メガバンク・ショック! いよいよ就活が「冬の時代」になりそうだ… 大卒内定率「9年ぶり前年割れ」の衝撃

現代ビジネスに連載されている「経済ニュースの裏側」に12月5日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68930

先行き不透明

景気の先行きに不透明感が強まる中で、企業の採用姿勢にも変化の兆しが見えてきた。文部科学省厚生労働省が共同でまとめた2020年3月卒業予定者の2019年10月1日現在の就職内定状況によると、大学(学部)卒予定者は76.8%と、前の年に比べて0.2%低下した。

大卒内定率は、リーマンショック後の業績悪化で企業が採用を絞った2010年の57.6%を底に8年連続で上昇を続け、2018年には77.0%と過去最高を記録していた。内定率はまだまだ高水準なものの、前年を下回ったのは9年ぶりのことだ。

また、短期大学卒業予定者の内定率も40.6%と2.2%低下、専修学校専門課程の卒業予定者の内定率も60.4%と0.9%低下しており、就職戦線全体に変化の兆しが出ていることを示した。

背景には企業の採用姿勢が変化していることがある。米中貿易戦争など世界経済の先行きに不透明感が強まるなど、業績の伸び悩みを見込んで採用を抑えめにする企業が出てきた一方、業界の構造転換を見越して、採用を抑制している企業も出始めた。また、新卒一括採用ではなく、中途採用などより多様な人事制度に変えていこうという動きもある。

新卒一括採用の行き詰まり

中でも典型がメガバンク三菱UFJ銀行は期初計画で、2020年入社の新卒採用数を前年比45%減の約530人としたほか、三井住友銀行は10%減の約600人、みずほ銀行も2割程度減らすとした。

金利で収益環境が悪化していることもあるが、スマホ決済などの新サービスが広がるなど、これまで独占的に行って収益源にしていた決済業務での競争激化に直面している。店舗の削減やATM(現金自動預け払い機)の縮小などにも乗り出しており、従来型の事業モデルが大きく変化し始めている。

こうした業容転換に合わせた人材採用が必要になっているが、IT(情報技術)やコンピューターシステムに通じた人材を雇うには、新卒一括採用では難しくなっている。能力が一定の大卒生を一括して採用し、社内教育で時間をかけて育てていくというスタイルが難しくなっているのだ。

新卒一括で大量採用をしてきたメガバンクの方針転換は、就職戦線に大きな影響を与えている。「他社よりも早く新卒者を押さえようという過熱気味の空気が幾分やわらいだ」と大手製造業の人事担当者も語る。何が何でも他社に負けないように急いで採用する、というムードは消えつつあるようだ。

人材確保のために必要なこと

それでも、高水準の就職内定率が示すように、人手不足は簡単には収まりそうにない。大学の定員拡大などによって、1980年代には40万人以下だった「大卒者」の数は、90年代半ばに50万人を超えた。

人口減少によって働く若者の数自体が大きく減っているように思われがちだが、実際には大卒者数は高水準を維持している。雇用者数が過去最多を更新し続けている背景には、働く高齢者や女性の増加と共に、大卒者が高水準を維持していたことがある。

だが、これもそろそろ限界が来ている。人口減少が一向に止まらないのだ。2016年の出生数は97万6978人となり、1899年に統計を始めて以降、初めて100万人の大台を割り込んだ。今後、若年層の減少が鮮明になるとともに、大卒者も減少していくことになる。

企業はどうやって有能な人材を確保していくのかが大きな課題になってくるわけだ。新卒一括採用という従来の採用だけで、事業を行うのに十分な人材を確保できると考えている企業は少数派になってきた。

産休や育休制度の拡充で採用した女性社員を「逃さない」のは当たり前になってきた。せっかく経験を積んだ働き盛りの女性を退職させるのは会社にとって大きな損失である。もはや「寿退社」や「出産退社」といった言葉は死語になりつつある。

総務省の2019年10月の労働力調査によると、15歳から64歳までの女性の就業率は71.8%と過去最高水準に達している。

いよいよ崩れる日本型雇用

それでは、今後、就職活動が本格化する現在の3年生の就職戦線はどうなるのだろうか。2021年3月卒業予定者ということになる。東京オリンピックパラリンピックも終わった後の入社ということになる。

企業は景気の減速をかなり気にし始めている。特にサービス産業では、2019年10月からの消費増税の影響が予想以上に大きくなっていることから、消費減退が深刻化することを懸念している。

オリンピックが終わると訪日外国人の数も頭打ちになり、いわゆるインバウンド消費にも陰りが出て来るのではないか、と見る関係者が少なくない。そんな中での採用活動が「慎重姿勢」になることは十分に予想できる。

長期的な人手不足や新卒者の減少が見えているだけに、優秀な新卒者はすぐにでも採用したいというのが企業の本音だが、全体的に新卒者の能力が落ちているという声も聞く。採用予定枠を充足しないまま、その年度の新卒採用を打ち切る企業も少なくない。中途採用の枠を増やしていく企業が増え続けるに違いない。

2020年10月時点の新卒内定率はどうなるか。今年の76.8%に比べて激減することはないにせよ、低下傾向が続くと見るべきだろう。1つの会社に入ったら定年退職まで一生安泰という日本型雇用が崩れ始めて久しいが、今後数年で、それが誰の目にも明らかになっていくに違いない。