「銀行が消える日」がやってくる ついに大手銀行が大規模リストラへ

日経ビジネスオンラインに10月27日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/111600056/

3グループ合計で3万2000人分の業務削減

 ついに大手金融機関が大幅な人員削減に動き出す。みずほフィナンシャルグループ(FG)は11月13日、傘下のみずほ銀行の支店など国内拠点の2割に当たる約100店舗を削減、2026年度末までにグループの従業員を1万9000人減らす方針を打ち出した。また、三菱UFJフィナンシャル・グループも2023年度末までに9500人分の業務量を削減、三井住友フィナンシャルグループも2019年度末までに4000人分の業務量を削減する、としている。

 3メガバンクの言い方はいずれも慎重で、大手メディアも腫れ物に触るかのような扱いだ。三井住友は「業務量を削減」という表現をして、人を削減するわけではない、というニュアンスをにじませる。三菱UFJも同様に「業務量を削減」としているうえ、目標年度は東京オリンピックパラリンピック後の2023年度末だ。

 メディアも、「リストラ」という言葉は封印し、「業務削減」「業務の効率化」といった単語を使っている。せいぜい「構造改革」ぐらいだ。「浮いた人員は都市部の支店を中心に投入し、収益力を取り戻す狙いだ」(日本経済新聞)と、あくまで人切りはしないというムードを作っている。

 メガバンクは新卒学生を大量採用してきた。就職情報誌のランキングによると、2016年4月入社では、みずほFGが1920人、三井住友銀行が1800人、三菱東京UFJ銀行が1300人を採用したという。団塊世代の退職などの穴を埋めるために大量採用しているのだ。「メガバンクに就職できて、これで安泰だ」と思う新卒者も少なくなかっただろう。そんな人たちにとって、今回の「リストラ方針」は大きなショックだったに違いない。

 一見、突然のように見える構造改革方針は、なぜ打ち出されたのか。

 一つはマイナス金利政策などに伴う金利の低下で、銀行業務そのものが急速に儲からなくなっていることがある。日本の銀行の伝統的なビジネスモデルは、広く預金を集めて企業などにお金を貸し、その金利差で儲けるというもの。ところが低金利によって、その金利差がほとんどなくなっている。

伝統的な商業銀行は「構造不況」

 さらに、企業などの資金需要が乏しく、銀行から資金を借りるところが激減している。預金が貸し付けに回っている割合を示す「預貸率」は銀行114行の平均(2016年3月期)で68%に過ぎない。預金と貸出金の差額は何と244兆円に達している。

 景気が悪くて企業の資金需要がない、というわけではない。債券発行やファンドからの投資受け入れなど、資金調達手法が多様化していることで、銀行にお金を借りに来なくなっているのだ。

 つまり、構造的な変化が起きているわけで、金利が上昇し始めれば、銀行の収益力は元に戻る、というわけではないのだ。日本経済新聞の記事の中で、三菱東京UFJ銀行の三毛兼承頭取は「伝統的な商業銀行モデルはもはや構造不況化している。非連続的な変革が必要だ」と発言している。

 だが、ここまでならば、世界的な低金利の中で、欧米の金融機関が直面してきた課題と変わらない。欧米では10年以上前から店舗網の縮小や窓口業務を行ってきた行員の大幅削減などを行ってきた。日本のメガバンク構造改革方針は、10年遅れのリストラ、と見ることもできる。

 問題は、銀行の経営がさらに深刻なことだ。人工知能(AI)やフィンテックと呼ばれる金融技術の進化によって、銀行業務そのものが「消える」可能性が出てきているのだ。特に資金決済など、伝統的に銀行が担ってきた業務が急速に新しい仕組みに置き換わりつつある。店舗でのATMを使った振り込みがパソコンなどを使った振り込みに変わるだけなら、銀行の役割は変わらない。ところが、今進んでいることは、銀行を介さずに携帯電話端末の間だけで決済ができてしまう新しい仕組みの進展だ。国境を越えても関係がないため、高い手数料を取ってきた銀行の外国為替業務なども減っていく。

