4年連続ベアで「経済好循環」がいよいよ始まる?

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。5月号(4月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→http://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2017年 05 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2017年 05 月号 [雑誌]

 大手企業の2017年の春の労使交渉(春闘)で、労働側が要求したベースアップ(ベア)を、経営側が4年連続で受け入れた。アベノミクスによる円安で企業業績が大幅に改善したのをうけて、安倍晋三首相が経団連のトップなど経営側に、業績改善の恩恵を従業員にも分かち与えるよう求めてきた。「官製春闘」などと言われたものの、首相が呼びかけた2014年以降は、いずれもベアが実現している。
 労働側の要求額に比べて経営側の回答額は厳しく、引き上げ幅は前の年に比べて縮小した。引き上げ幅は4年間で最小にとどまった、と厳しい評価を下すメディアもあるが、バブル崩壊以降、死後になっていたベースアップが復活し、4年も連続で続いた意味は大きい。
 安倍首相がベースアップを求めたきっかけは、「経済の好循環」。企業業績の改善が給与の増加につながり、家計を潤すことで、それが消費に結び付く「循環」を期待してのことだ。日本のGDPの6割は消費が占めており、消費が盛り上がるかどうかで景気の先行きが大きく左右される。
 とくに2014年4月の消費増税以降は、盛り上がりを見せていた高額品消費なども下火になった。駆け込み需要の反動減が2015年には消え、消費は増勢に戻ると期待されたが、2015年秋以降はさらに冷え込みが鮮明になった。なかなか消費に火が付かない中で、給与を増加させる意味は大きい。
 3月中旬の日本商工会議所の総会に出席した安倍首相は、「企業業績が過去最高水準にある中で、欲を言えばもう少し力強い賃上げを望みたかった」と大手企業のベアについて、感想を述べた。その一方で、雇用の7割を占める中小企業での賃上げが重要だとして、経営者たちに協力を求めた。
 中小企業の給与も増加傾向にある。というのも猛烈な人手不足に直面しているからだ。パートやアルバイトの賃金水準は急ピッチで上昇している。政府が毎年、法定の最低賃金を引き上げていることも大きい。
 人手不足は深刻だ。総務省労働力調査によると、2017年1月の「雇用者数」は5793万人と前年同月に比べて59万人増加。49カ月連続でも増加となった。安倍政権発足から4年間、ずっと雇用情勢の改善が続いているのだ。
 当初は、非正規雇用者が増えて正規雇用者が減るという傾向が続いたが、ここ2年は正規雇用も増加。さらに非正規雇用の増加率よりも、正規雇用の増加率の方が大きくなっている。最新の1月分の統計では正規雇用の増加率は1.9%、非正規雇用の増加率は0.1%ととなった。人材を確保に苦心しているのは大企業よりむしろ中小企業。積極的に待遇改善などを行っている。
 こうした給与の増加が消費に結びついて来るかどうかが最大の焦点だ。給与が増える一方で、社会保険料負担が毎年増えており、可処分所得、つまり使えるおカネが思ったほど増えていないという現実もある。また、手取りの増加分を消費ではなく貯蓄に回す割合も増えている。
 そういう意味でも4年連続でベアが実現した意味は大きい。毎年ベアが検討されるのが当たり前な経済環境になってきたことになるからだ。来年もベアがあれば、確実に手取りは増えるという期待を働き手は抱くようになれば、消費におカネを使うようになるとみられる。
 時計や宝飾品などの販売は高額品へのシフトが起きている。株高や不動産価格の上昇といった「資産効果」などを背景に、富裕層が購入している。一方でボリュームゾーンと言われるビジネスパーソンが買う中間価格帯の商品の売れ行きが鈍っていることから、「格差」がより鮮明になっているわけだ。
 ベアなど給与増分が消費に向かい始め「経済の好循環」が本格化してくれば、このボリュームゾーンの販売が上向いてくるはずだ。時計の中間価格帯の売れ行きが目に見えて良くなることが、安倍内閣の悲願ともいえる「経済の好循環」のひとつの証左になるに違いない。