東証は東芝の犠牲者

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 東京証券取引所は2017年10月12日、東芝株について「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」と「監理銘柄」から「指定解除」した。東芝の内部管理体制について「相応の改善がなされた」と認めた結果としている。これで、2015年に発覚した東芝粉飾決算に関する東証の「審査」は一段落。東芝は粉飾や内部管理体制の不備を理由とした上場廃止からは免れたことになる。
 さらに、10月24日には東芝が臨時株主総会を開催、半導体事業の売却承認を取り付けた。売却額は2兆円ともいわれ、2018年3月末までに売却が完了すれば、現在の債務超過が解消される見込み。2期連続の債務超過東証上場廃止基準に定められており、これからも逃れることになる。
 東芝株主総会前に、自社が東証に提出した内部管理体制の「改善報告」を公表した。臨時株主総会に報告する決算については、監査法人から限定付きながら適正意見を得たが、内部統制については「不適正」との意見を監査法人に付けられていた。「改善報告」を総会前に公表することで、株主の理解を得ようとしたのだろう。
 東芝が公表した「改善報告」では、これまで終始一貫「不適切会計」としてきたものを「不正会計」と改めて表記している。大手メディアには「反省の意思を明確にするため」と説明しているようだ。「不適切」と言い張ることで、あたかも「悪いことはしていない」と言いたいかのように受け取られていた。
 金融庁から処分される際も、有価証券報告書虚偽記載と認定されており、粉飾つまり不正会計が長年にわたって行われていたことが公になっている。それでも東芝は「不適切」と言い続けたが、ようやく東証に対しては「恭順の意」を示したわけだ。
 だが、東芝が本当に反省しているのかは疑わしい。というのも同社のホームページのトップにはいまだに「不適切会計」という言葉が使われている。さらには「不正会計問題」ではなく、単なる「会計問題」と記載しているところもある。あくまで「不正」という言葉は使わないという意思がうかがえる。上場廃止を回避するために、東証に対してのみ「不正会計」という言葉を使っているようなのだ。
 そんな東芝をなぜ東証はあっさり許したのか。東証のルールでは、特注銘柄の指定は最長1年半。その期限は2018年3月の段階で切れており、審査でクロかシロ、つまり上場廃止か上場維持かを決める必要性に迫られていた。
 東証としては、株主などに大きな影響を与える上場廃止という選択肢はなかったのかもしれない。東芝のように大勢の株主がいて、銀行や生命保険会社が大株主になっているような老舗企業を上場廃止にすることは当初から想定していないのではないか。
 どこからも文句の来ないような小さなベンチャー企業はさっさと上場廃止にするが、老舗企業は守り抜く。そんなダブルスタンダードなのだろう。
 東証自体、株式を上場している営利企業だ。取引所は本来、そこで売買する投資家が最も尊重すべき「客」のはずだが、どうやら上場して賦課金を払ってくれる企業を「客」と思って優先しているのだろう。そんな利益相反を避けるために、上場廃止などの審査は東証自主規制法人が行うことになっており、理事長以下7人の理事の過半である4人は独立性の高い外部理事ということになっている。
 だが、実際には理事長は金融庁長官の天下り東証プロパーの3人の理事は金融庁には逆らえない。外部理事の1人は公認会計士だが、所属する日本公認会計士協会金融庁の監督先で、役所の方針に異を唱えることなどできない。つまり、金融庁の胸先三寸で上場廃止の可否が決まるのが実情なのだ。しかも議事はまったく公開されていない。役所の審議会は議事録が公開されているから、それ以下である。
 東証金融庁の意向を忖度し、不正を犯しても大企業だからといって優遇していれば、東証という市場の「質」が問われることになりかねない。取引所が上場廃止のルールを設けているのは、腐ったリンゴの売買を見逃せば、腐ったリンゴを買わされた投資家が市場自体を信用しなくなるからだ。あそこの市場は安心して売買ができる、ということにならなければ、市場の繁栄はあり得ない。東証東芝を守って、自らの信用を犠牲にしていることになる。