 さらに、ブロックチェーンと呼ばれるシステム上の帳簿技術やそれを使ったビットコインなど仮想通貨が広がれば、ますます伝統的な銀行業務は消えていく。その変化のスピードは10年単位という話ではなく、数年で景色が一変する可能性を秘めている。つまり、10年後に1万9000人削減といった悠長な話ではないのだ。

 もちろんメガバンク自身が、ブロックチェーンを含むフィンテックを使った新しいビジネスモデルへと転換していくこともあり得る。その場合に最大の障害になるのが、従来の行員だ。紙の伝票を処理し、現金を1円の狂いもないように数える人手を大量に使う仕事は、今も銀行の内部にしぶとく残っている。顧客に窓口で順番待ちをさせ、人間が一つひとつの用件に対応していくスタイルは基本的に19世紀と変わらない。

終身雇用は企業にとって「好都合」

 新卒で銀行に入った人材は、こうした伝統的な業務を「スキル」として叩き込まれるが、10年後、20年後にそのスキルが役立つことはないだろう。仮にそうした人たちの業務を残そうとすれば、銀行自体の収益力はさらに下がり、競争力を失っていく。

 欧米の銀行ならば、消える職種の従業員は「リストラ」で解雇されるのが一般的だ。いわゆる「ジョブ型」の採用形態が一般的な欧米企業では、その人が携わる仕事がなくなれば解雇理由になる。

 ところが銀行を含む日本企業の場合、いわゆる「メンバーシップ型」の採用が一般的なため、担っている職務がなくなったからと言って簡単にはクビにならない。他の職種に転換したり、別の業務を担ったりすることで「社員」としての地位は保たれる。

 一見、働く側にとって有利な仕組みに見えるが、実際は企業にとって好都合な仕組みだった。新卒で採用すれば辞令一枚で全国津々浦々、どこへでも転勤させられる。自分の業務が終わっても、隣の人の仕事が残っていれば手助けするのが当たり前。何せ業務範囲が明確に規定されていないのだ。終身雇用で生涯面倒をみる代わり、企業の意のままに働くという日本型の雇用慣行が続いてきたのだ。

 こうした雇用慣行が今後の銀行経営に大きな足かせになるだろう。今、銀行が直面しているのは、おそらく数百年に一度の大変化だ。銀行のビジネスモデルを根底から見直さなければならない中で、旧来モデルに対応するための人材を抱え続けなければならないのだ。支店業務で「優秀」だった人材が、フィンテックの世界で力を発揮できるとは限らないのに、解雇できないわけだ。

 フィンテックに対応してビジネスモデルを変えられなければ、銀行の収益力はさらに低下することになるだろう。赤字に陥れば、雇用確保などと言っていられなくなる。「業務量を削減」した分、人員も減らすというリストラが本格的に始まるのも、そう先の話ではないだろう。

 従来の「銀行員」が姿を消したとしても、金融業務がすべてなくなるわけではない。また、機械に置き換わらない仕事も必ずある。資産運用の方法についてアドバイスしたり、税務や相続などの相談を引き受けたりするのは「信頼」がベースになければ難しい。機械がとって変わるのは簡単ではない。

 欧州のプライベートバンクは、かつては企業向けの融資なども行っていたが、利ざやが小さくなるとともに貸金業務から撤退、今のような富裕層の資産運用を行うビジネスモデルへと変化していった。顧客を担当するリレーション・マネジャーは原則として交代はなく、生涯にわたって顧客と付き合い、細々とした相談にのる。数年で担当がぐるぐる変わる日本の銀行とは発想が違う。おそらく、こうした業務は簡単には機械に置き換わらないだろう。

 果たして日本のメガバンクは生き残っていけるのか。どんなビジネスモデルに転換し、そこで働く人材はどんな人たちが求められるのか。ここ数年では予想できないほどの大変化が起きる可能性もありそうだ。