週休3日、テレワーク…企業が働き方改革を加速 優秀な人材を確保するため「複業採用」も

日経ビジネスオンラインに2月10日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/020900034/?P=1

パナソニックは午後8時退社を義務づけ

 社員の「働き方」を大きく変える取り組みを始める企業が相次いでいる。カルビーが4月から、これまで週2日までと決めていた自宅など社外で勤務する「テレワーク」の上限日数を撤廃する。斬新なオフィスなどで知られるヤフーは4月から「週休3日制」を導入すると報じられた。日本を代表する伝統的な大企業も動き始めた。パナソニックの津賀一宏社長が国内で働く従業員10万人に対して午後8時までに退社するよう通知、残業について月80時間以下に抑えるよう指示した。

 企業が「働き方改革」に動き出した背景には、急速に進む人手不足がある。働く環境が悪い場合、より条件の良いライバル企業などに社員が転職してしまう例が増えているが、そうなると穴埋めの人材を探すのは難しく、その分残った社員に負担がかかることになる。つまり、働く環境が一段と悪化する悪循環に陥ってしまうのだ。

従来型の「滅私奉公」はもう限界

 新卒採用も完全に売り手市場に変わっており、優秀な人材を確保するためには、従来型の滅私奉公を求めてももはや難しい。特に入社数年で会社を辞める人が急増しており、「社風が合わない」「働く環境が入社前に言われていたのと違う」といった理由で会社を去っていく。人員を確保しなければ、もはや業務に支障を来すところまで来ているのだ。

 カルビーは「テレワーク」の上限を撤廃するだけでなく、「テレワーク」そのものの概念を変える。従来の制度では、前日までに上司の許可を得て自宅で勤務する。勤務場所は自宅に限られており、会社のノートパソコンで仕事して、翌日上司に報告する仕組みだった。

 新制度では自宅以外のカフェなどでの勤務もできるようにする。2日という上限を撤廃することで、制度上では毎日テレワークをすることも可能になるが、実際には最低週1回は出社するといった運用から始まる見込み。

企業は「成果」を求める姿勢に変わりつつある

 テレワークの場合、どうやって労働時間を把握するのかという問題がつきまとう。パソコンのスイッチを入れると時間カウントが始まるといったソフトを導入している会社もあるが、企業側が単に社員に働いている「時間」を求めるのではなく、働いた結果の「成果」を求める姿勢に変わりつつあることを示している。

 そうした働き方が増えれば、企業が求める成果が週に数日の勤務で達成できてしまうケースもある。従来ならば、そうした優秀な社員には別の仕事を与え、とことん使おうとしてきた。どうせ時間で拘束しているのだから、遊ばせておくのは無駄だというわけだ。

 だが、企業が従業員に「副業」や「複業」(※複数の仕事を持ち、どちらが「主」でどちらが「副」と言えないような場合は「複業」と呼ばれる)を認めれば、自らの専門能力を複数の会社に役立てることが可能になる。

サイボウズは、自社の仕事を複(副)業とする人材を募集
 厚生労働省の懇談会などで「副業」や「複業」の解禁を訴えてきたサイボウズの青野慶久社長は、自社で「複業採用」を始め、大きな話題になった。だが、「副業」や「複業」が可能になるには、そもそも元の会社の労働時間が短いことが前提になる。

 ヤフーが打ち出した「週休3日制」の導入も大きな話題だ。育児、介護、看護などを抱える社員で希望する人を対象に導入。給与は週5日勤務が4日勤務に減る分、給与も2割程度減るようだ。

欧州では「80%」「40%」といった働き方もある

 スイスなど欧州では「80%」「40%」といった社員の働き方がある。週5日のところ4日働くのが「80%」、2日働くのが「40%」だ。日本の非正規雇用とは違い、社員として処遇され、社会保険料もその比率に応じて納める。

 日本でも同一労働同一賃金が実施され、非正規の差別的な待遇が禁止されることになれば、そうしたフルタイムでない正社員の仕組みが必要になるだろう。そうした制度ができれば、2社で50%ずつ働くことも可能で、「副業」や「複業」がやりやすくなる。

