める傾向が強まっているのだ。

たとえば京都から鉄道で行ける兵庫県北部の城崎温泉なども外国人観光客の人気スポットになっている。日本の「本物」を求めるように変わってきたわけだ。

これは特色ある観光資源を持つ地方にとって大きなチャンスだろう。また、本物の食材も地方には豊富にある。もうひとつのチャンスは、本物を適正な価格で提供していれば、外国人観光客はやって来るので、価格競争に巻き込まれなくて済むことだ。デフレの中で、価格競争を繰り広げてきたホテル・旅館業界にとっては、久々の追い風が吹いている。

日本の商品の価格は世界的に見て安すぎる。デフレが長く続いたことで、価格破壊が進展し、世界では考えられない価格になっている。外国人観光客が日本全国にやって来ることで、適正な価格に引き上げていくきっかけができつつあるのだ。勢いが衰えない外国人観光客の増加をデフレ脱却の起爆剤にするべきだろう。