急速に高まる「安倍内閣崩壊」リスク

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。5月号(4月上旬発売)に書いた原稿です。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→https://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2018年 05 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2018年 05 月号 [雑誌]

 2018年の春闘も5年連続でベースアップ(ベア)が実現した。安倍晋三首相は経済界に「3%の賃上げ」を求めてきたが、ベアと定期昇給だけで3%増を達成した企業はまだまだ少数だったとみられるが、一時金や手当などを加えた年収ベースで3%を上回る引き上げを行う企業は着実に増えている。人手不足も一段と深刻化しており、企業業績の好調が家計を潤し、それが消費となって再び企業の収益を押し上げるという「経済の好循環」の実現がいよいよ期待できそうだ。
 何せ、給与が増えて可処分所得が増加しなければ、人々の財布のヒモは緩まず、消費におカネが回らない。日本のGDP(国内総生産)の6割は消費だから、消費が盛り上がらなければ本格的な経済成長は望めない。そこに、徐々にではあるが、明るさが見え始めているのだ。
 ところがここへ来て、大きな懸念材料が持ち上がった。森友学園への国有地売却にからんだ公文書の改ざん問題である。財務省が認めたところによると国会答弁に合わせて14件の文書を300カ所にわたって書き換え、森友への国有地売却が「特例」であるという表現や、安倍首相の妻である昭恵氏の名前、政治家の名前などが消されていた。財務省の近畿財務局に本省理財局が「指示」して改ざんしていたという、官僚組織では考えられない前代未聞の不正である。
 財務大臣である麻生太郎副総理は実態解明に当たるとして辞任していないが、引責辞任は時間の問題だろう。改ざんが政治家や官邸官僚の指示だったのか、官僚の「忖度」だったのかはまだ明らかになっていない。だが、いずれにせよ安倍首相の責任問題に波及するのは明らかで、内閣崩壊の危機であることは間違いない。
 この「安倍内閣崩壊」リスクが、経済の先行きに大きな影響を与えそうだ。安倍内閣が実施してきたアベノミクスには、実は反対が多い。特に1本目の矢である「大胆な金融緩和」については、財務省日本銀行、民間金融界などの、いわゆる「主流派」には今でも反対論が根強くある。仮に安倍内閣が崩壊すれば、マイナス金利政策や金融緩和といった現在の政策が縮小し、もしかすると真逆の政策を打つ内閣が誕生することになるかもしれない。そうなれば、せっかくデフレからの脱却が見え始めていたものが一気に雲散霧消し、再び円高・デフレ経済へと舞い戻る可能性が出て来る。
 株式市場も安倍内閣崩壊には大きく反応するだろう。安倍首相はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用する国民の年金資産を、国債中心の運用から株式中心の運用へとポートフォリオ(運用資産構成)を見直した。GPIFの株式買い増し自体が株価上昇にも貢献したほか、国民の年金資産を大きく膨らませた。そうした株式市場を重視する政策が安倍内閣の崩壊と共に変わってしまうのではないか、という懸念がある。
 株価の上昇がいわゆる「資産効果」を生んでいることは間違いない。個人が保有している株の株価が上昇することで、実際に利益を上げたり、資産としての含み益が膨らむことで、財布のヒモが緩んで消費に向かう。そんな流れと時計や宝飾品といった高額商品の売れ行きは連動している。
 個人消費は底打ちの気配だが、百貨店での売り上げなどは、訪日外国人旅行者による「インバウンド消費」の効果がまだまだ大きく、日本国内在住者の消費が本格的に増えるかどうかは予断を許さない。
 そんな中で2019年10月からの消費税率引き上げが着々と迫る。それまでに消費景気に火を付けなければ、消費の反動減を吸収できなくなってしまう。
 もちろん、経済を考えて安倍内閣を崩壊させるべきではない、と言うつもりはない。ここまで国会つまり国民を欺くことになった結果責任は重い。内閣支持率の低下はそう簡単には止まらないだろう。
 日本の高級時計需要の行方を考えるうえで、安倍内閣の崩壊リスクを考えておくことが重要になる。