ついに安倍政権がJA全農と全面衝突へ!「特権はく奪」にもゴーサイン ここまで本気で改革する理由

現代ビジネスに11月9日にアップされた原稿です。
オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50171

今年は全農がターゲット

農協の抜本的な改革に向けた動きが再び加速してきた。政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策大学院大学教授)が11月7日に首相官邸で会合を開き、全国農業協同組合連合会JA全農)の組織の抜本改革を求める提言案を示した。

昨年はJA全中全国農業協同組合中央会)の抜本的な見直しに踏み切ったが、今年は全農がターゲットになっている。
 
全農はJAの商社的機能を担っている。肥料など農業資材を地域の農協を通じて農家に販売する事業も手がけている。規制改革会議に設置した「農業ワーキンググループ」は7日の会合に「『攻めの農業』の実現に向けた農協改革の方針」と題するペーパーを提出。全農経由の肥料が国際的にみて割高だとして、全農の資材部門などの組織を縮小するよう次のように求めた。
 
「農業者が生産資材を国際水準の価格で調達できるよう、全農は、生産資材の購買機能を担う組織を抜本的に改革。『生産資材メーカーの販売代理』ともみられる購買組織は縮小し、仕入れ販売契約の当事者にはならない、農業者の適切な生産資材調達を支援する少数精鋭の新組織へと変革すべき」
 
ワーキング・グループは、全農の資材部門が肥料などを販売する際には、メーカーの価格に手数料を上乗せして地域の農協に販売しており、それを農家が買うことになるため、価格が割高になっていると指摘している。つまり、全農は農家よりも生産資材メーカーを向いている、と断罪しているわけだ。
 
さらに、全農の新組織のあり方についてもこう指摘した。

「国内外に情報収集のためのネットワークを構築し、真に農業者の立場に立って、生産資材の仕様、品質、価格、国際標準等の様々な情報を収集分析するインテリジェンス機能が基軸。購買戦略の立案や、当該戦略に基づいた調達先の選定方策の提案など、農業者の競争力強化に必要な資材調達の情報やノウハウ提供を行う組織とすべき」

攻めの農業を担う農家を支える、少数精鋭の組織に変われと言っているのだ。
 
会議に出席した安倍晋三首相はこの提言案をたたき台にした議論を受けて、改革に取り組む姿勢を述べた。
 
「全農改革は農業の構造改革の試金石であり、新しい組織に全農が生まれ変わるつもりで、その事業方式、組織体制を刷新していただきたい」「皆様から頂いた提案を、私が、責任をもって、実行してまいります」
 
本気で農協改革に取り組むとしたのである。

全農は安倍政権に屈するのか?

安倍首相はこれまでも繰り返し「農業を成長産業とする」と述べてきた。そのために、「農業者が自由に経営できる環境と、生産資材、流通加工を担う業界全体の効率化や再編が重要」だとして、全農の資材調達にメスを入れる姿勢を明確にした。

こうした農協改革の方針に対して、全農などの農業団体は強く反発している。大規模経営を進める農家など改革派はこうした改革を支持しているものの、従来型の農協依存の小規模経営農家も多い。農協の組織力を使った反対運動なども展開している。

今年7月の参議院議員選挙では、東北の農業団体が自民党候補者に推薦状を出さなかったケースが相次ぎ、東北地方で自民党が苦戦する一因になったという見方もある。一方で、従来の補助金頼みの農政が限界に来ていることも事実で、従来農業の象徴的な存在である「農協」改革が浮上している。
 
安倍首相はアベノミクスで取り組む「岩盤規制」として、医療、農業、労働の3つを名指ししており、その改革成果を示したいという思惑も農協改革に本腰を入れる理由になっている。

現在の国会で焦点となっているTPP(環太平洋経済連携協定)が発効すれば、日本の農業がさらに国際競争にさらされるのは間違いなく、競争に打ち勝つためには「攻めの農業」の確立は不可欠だとしている。
 
7日の会合には農業ワーキング・グループがもう1つのペーパーを出した。「魅力ある牛乳・乳製品を作り出す酪農業の実現に向けた改革の方針」と題したもので、生乳の流通システムを抜本的に見直すことを求めている。
 
現在、生乳については、指定生乳生産者団体となった農協に出荷する生産者に限って補給金を交付する制度になっている。これは「組合員に農協利用を事実上強制し、農協に特別の地位を与えている点で、目下進めるべき農協改革の考え方にもとる」として見直しを求めているのだ。要は農協が持つ「特権」をはく奪しようというわけである。

これについても安倍首相は以下のように述べてゴーサインを出した。
 
「生乳については、指定団体に出荷する酪農家のみを補助対象とする仕組みをやめ、酪農家が販路を自由に選べ、流通コストの削減と所得の向上が図られる公平な事業環境に変えます。特色ある牛乳、バター、チーズを消費者が身近な店で手にできるように、そして輸出もされる。酪農家の働き方改革も視野に入れながら、成長する日本の酪農の未来をつくり上げていただきたいと思います」
 
自民党では農林部会で農業改革の「骨太の方針」をまとめる予定で、小泉進次郎部会長が規制改革会議と連動する形で改革姿勢を打ち出している。もちろん自民党議員には農林族も少なくないため、反対意見も根強いが、安倍首相が明確な改革姿勢を打ち出していることもあり、全農も改革を受け入れざるを得なくなる可能性が高い。

いずれにせよ、農協改革に向けたバトルが本格化しそうだ。