現代ビジネスに9月14日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49715
改革の準備は着々と進んでいるが…
アベノミクスを推進する「司令塔」の役割を担う政府の会議体が相次いで「新装開店」している。9月12日には「未来投資会議」と「規制改革推進会議」が相次いで初会合を開き、安倍晋三首相も出席した。
未来投資会議は、これまで成長戦略づくりを担ってきた「産業競争力会議」を休眠させ、代わりに発足させた組織で、議長は安倍首相が務める。(議員名簿)
メンバーは首相を含めて15人。麻生太郎・副総理のほか、石原伸晃・経済再生担当大臣、世耕弘成・経済産業相ら閣僚と、6人の民間人議員のメンバーで構成されている。
一方の規制改革推進会議は、7月末で設置期限が切れた規制改革会議の後継組織で、委員は民間人14人。大田弘子・政策研究大学院大学教授が議長を務める。(委員名簿)
このほか、9月下旬には、安倍首相が「今後3年間の最大のチャレンジ」と位置付ける「働き方改革」を推進する「働き方改革実現会議」も新設される。
さらに、すでに設置されている「経済財政諮問会議」と「国家戦略特別区域諮問会議」も再稼働する。この2つはいずれも安倍首相が議長を務める。経済財政諮問会議は首相を除く10人のうち5人が閣僚で、これに日本銀行総裁と、民間議員4人が加わっている。もうひとつの特区諮問会議は首相を除く9人のうち4人が閣僚で、残る5人が民間の有識者議員が占める。
規制改革会議はすべて民間委員だし、首相が議長を務める4会議は、いずれも民間議員に、首相と官房長官を合わせれば過半数を得ることができる。つまり、いずれも首相がリーダーシップを発揮するための仕掛けになっているわけだ。
ただし、これまで、こうした会議体が十分に機能してきたかと言えばそうではない。それぞれの会議体が似たような議論をしているにもかかわらず、連携が取れず、マスコミからは「乱立状態」だと批判されてきた。果たして新装開店した後は、機能を発揮するのだろうか。
それぞれの会議には当然のことながら、担当大臣や内閣府の事務局官僚がいる。大臣や官僚が縦割りになり、横の連携が取れないというのがこれまでのパターンだった。霞が関の常で、手柄争いになったり、責任の押し付け合いになることがしばしばだった。
今回、規制改革と地方創生が共に山本幸三大臣の担当となったことから、規制改革推進会議と特区諮問会議の連携は深まりそうだ。また、民間委員も相互に重複してメンバーとなるケースが増えた。
例えば、特区諮問会議の有識者議員である竹中平蔵・東洋大学教授は、未来投資会議の民間議員として名前を連ねた。また、規制改革推進会議の議長代理になった金丸恭文・フューチャー会長兼社長も未来投資会議の議員を兼ねる。経済財政諮問会議の民間議員である榊原定征・経団連会長は、未来投資会議にも名を連ねた。
安倍首相と麻生副総理、菅義偉・官房長官、石原経済再生担当相は、大半の会議を兼務している。
すでに述べた会議の構造からすれば、首相さえリーダーシップを発揮すれば、改革の方向性は自ずから決まると言っても過言ではない態勢が出来上がった。
最初のターゲットは「牛乳」
問題は何をやるか、だ。
規制改革推進会議に出席した安倍首相は、こうあいさつした。
「GDP600兆円経済を目指して岩盤規制改革に徹底的に取り組み、イノベーションが可能にする魅力的なビジネスを世界に先駆けて実現させます。行政サービスをもっと利用しやすくしてまいります。事業者目線で、規制改革、行政手続の簡素化、IT化を一体的に進めていきます」
そうして真っ先に挙げたのが農業だった。「攻めの農業」の実現は安倍政権の最重要課題だとしたうえで、農業とその関連産業がグローバルに飛躍できるようにするとした。そのうえで、明確なターゲットを名指ししたのだ。
「こうした観点から、関係業界や全農の在り方を予断なく見直し、生乳に係る抜本的改革と生産資材及び加工・流通構造に関する具体的施策について、この秋のうちに結論を出します」
ここ数年、クリスマスシーズンなどになると、都市部のスーパーからバターが消える現象が起きていた。モノが豊富な先進国でありながら、バターが足らなくなる背景には、これまで長く続いてきた酪農政策と乳製品の製造・流通に関わる硬直的な体制がある。ここにメスを入れようというのだ。
安倍内閣は昨年、JA全中のあり方を抜本的に見直す法改正を行い、農協の足元を揺さぶった。今度は酪農でも抜本的な制度見直しを行おうとしているのだ。
アベノミクスの成長戦略の1丁目1番地は規制改革だと言い続けてきた安倍首相としては、国民にとって分かりやすい「ターゲット」が必要だ。当面は牛乳が焦点ということになる。
もっとも、規制改革の「玉」がたくさん控えているのかというと、そうではない。推進会議の初会合では「介護、保育サービスで民間事業者の参入を妨げている規制の改革」などを求める声が出たものの、次々に規制改革を求める声が挙がったわけではなかった。「予定の時間を余らせて終わってしまった」と関係者は舞台裏を明かす。
規制改革を行おうとすれば、かならず規制に守られて既得権を享受している企業や組織を敵に回すことになる。そうした「バトル」に果敢に挑む人たちは決して多くないのである。
今後始まる「働き方改革実現会議」も含め、どれだけ具体的な「改革の成果」を国民に示し、「玉」を打ち出すことができるのか。
「アベノミクスの3本目の矢は一向に飛ばない」「アベノミクスの改革は失敗したのではないか」と言った声が強まる中で、5年目を迎える安倍官邸に“乱立”する会議体の真価が問われる。
すでに述べた会議の構造からすれば、首相さえリーダーシップを発揮すれば、改革の方向性は自ずから決まると言っても過言ではない態勢が出来上がった。