「ふるさと納税」批判に熱心な霞が関の狙いとは なぜ、国が「返礼品」の上限額を決めるのか?

日経ビジネスオンラインに4月14日にアップされた原稿です→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/041300046/

ふるさと納税」の返礼品、寄付額の3割以下に

 総務省が「ふるさと納税」の返礼品について、寄付額の3割以下に抑えるよう全国の地方自治体に要請する通知を出した。「自治体の間で過熱する返礼品競争に歯止めをかける」のが狙いだという。通知に強制力はないが、改善が見られない自治体には個別に働きかける、という。

 昨年あたりから大手メディアを中心に、「高額返礼品」を批判する記事が頻繁に掲載されるようになっていた。学者や文化人の中からも批判の声が挙がった。

 「高額の返礼品を目当てにふるさと納税するのは問題だ」

 「本来受け取る自治体の税収が減るのはおかしい」

 そんな声を伝える特集記事が組まれ、批判が繰り返されている。

霞が関が「ふるさと納税」を批判する理由

 こうした批判の多くは、霞が関記者クラブに所属している記者や、新聞社の論説委員によって書かれているものが多い。学者もよくみると、総務省財務省など霞が関官僚のOBという例が少なくない。雑誌などへの働きかけも多い。どうも霞が関が「アンチ・ふるさと納税」キャンペーンを仕掛けているようなのだ。

 これまでも総務省は、返礼品に「不動産」を提示したり、家電や貴金属など「資産性の高いもの」は返礼品にしないよう求めてきた。最近は家具や時計、カメラといったものまでアウトだとしている。メディアによる世の中の高額返礼品批判を演出したうえで、その声に「応える」形をとって、高市早苗総務相が満を持して、今回、返礼品について「上限3割」を打ち出したのだ。

 霞が関が「ふるさと納税」を批判する理由は明白だ。地方自治体には国から「地方交付税交付金」が支給される。国税の形で国が集めた税金を地方に再分配する制度だ。その分配権は総務省が握って来た。自治と言いながら、地方自治体は総務省に首根っこを押さえられ続けてきたのだ。

ふるさと納税受入額」の急増に危機感

 そこに風穴をあけつつあるのが「ふるさと納税」だ。地方自治体の創意工夫によって、納税者が自主的に納税先を決める制度が生まれたわけだ。当初は微々たる金額だったが、その急増ぶりは著しい。

 総務省の調査によると、「ふるさと納税受入額」は年々増加。2013年度は145億円だったものが、2014年度には388億円へと倍以上に増えた、それが2015年度には1652億円になった。2016年度の統計はまだ出ていないが、さらに大きく増える見通しだ。この急増によって、アンチ・キャンペーンが始まったのである。

 1652億円と聞くと大きな金額のように見えるが、実際はそうではない。地方税収の総額は2016年度予算で38兆7742億円。わずか0.42%である。それに総務省が目くじらを立てるのは、自分たちの権益が侵されることへの恐怖感があるのだろう。

返礼品の調達は自治体にとって無駄ではない

 果たして、ふるさと納税に返礼品を出すことは「問題」なのだろうか。

 2015年度のふるさと納税受け入れ額が全国トップだった宮崎県都城市は、42億3123万円を集めたが、返礼品としては地元の牛肉や焼酎、乳製品が人気を集めた。返礼品の調達額は受け入れ額の7割相当だという。全国平均は4割強とされるので、「もっともお得」な納税先だということもできる。納税額の7割分が返礼品として戻ってくるからだ。

 都城市にとっては、それでも3割の13億円近くが手元に残るから、財政にとってありがたい事このうえない。自由に使える財源を確保するのは地方の自治体にとって至難の業だからだ。

 もちろん7割の返礼品調達も市にとっては無駄ではない。ふるさと納税がなくても、地域の農業振興などに予算を割いている。ふるさと納税での税収は、それに置き換わっている格好になる。しかも、他地域の人たちから「選択」されることで、市が独自に決める補助金よりも、合理的に配分されている可能性がある。

「過熱気味でもいいのではないか」

 総務省が1742の市町村に聞いた調査で、「寄付者に特産品を送ることをどう考えているか」という問いに対して13%227の市町村が「積極的に実施すべき」と答え、55%に当たる965市町村は「特に問題はない」と回答していた。「問題はあるが、各地方団体の良識に任せるべき問題」とした市町村が395団体(23%)あったが、「問題があるので規制すべき」と回答したのは21団体、わずか1%だった。91%の市町村が現状の制度を支持あるいは問題なしとしているにもかかわらず、総務省は「規制」に動いたわけだ。

 そんな総務省の返礼品調達額への上限規制にさっそく反対の声が上がっている。山形県吉村美栄子知事は4月11日の記者会見で、「(返礼品競争が)過熱気味でもいいのではないか」と述べたと報じられた。毎日新聞によると知事は、「予算の獲得だけでなく、地域のPRという点でも官民一体となって盛り上がっている」「地方が盛り上がり一生懸命に取り組んでいる点を懐深く見守ってほしい」と語ったという。

 河北新報の報道によると、山形県の場合、2015年度には、米沢市がノートパソコンや牛肉を返礼品として、全国11位に当たる19億5824万円のふるさと納税を集めた。調達額の比率は6割という。また、寒河江市への納税額は13億7178万円(調達率5割)、東根市は9億6901万円(調達率3割)で、いずれも人気の返礼品は牛肉やコメ、サクランボといった地元の特産品だ。

すべての人が「返礼品目当て」というわけではない

 ふるさと納税額の急増のきっかけがこうした魅力的な返礼品にあるのは間違いない。実際に、大都市圏に納められるべき地方税の一部が、地方に回っているのは確かだ。だが、それは総務省が言うように「大きな問題」なのか。

 「日本には寄付文化が根付かないと言われてきましたが、ふるさと納税をきっかけに、寄付しよう、応援しようという意識が高まっている」と、ファンドレイジング(寄付金集めや資金の調達)に詳しいファンドレックスのイノウエ ヨシオさんは言う。「無税にできる上限を超えて、ふるさと納税している人がかなりいる」というのだ。

 ふるさと納税の中には、1型糖尿病の研究への助成を指定できる佐賀県の例や、犬の殺処分ゼロに取り組むNPOに助成される広島・神石高原町の例など、目的に共感を持った人からの納税を集めているケースも出てきた。こうした寄付での返礼品調達率は当然ながら低い。つまり、ふるさと納税者のすべてが「返礼品目当て」というわけではないのだ。

ふるさと納税の使途を、原発建設差し止め訴訟費用に

 北海道函館市は今年度から「ふるさと納税」の使途の一つとして、市が起こしている大間原子力発電所青森県大間町)の建設差し止め訴訟の裁判費用を追加した。4月3日に受け付けを始めたが、わずか4日で約50件、120万円の寄付があったという。多くの自治体で、ふるさと納税の使途を、いくつかの項目から選んで指定できる仕組みが導入されている。

 これまで地方自治体は「自治」と言いながら、地方交付税交付金制度によって財源を総務省に握られ、国や都道府県に言われるがままに事業を実施せざるを得なかった。この長年の慣行が「国頼み」を生み、地方自治体の「自立心」を削いできた。ふるさと納税制度はそうした地方のムードに小さな風穴をあけ、創意工夫が生まれるようになった。

 地方自治体によっては、地元から上がる地方税収よりも、ふるさと納税によって得られる金額の方が大きくなったところもある。ふるさと納税を使って保育園を無料化した北海道上士幌町のような自治体も出てきた。そうした「自立」の芽を摘もうとする霞が関ネガティブ・キャンペーンに惑わされてはいけない。