いよいよ、この国で「本格的な給料アップ」が始まる予兆 最低賃金1000円にあと一歩...

現代ビジネスに8月17日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57050

人手不足背景に伸び続く
2020年の東京オリンピックパラリンピックを前に、東京の最低賃金が1000円を超えることが確実になった。

厚生労働省中央最低賃金審議会は7月24日、2018年度の最低賃金の目安を決めた。全国平均で時給を26円引き上げ874円にするほか、東京都は27円引き上げて985円とした。

今後、各都道府県の審議会が、地域別の最低賃金を正式に決め、10月をめどに改定後の最低賃金が適用される。

安倍晋三内閣は中期的な目標として「最低賃金1000円」を掲げている。2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、最低賃金の「年3%程度の引き上げ」を盛り込んでおり、それ以降、全国平均の引き上げ率は3年連続で3%を超えた。このままのペースが続けば、2023年には全国平均で1000円を超す。

それよりひと足早く、東京都の最低賃金は来年2019年には1000円台に乗せることが確実な情勢となった。来年も同率の引き上げが行われれば、最低賃金は1012円となる。神奈川県も今年度の最低賃金は983円になる見込みで、来年は1000円を突破することが確実だ。

東京の都心部を中心に深刻な人手不足が続いており、学生アルバイトの時間給はすでに1000円を超えているケースが多い。外食チェーンなどでは時給1000円未満での募集は姿を消しつつある。

今後、オリンピックに向けてホテルや飲食店などのオープンが相次げば、さらに人手不足は深刻化する見込みで、パートやアルバイトを中心に時給の上昇はさらに続きそうだ。

時給の上昇は地方にも波及している。訪日外国人は日本政府観光局(JNTO)の推計によると、1〜6月ですでに1589万人に達し、2018年は3000万人を超えるのが確実な情勢。アジア諸国からの観光客を中心にリピーターが増えているため、地方都市や地方の観光地に足を延ばす外国人が多くなっている。

このため、地方中核都市はインバウンド観光客を狙ったホテルの新築などが相次いでおり、ここでも人手不足が常態化している。有名観光地の旅館などでも人手が足らないため、時給はジリジリと上昇している。

全国の都道府県の審議会が、国の方針に異を唱えずに最低賃金引き上げに動いている背景には、こうした人手不足と賃金上昇の流れがある。

消費に結びつくか
安倍内閣最低賃金の引き上げを重点政策のひとつとしてきたのは、アベノミクスで企業収益が回復した恩恵を広く働き手に循環させる狙いがある。

第2次安倍内閣が発足する前の2012年の最低賃金は全国平均で749円、東京都で850円だったが、それ以降、毎年引き上げられ、この6年間で全国平均が125円、東京が135円上昇した。

最低賃金の引き上げは、最低賃金に近い時給で働くパートやアルバイトなど非正規社員の待遇改善につながっているのは間違いない。加えて、正規雇用の社員の賃金を押し上げる効果も出始めている模様だ。

アベノミクス開始以降、安倍首相は「経済好循環」の実現を繰り返し訴えている。

企業収益を社員への分配に回すよう求め、安倍首相みずから、経団連などの財界首脳にベースアップの実現を求め、春闘では5年連続のベアが実現している。

また、今年は「3%の賃上げ」という目標数値を経済界に要望し、多くの企業がボーナスなどを含めた年俸ベースで3%以上の増加を実現しつつあるとみられる。

最低賃金の3%引き上げ」と「3%の賃上げ」が政策的に連動していることは間違いない。こうした最低賃金の引き上げや賃上げが、ようなく数字のうえで「給与の増加」として表れ始めた。

厚生労働省が8月7日に発表した6月の毎月勤労統計では、「現金給与総額」の賃金指数が、昨年8月以降11カ月連続で前年同月比プラスとなった。12月までは1%未満の増加だったが、3月には2%増を記録、6月の速報では3.6%の増加となった。

名目賃金にあたる1人あたりの「現金給与総額」は44万8919円で、1997年1月以来21年5カ月ぶりの高水準となった。

パートの上昇率(6月は1.4%)を一般労働者の上昇率(同3.3%)が上回っているのが特長で、賃上げ効果がジワリと広がって来たことが伺える。

業種別では小売業の伸び率が高く、人手不足を背景に給与が増加していることが分かる。

問題は、こうした「給与の増加」が、今後、消費に結びつくかどうか。所得が増えた分、それでモノを買う行動に消費者が出るかどうかだ。

現状では消費は全体的に力強さに欠けており、本格的な回復過程に入っていない。特にインバウンドの外国人消費を差し引くと、百貨店売り上げなどは苦戦を続けており、給与増→消費増という好循環が今後起きるのかどうかが焦点になっている。

2019年10月には消費税率が8%から10%に引き上げられる予定で、それまでに消費が盛り上がらないと、増税の反動で再び消費が落ち込み、景気が悪化することになりかねない。

それだけに、2020年のオリンピックに向けて消費が盛り上がるかどうかが、今後の日本経済を占う大きな試金石になってくる。