「入国在留管理庁」が来年4月発足へ 本格的な外国人労働者の受け入れへ体制整備

日経ビジネスオンラインに8月31日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/083000075/

労働分野の開放で、就労目的外国人が増える
 外国人労働者を本格的に受け入れるための体制整備が進む。政府はこのほど、法務省入国管理局を格上げして、「入国在留管理庁」(仮称)を設ける方針を固めた。来年4月に発足させる。従来の入国管理業務に加えて、入国後の外国人労働者の在留管理や生活支援を行う。海外先進国の政府が持つ「外国人庁」「移民庁」と同等の役割を担うことになる。

 安倍晋三首相は「いわゆる移民政策は取らない」という姿勢を崩していないが、その一方で、深刻な労働力不足に対応して、これまで「単純労働」だとしてきた分野にも外国人労働者を受け入れる方針を決めている。来年4月から「建設」「農業」「宿泊」「介護」「造船」などの分野を対象に、「特定技能評価試験」(仮称)に合格すれば就労資格を得られるようにする。

 こうした労働分野の開放によって、就労目的で日本に入国する外国人が一気に増加するとみており、入国管理体制の強化が待ったなしになっていた。報道によると、新設する「入国在留管理庁」は長官をトップに次長と審議官2人を置くほか、「出入国管理部」と「在留管理支援部」を設ける方向で検討している。職員も現在より約320人増員し、5000人を超す組織に衣替えする。秋の臨時国会に関連法案を提出する。

 これまで入国管理業務は在留資格の水際でのチェックなどに重点が置かれ、不法滞在の摘発などは後手に回っていた。また、入国後の生活支援や日本語教育などについては文部科学省などに任せきりだった。格上げしてできる「入国在留管理庁」は、今後、外国人の受け入れ環境の整備について、警察庁経済産業省厚生労働省文部科学省、外務省、内閣府など関係省庁や、自治体との調整機能も担うことになる。

 深刻な労働力不足を背景に、様々な業界や地方自治体から外国人労働者の受け入れ拡大を要望する声が上がっている。安倍内閣はこれに応える格好で、数年前から首相官邸に関係する省庁の連絡会議を置き、外国人の受け入れ方法について検討してきた。

 今年6月に閣議決定した「未来投資戦略2018」では、外国人材の受け入れ拡大について踏み込んだ方針が示された。

留学生の就職支援にも取り組む
 「第4次産業革命技術がもたらす変化」のひとつとして、「『人材』が変わる」と指摘、「女性、高齢者、障害者、外国人材等が活躍できる場を飛躍的に広げ、個々の人材がライフスタイルやライフステージに応じて最も生産性を発揮できる働き方を選択できるようにする」として、外国人材の活躍を長期方針に盛り込んだ。

 その上で、「外国人材の活躍推進」という項を設け、「高度外国人材の受入れ促進」、「新たな外国人材の受入れ」、「外国人受入れ環境の整備」に分けて具体的な施策を列挙している。

 例えば、高度外国人材の受け入れ拡大については、外国人留学生の受け入れ増や、留学生の日本の中堅・中小企業への就職促進などに取り組む方針を強調。「高度外国人材の受入れ拡大に向けた入国・在留管理制度等の改善」も掲げた。

 また、新たな外国人材の受入れとして、「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材に関し、就労を目的とした新たな在留資格を創設する」と明記した。受け入れる業種については、具体的な明示を避け、「生産性向上や国内人材の確保のための取組(女性・高齢者の就業促進、人手不足を踏まえた処遇の改善等)を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受入れが必要と認められる業種」として幅を持たせた。

 閣議決定前の新聞報道では前述の通り、「建設」「農業」「宿泊」「介護」「造船」の5分野と報じられたが、コンビニエンスストアなど「留学生」を大量採用している「小売り」分野などから、外国人労働者の受け入れ解禁に強い要望があることから、玉虫色の表現となった。
 もっとも受け入れに当たっては、政府が基本方針を示すこととした。

 「受入れに関する業種横断的な方針をあらかじめ政府基本方針として閣議決定するとともに、当該方針を踏まえ、法務省等制度所管省庁と業所管省庁において業種の特性を考慮した業種別の受入れ方針(業種別受入れ方針)を決定し、これに基づき外国人材を受け入れる」

 これまで、経済産業省内閣府は外国人材受け入れ拡大に積極的な一方、法務省は慎重姿勢をとり続けていると批判されてきた。内閣の方針に従って、法務省と関係省庁が調整することを盛り込んだ。今回、法務省の「権益」とも言える入国管理局を格上げすることとしたのは、法務省のメンツを保つ一方で、姿勢の転換を求めたとも言えそうだ。

 その上で、「未来投資戦略」では、「新たに受け入れる外国人材の保護や円滑な受入れを可能とするため、的確な在留管理・雇用管理を実施する」とし、「きめ細かく、かつ、機能的な在留管理、雇用管理を実施する入国管理局等の体制を充実・強化する」とした。

 これを受けて、安倍首相は7月に入国管理組織の抜本的な見直しを指示。今回、入国管理局の「庁」への格上げが決まった。

 「未来投資戦略」の外国人材活躍促進では、「外国人の受け入れ環境の整備」を打ち出しているのも特徴だ。

2025年までに「50万人」の受け入れを目指す
 まず、日本語教育の強化を指摘している。「外国人児童生徒に対する日本語指導等の充実」を掲げた上で、「日本語教育全体の質の向上」が必要だとしている。また、就労環境の改善なども掲げた。

 その上で、「総合的対応策の抜本的見直し」を行うとして、こう書いている。

 「外国人材の受入れの拡大を含め、今後も我が国に滞在する外国人が一層増加することが見込まれる中で、我が国で働き、生活する外国人について、多言語での生活相談の対応や日本語教育の充実をはじめとする生活環境の整備を行うことが重要である」

 「外国人の受入れ環境の整備は、法務省が総合調整機能を持って司令塔的役割を果たすこととし、関係省庁、地方自治体等との連携を強化する。このような外国人の受入れ環境の整備を通じ、外国人の人権が護られるとともに、外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組んでいく」

 安倍首相は頑なに「移民政策は取らない」としているものの、この文章を読む限り、実質的な移民政策に踏み込んでいるとみてもいいだろう。今後、日本で働き、生活する外国人が増えていくことを前提に、2006年に政府が作った「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」を抜本的に見直すとしている。

 これまで日本は「高度人材」には門戸を開く一方で、「単純労働」とされてきた分野については受け入れを拒絶してきた。しかし、人手不足が深刻化する中で、留学生や技能実習生などの枠組みを使った事実上の受け入れが現場では進行していた。こうした「なし崩し」の外国人受け入れは、後々、問題を引き起こすことが先進国の過去の例でも示されており、外国人受け入れについて「本音」の対応をすることが求められてきた。

 「いわゆる移民政策ではない」としながらも、外国人の本格的な受け入れ解禁に舵を切ったとみていいだろう。

 法務省がまとめた2017年末の在留外国人数は256万1848人。1年前に比べ7.5%、約18万人も増加した。5年連続で増え続けており、256万人は過去最多だ。厚生労働省に事業所が届け出た外国人労働者は約128万人で、これも過去最多を更新している。

 来年から始まる新たな在留制度によって政府は2025年までに5分野で「50万人超」の受け入れを目指すとしているが、実際にはそれを大きく上回る増加になる可能性もある。

 今後数年のうちに、様々な分野で働く外国人が増え、日本の職場も社会も大きく変わっていくに違いない。