 ヤフーでは今後、「週休3日」の対象社員を広げていく計画で、業務の効率化で給与を下げずに週休3日制を実現できないかを検討していくという。

 ヤフーは「働き方」や職場環境の改革に熱心に取り組んでいる。2016年10月には新卒一括採用の廃止を決め、全職種を対象に、入社時に18歳以上で応募時に30歳以下であれば、新卒・既卒を問わず応募できる「ポテンシャル採用」を始めた。この結果、前の年の数倍のペースで採用募集に応募が集まっているという。

「日本全体が変わるかどうかは、大企業次第」という意見も

 伝統的な大企業が変わらなければ、日本全体が変わるのは難しい、という意見も多い。確かに、大企業の社員が夜10時まで働いていれば、下請け会社はもちろん、取引先で力関係が弱い立場の会社の社員は、それに合わせて仕事をしなければ生きていけない。夜10時に電話で、朝までに何とかしろと言われれば、徹夜で仕事をこなさなければならない現実が日本にはある。

 そんな中で、パナソニックが午後8時以降の残業を認めないとしたのは大きな一歩だ。残業についても月80時間以下に抑えるという。残業時間の上限規制は、政府の「働き方改革実現会議」で議論されているが、平均月60時間を上限にするという案も出ている。「それに比べれば甘い」という議論も成り立つが、大企業が自ら上限を決める意味は大きい。

 パナソニックは旧・松下電器産業時代の1965年に他の大企業に先駆けて週休2日制を実施するなど、働き方改革に常に先進的に取り組んできた、という自負がある。こうした動きは今後、他の大企業にも広がっていくだろう。

バブル期並みの人手不足が背景に

 逆に言えば、それぐらい人材採用難なのである。厚生労働省が1月31日に発表した「一般職業紹介状況」によると、2016年12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.43倍で、11月に比べて0.02ポイント上昇。1991年7月の1.44倍以来、25年5カ月ぶりの高水準だった。もはやバブル期並みの人手不足なのである。さらにバブル期の有効求人倍率の最高値は1990年7月の1.46倍で、このままの傾向が続けば、それを突破するのは時間の問題だ(■図1)。

■図1 有効求人倍率の推移

厚生労働省「一般職業紹介状況(季節調整値、パート含む)」から作成。


 外食産業や深夜営業の小売店などでは、圧倒的な人手不足に苦しんでいる。「ロイヤルホスト」が24時間営業の廃止を決めたのに続いて、「ガスト」や「ジョナサン」も24時間営業店舗を大幅に減らしている。深夜時間帯に営業していた987店のうち約8割を、原則として深夜2時閉店、朝7時開店へと変えている。

 深夜勤務を減らすことで、従業員のシフトを組みやすくし、人手不足を解消させることができる。労働環境が劣悪な職場にはなかなか人が集まらないという現実がある。

「不便」を許容する消費者も増えた

 百貨店の三越伊勢丹ホールディングスが、正月三が日を休業にする検討をして話題になっているが、ここへ来て大きく変わったのは消費者の声だ。店舗の休みを増やすことに賛成する声が多いのである。外食チェーンの深夜営業削減でも同様に、理解を示す声が多い。共働き世帯の増加で、消費者である一方、自らも働き手であるという立場の人が増えたためだろうか。働き方改革に対する期待は大きい。

 日経ビジネスオンラインの今年1月1日付の拙稿で、「人手不足が慢性化し、働き方が激変する年になる」と占った。そのうえで、働き手も、企業も、自ら積極的に動くことが、おみくじで言えば「大吉」につながると書いた。その後、相次いでいる企業の動きはまさにこうした流れの中にあると言っていいだろう。

 企業は「ヒト・モノ・カネ」のいずれが欠けても潰れる。優秀な人材を社内に留め、あるいは社外から招き入れる動きは、今後も一段と強まるに違いない。